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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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586/917

◆その583 収穫

「はぁはぁはぁ……」


 幾多の攻防、幾多の奸計、そのどれをも凌駕するミケラルド。

 肩で息をするエレノアの魔力が残り少ない事は明白。

 しかし、圧倒的優位に立っているはずのミケラルドが攻めきれずにいたのは、そのエレノアに未だ精神的余裕が見えたからだ。


「わかりませんね、一体何を隠してらっしゃるんですか? こちらとしては一気にいきたいんですけどねぇ?」


 顎を撫でながらエレノアに問うミケラルド。

 しかし、エレノアは口を固く結んだまま開かなかった。


「あれ程楽しかったお喋りも、もう終わりですか……とても悲しいですね」


 やれやれと肩を(すく)め、ミケラルドは更に続けた。


「では、私が妥協します。こういう時、取り逃がすと大変ですから」


 そう言った直後、ミケラルドはエレノアの視界から消えた。


「くっ!?」


 (かろ)うじて目で追えたものの、エレノアの背後に回ったミケラルドは、その魔力壁を貫く一撃を放った。

 一枚、また一枚と魔力壁を壊し、正面に出したエレノアの両の手に届いたミケラルドの拳。その威力凄まじく吹き飛ばされるエレノア。


「カハッ!? こ、このっ!」

「おやおや、綺麗な顔が台無しですよ」


 言いながら浮かぶミケラルドがニタリと笑う。

 エレノアはそんなミケラルドの足下を見て驚きを露わにした。


「っ!? それは、エアリアルフェザーッ!?」

「便利そうなので真似させてもらいました」


 ミケラルドが空を飛ぶ術は、【サイコキネシス】で何かしら物体を浮かべ、その上に乗る事で移動が出来ていた。

 ミケラルドはグラムスのようにパーシバルと共に過ごす余暇はなかった。従ってミケラルドはパーシバルにソレを教わる事は出来ない。

 だからこそ、エレノアはミケラルドの真価に驚いたのだ。

 戦闘の最中(さなか)、ミケラルドはその余力を以てエレノアの【エアリアルフェザー】を見様見真似したのだから。


(何という巧みな戦闘。これが、スパニッシュ殿が招いた災厄……! 今の一撃、私へのダメージ以上に魔人殿との距離をとらせた。私と魔人殿を近付けさせないつもりなのでしょう……!)

「あなたと魔人を近付けると危ないですからね」


 ニコリと笑って言ったミケラルドに対し、魔族四天王であるエレノアがギョッと驚く。


(……心まで読みますか。見通しが甘かった……最早(もはや)、闇は機能しなくなると言っても過言ではない。彼の術数(じゅっすう)は私を大きく上回る。早急(さっきゅう)に魔界に戻って――)

「――ほい」

「っ!」


 今度は正面からミケラルドが斬り込んでくる。


「くっ、いつの間に剣を!?」

「ちょっとエレノアさんの血が欲しくて」

「そう簡単にやられる私ではありません」

「いえ、もう頂きました」

「っ!?」


 自分の頬から流れる血を触覚で感じ取ったエレノア。

 剣に付着したエレノアの血を、ミケラルドがペロリと舐める。


「んー、ちょっとした背徳感ですねぇ。あまり見ないで頂けますか?」

(……見えなかった、この私が……!)


 ワナワナと震えるエレノアに対し、ミケラルドの視線が鋭くなる。


(やはり……そういう事なのか。俺の予想通りなら――)


 発動する【血の呪縛】。しかし、エレノアに変化は見られない。


「――……困りました。まったく操れませんね」


 ガックリと肩を落とすミケラルド。

 その答えはエレノアが持っていた。


「……元々、我々魔族四天王は魔王様のモノ。一介の吸血鬼などに操れるものではない」

「口調、変えました?」

「無駄を省いたと言って欲しいわね」

「効率主義には賛成しますがね。ま、能力は得られたので及第点ってところですか」

「それだ」


 エレノアがミケラルドを指差す。


「はい?」

「魔王様だけが扱える【血の連鎖(ブラッドコントロール)】……一体何故貴方に使えるのか?」

「それはスパニッシュ(ちちうえ)に聞いてくださいよ。勇者の肉体、魔王の魔力、外の世界の魂。私の要素なんてそれだけです。原因究明してくれるなら逃がしてあげますよ? 報告は手紙で結構です。私、美人との文通に憧れを持っているので」

「……嘘ね」

「後者は事実なんですけどね」

「逃がす気はないという事」

「まぁ、そうとも言います」


 笑みを浮かべ合ったミケラルドとエレノア。


(どうやら奥の手を出すようだな)

「魔人殿」


 遠目で戦う魔人がエレノアを見る。


「すまぬな」

「……構いません、エレノア殿の命が最優先」


 直後、エレノアは闇魔法【闇空間】を発動した。

 その中から出て来たものは――一枚の羊皮紙。


「マジックスクロール? 何をする気だ!?」


 ミケラルドが動こうとすると、エレノアはもう一方の手で小さな手鏡を握り潰し割ったのだ。

 瞬間、吹き荒れる強大な魔力。雲すら吹き飛ばす魔力の波はミケラルドの足を止めさせた。


(今のはまさか、魔王の遺物(レリック)――【地獄の水鏡】!? 脱出用に使ったのか!?)


 ニヤリと笑ったエレノア。その手に持つマジックスクロールが発光し、発動を得る。

 次の瞬間――エレノアはミケラルドの視界はおろか、イシス山脈から姿を消したのだった。


「今のは……転移魔法?」


 ミケラルドが顎先に手を添え考えるも、答えは出なかった。


「ミック、手伝え!」


 直後、木龍グランドホルツからの声が届く。

 エレノアを守る理由がなくなった魔人が山へ急降下を始めたのだ。


「無駄ですよ。逃げに徹されれば、我々に彼を追い詰める手段がありません」


 降下した魔人がニヤリと笑い大地へと潜って行く。


「なるほど、エレノアのあの魔力は魔人の魔力を回復させる目的もあったのか。それに加え【地泳(ちえい)】……か。なるほど、追うのは難しいようだな」


 木龍がミケラルドの言葉に納得し、肩の力を抜く。


「仕損じたか……」

「収穫はありました。仔龍(アスラン)の救出、闇への大打撃、エレノアの正体、魔王の遺物(レリック)の使用……それに――」


 ミケラルドは自分の拳を見つめ、再度続けた。


「それに、敵は魔族四天王だけじゃないって事も……」

次回:「その584 前準備」

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