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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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615/917

◆その612 姫2

 サマリア公爵家のレティシアが眠たい目を擦っている頃、一つ部屋を隔てた正規組の部屋では、リーガル国の王女が既に準備を整えていた。

 髪の毛をまとめて縛り、薄い化粧と紅。たとえ実技があろうとも、貴族の身だしなみはこれまでと変わる事はない。

 ルナ王女が紅茶が入ったカップに口を付ける。丸いテーブルを囲うのは四人の達人。


ヒミカ殿(、、、)フミカ殿(、、、)ミミカ(、、、)殿、ヨミカ(、、、)殿、今日も宜しくお願いします」

「「はい、ルナ王女殿下」」


 一糸乱れぬ挨拶に、ルナ王女が目を丸くする。


(何度聞いても違和感しかありません。けれどこの【ヒフミヨシスターズ(、、、、、、、、、)】の錬度は聖騎士団員にも劣らない。いえ、おそらくそれ以上。ミケラルド殿の忠実な部下という話だけれど、彼は彼女たちの出生を教えてくれなかった。……気になる。いっその事、聞いてみるべきでしょうか)


 ヒフミヨシスターズの顔がぐりんとルナ王女に向く。


「「何かお困りでしょうか?」」

「ひっ!? あ……いえ、その――」

「「――どうぞ何なりとお申しつけください」」

「えーっと……あなた方はどうやってそんな力を得たのでしょうか? 私も力を求める者。皆さんの実力はどうやって培ったものなのか知りたいのです」


 これを聞き、ヒミカがヨミカと、フミカがミミカと見合う。


「どうしましょうヒミカお姉さま」

「そうねヨミカ」

「どうしましょうフミカお姉さま」

「そうねミミカ。ヒミカお姉さまに聞いてみましょう」

「「どうしましょうヒミカお姉さま」」


 やがて、フミカとミミカもヒミカを見る。

 そして、長い沈黙の後、ヒミカが口を開く。


「………………困ったわね」

「「っ!?」」


 三人の妹たちは、頬に手を当てて困るヒミカを見て驚きを露わにする。


「ヒミカお姉さまがお困りよ、ミミカ」

「ヒミカお姉さまがお困りです、フミカお姉さま」

「ヒミカお姉さまがわからないのであれば、我々にわかるはずもない」

「いえ、そうではないのよヨミカ」


 ヒミカがヨミカの言葉を止める。


「っ! ではどういう事でしょう?」

「ルナ王女殿下のご質問に答えていいのかどうか。わからないだけです」

「「おぉ」」


 抑揚のない三人の驚き。

 ルナ王女はこれを気まずそうに見ている事しか出来ない。


「「確かにその通りですね、ヒミカお姉さま」」


 三人の妹の同意を得られた事で、ヒミカはコクリと頷きルナ王女を見る。

 そして、懐から一冊の冊子を取り出しルナ王女に見せたのだ。


「ルナ王女殿下、こちらのミケラルド式指令書を確認し、ご希望の質問に答えられるか検討したいと思うのですが、いかがでしょう?」

「ど、どうぞ……」

「「おぉ」」


 抑揚のない四人の驚き。


「許可が出ましたね、ヒミカお姉さま」

「えぇ、早速読んでみましょう、フミカ」

「ルナ王女殿下からの指示があった際の『きゅうあんどえい』は、確か二十四ページ目です、ヒミカお姉さま」

「ありがとう、ミミカ」

「あ、そこです! そこに書いてありますよ、ヒミカお姉さま」

「えぇそうね、ヨミカ。…………なるほど、わかったわ。ミケラルド様はこう仰ってるわ。『ルナ王女殿下からの指示で困った際は、ルナ王女殿下護衛の大前提に従え』とあるわ」

「「……ルナ王女殿下護衛の大前提」」


 一糸乱れぬ四人のルナフォーカス。


「あ、あの……そ、そんなに見ないでください……」


 頬を赤らめ、困り顔のルナ王女をよそに、フミカが言う。


「ルナ王女殿下護衛の大前提は二ページ目です、ヒミカお姉さま」

「流石ね、フミカ」

「第一項に書かれています、ヒミカお姉さま」

「素晴らしいわ、ミミカ」

「第一項です、ヒミカお姉さま」

「大事な事だから復唱は必要よね、ヨミカ。……なるほど、わかったわ。大前提には『ルナ王女殿下の健康と精神衛生を最大限配慮する事』とあるわ」

「「ルナ王女殿下の健康と精神衛生を最大限配慮する」」


 一糸乱れぬ四人のルナフォーカス。


「だ、だからそんなに見つめられても……!」

「ルナ王女殿下は、我々が先程の質問に答えなかった場合、お困りになるでしょうか?」

「うぇ?」

「「とても良い質問です、ヒミカお姉さま」」


 三人の妹たちが声を揃える。


「護衛対象がお困りになるのであれば、我々は答えなければなりません。いかがでしょうか」


 四人から向けられる八つのじーっとした視線。

 その視線を向けられ、少し考えた後、ルナ王女はこう言った。


「……そうですね、その質問に答えて頂けないと、今日の授業中その事が気になってしょうがないと思います」


 してやったりという顔をしたルナ王女だったが、その絶妙なタイミングで部屋にノック音が響く。

 扉の外から聞こえるミケラルドの声。


『ルナ王女殿下、ルークです』


 聞きたい事が聞けないともどかしさを露わにするルナ王女。


「んもうっ」


 そう言いながら立ち上がり、ルナ王女は鞄を持って扉を開ける。


「おはようございます」

「「おはようございます」」


 ミケラルドとレティシアの挨拶の後、ルナ王女の背に四人の声が掛かる。


「「ルナ王女殿下」」

「はい?」


 ルナ王女がくるりと振り返り、ヒフミヨシスターズが言う。


「「我々は元闇人(やみうど)。【(とき)の番人】に仕えし【失われし位階(ロストナンバー)】。どうかお気をつけていってらっしゃいませ」」


 四つのお辞儀が揃うと共に、ルナ王女から零れるたった一言。


「ぇ?」


 本日の授業中、ルナ王女の気が散漫だったのは、そんな理由があったとかなかったとか。

次回:「その613 クマの場合」

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