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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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605/917

◆その602 選抜されし女1

「はぁ! やぁっ!」


 目にも止まらぬ鋭い斬撃。

 残像さえ見せる程の素早い動きは、見る者をあっと言わせる。そして、その攻撃を受け続ける者も。

 聖騎士学校の放課後、勇者エメリーは事務員から一通の手紙を受け取った。差出人は冒険者ギルド。

 エメリーが手紙を読むとそこには――、


「とても良い動きです。正直、嫉妬を覚える程ですよ」


 汗を拭うのは剣聖レミリア。

 エメリーの攻撃を受け切るものの、痺れる手に困り顔を浮かべている。


「あ、ありがとうございます!」


 同じく汗だくになるエメリー。しかし、その顔にはまだ余裕が見える。それを見て、レミリアがようやく痺れが治まってきた拳を強く握る。


(本当に強くなった……動きを追うので精一杯。ミケラルド殿がSSS(トリプル)になった今、SS(ダブル)は私と魔皇(まこう)ヒルダ殿……そしてエメリー(、、、、)さん。ヒルダ殿の実力は未だわからないけれど、エメリーさんは既に私の先を行っている……)


 ミケラルドの手によって闇ギルドが崩壊したものの、その手柄はオリハルコンズのもの。ナタリー、メアリィはランクBへ上がり、エメリーはSS(ダブル)へと昇格。これによりオリハルコンズの名は世界的に有名なパーティとなった。

 休憩していた聖女アリスがエメリーを見ながら言った。


「それにしても、まさかリィたんさんが辞退(、、)するとは思いませんでした。成績順ならミケラルドさんだったんじゃないですか?」


 そんなアリスの何気ない質問にエメリーが答える。


「あー、えっと、ミケラルドさんは別口で呼ばれてるんです」

「別口?」


 コトンと小首を傾げるアリス。

 それに答えたのはレミリアだった。


「胸を貸す側ですよ」


 そう言われ、アリスは得心したようにポンと手を叩く。


「そっかぁ、ミケラルドさん一年でSSS(トリプル)まで上がっちゃいましたからね。そう考えると【開会の儀】に呼ばれるのはエメリーさん、か」


 三人が話していたのは、冒険者ギルドが毎年開催する武闘会について。

 そして、エメリーに届いたのは、今年の【開会の儀】の選抜通知。

 開会の儀とは、昨年の優勝者が冒険者の(いただき)であるSSS(トリプル)冒険者の胸を借り、模擬戦を見せるという武闘会の人気デモンストレーションである。

 そのSSS(トリプル)に呼ばれたのが、ミナジリ共和国の元首ミケラルド・オード・ミナジリ。

 本来これに参加し、挑戦するのは昨年の優勝者であるリィたんである。しかし、リィたんはこれを辞退し、繰り上げで選抜されたのがエメリー……という事になっている。


「よいしょ……あぁ疲れたー」


 アリスの隣に腰を下ろしたのは、その二人を良く知るミナジリの創設メンバーの一人――ナタリーだった。


「お疲れ様です」

「うん、ありがとう……」


 ぐったりと疲れを見せるナタリーに、くすりと笑うアリス。


「ナタリーさん、もしかして今年の参加を狙ってるんですか?」

「んー、出来たらいいとは思ってるけど、多分無理。ミックのおかげでランクBにはなったけど、今の私ってそれだけだし……」


 少し不満そうに口を尖らせるナタリー。

 パーティとしての功績を考えれば、ナタリーとメアリィのランクアップは妥当である。しかし、その実力はと聞かれれば、ランクBの()()である。

 だからこそナタリーはランクに見合う実力を付けるため、こうやって放課後の訓練に余念がないのだ。


「じゃあ来年を?」

「うん、来年なら挑戦出来ると思うってミックが言ってた」

「ミケラルドさんが? ナタリーさん的にはどうなんです?」

「んー、わかったらいいとは思うんだけど、私そういうのよくわからないから……」


 ナタリーは年相応に困ったようににへらと笑った。

 すると、レミリア、エメリーも休憩のため、二人のところへやって来た。

 二人を見て、ナタリーが思い出したように言う。


「あ、さっきの選抜の件だけど」

「あぁ、聞こえてましたか」


 レミリアが反応し、ナタリーが更に続ける。


「リィたんが辞退したのは、エメリーさんを際立たせるためだって」

「私……を?」


 自身を指差すエメリー。


「ミックは相変わらずミックだからね」


 それだけで片付けようとしたナタリーに、アリスが眉をひそめる。


(それはつまり、存在Xが暗躍しているという事では?)


 アリスとレミリアはナタリーの言葉の意味に気付いたが、エメリーはそうではなかった。しかし、()えて伏せたという事はわかったのか、エメリーは声を落としてナタリーに聞いたのだ。


「もしかして……リィたんさんがSS(ダブル)に上がらなかった理由とも関係してます?」

「んー、少しね」

「それってどういう?」

「そもそも、リィたんがSS(ダブル)に上がれたのに上がらなかったのは、他のランクS冒険者からの不満を零させないためでもあるんだよ。世間的に見ても冒険者ギルドのオリハルコン贔屓(びいき)に見えちゃうのはどうしようもないけど、オリハルコンズのメンバーの一人が昇格を断ったって事実が重要みたいで……ん~難しいな」


 顔を難しくさせたナタリーに、レミリアが言う。


「そういえば、冒険者ギルド併設の酒場でも、冒険者たちがそんな論争をしてましたね。確かにリィたん殿がランクSに留まれば、他のランクS冒険者は文句が言えない。名実共に揃っているから」

「そうそう、で、エメリーさんもそれが揃ってるからSS(ダブル)に上がれたって訳。とりわけ、連合軍の中で魔族四天王と戦って生き残ったって実績は、SS(ダブル)に上げるのには十分だったってミックが言ってた」


 いつしか、その談合のような会話は、四人の頭を寄せ合いながら深まっていくのだった。

次回:「◆その603 選抜されし女2」

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