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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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582/917

その579 人工盆地

 水龍リバイアタンのリィたん。地龍テルース。彼女たちに出来て木龍に出来ないはずがない。龍族の変態――(すなわ)ち人化した木龍グランドホルツは、キツネ目の短髪クールビューティーだった。

 周りの龍族と比べれば高齢だと思っていたが、龍族の中では老けという概念がないのかもしれない。なんとも羨ましい種族である。

 とはいえ、俺も吸血鬼。軽く千年は生きるってもっぱらの噂である。

 さて、西へ西へとやって来て、見つけたのこの人工盆地。

 山を綺麗にスライスしたようにまっ平な平原。

 これはおそらく魔人の仕業かもしれない。あの魔力と実力があれば可能だろう。


「何をジロジロ見ている?」

「考え事をする時、綺麗な人を見ていると捗るもので」

「難儀な性格だな」


 的確()つ冷静。

 木龍グランドホルツか。木龍のままならばそうなんだろうけど、この人化した状態だと呼びにくい事この上ない。今度リィたんにあだ名でも付けてもらうか? いや、もしかしたら木龍が嫌がるかもしれない。そうだ、地龍テルースの仔龍アスランを助けて、まず地龍テルースを味方に付けよう。

 そして、炎龍(ロイス)とリィたん、それに地龍親子に木龍を説得してもらおう。うんうん、何事も根回しは必要だ。

 ならばまず周囲の探索から始めるべき――ん?


「どうやらここまで来れば探すまでもないようだな」


 人工盆地には平原もあれば生い茂った木々もある。

 その中をガサガサと探していた木龍が、山側に洞窟の入り口を見つけたのだ。

 俺と木龍は見合い頷く。


「龍族の色濃い魔力……間違いなくアスランはここにいる」


 俺の風魔法【呼び戻しの風】ですら捉える事の出来る大きな魔力。

 SS(ダブル)の域は出ないものの、炎龍(ロイス)よりかは強い魔力。

 魔力の気質としては確かにリィたんや地龍テルース、そして木龍グランドホルツに近い。……ん? 気質……?

 俺が首を傾げると、木龍は珍しく微笑を浮かべた。


「ふっ、ちゃんとモノにしたじゃないか」

「え、これがそうなんです?」

「魔力の性質まで見抜ける【幽元(ゆうげん)の風】。呼び戻すのではなく、呼び起こす。今その場に魔力があったかのように感知出来る優れた魔法だ。この短期間で会得するとは並外れたセンスと言える」

「あ、あははは……そりゃ光栄ですね」

「だが、その才能は敵を引き付ける」

「……そりゃ災難ですね」


 一気にテンションが下がった俺は、トホホと溜め息を吐き洞窟の中へ入って行く。入り組んだ道中だったが、【幽元(ゆうげん)の風】を覚えた俺と木龍の前ではただの一本道だった。

 アスランの魔力が道を教えてくれるのだから。

 上へ下へ、右へ左へ。


「ミック、光を消せ」


 光源魔法を使っていた俺に、木龍が言った。

 身を伏せた俺たちが岩の陰から見たのは――、


「あれがアスラン……!」


 土色の肌をしたゴツゴツとした体表。

 以前、地龍テルースが龍化した時の姿に酷似している。


「そうだ、テルースの仔龍。未来の地龍だ」


 大地に身を伏せ、力なく倒れているように見える。

 ん? アスランの身体の下に何かある……?

 あれは……マジックスクロールか。


「……なるほど、無数の【マジックドレイン】のマジックスクロールを地面に貼り、常時アスランの魔力を吸い続けているのか。動けないはずですよ。そして――」


 俺が言うと、木龍がその先に続けた。


「――あぁ、見つからないはずだ。魔力そのものを放出出来なくしている」


「拘束するより簡単で、閉じ込めるより残虐……ですね」


 過去の魔力を感知する【幽元(ゆうげん)の風】がなければ、発見すら困難。


「ミック、エレノアなる女の魔力は?」

「……あそこからですね」


 分裂体の魔力を感じ取った俺は、アスランの身体の奥にあった異質な扉を指差した。岩の中に作られた人工的な部屋。おそらく【土塊(つちくれ)操作】の魔法を使って造ったのだろう。


「……ふむ、さてどうすべきか」


 木龍はそう呟きながも静かに前へ歩き始めた。


「え、ちょちょちょ……!」


 俺は木龍を止めるため、その後を追う。

 木龍はアスランの身体にポンと手を載せ言った。


「辛かったろう。今出してやる」


 微かな息を漏らしながら、薄く目を開けるアスラン。

 衰弱というより魔力欠乏の状態に近い。やはりこのマジックスクロールが問題だな。まぁ、思った通り外部からなら簡単に破壊出来るし、すぐに楽になるだろう。


「ふん」


 木龍が風魔法で全てのマジックスクロールを破壊した後、俺に言った。


「ミック、闇空間だ」

「えぇ……」

「そこが一番安全、だろう?」

「まぁ、確かにそうですね」


 俺は闇魔法【闇空間】を発動すると、木龍がぐったりしているアスランをそこへ投げ入れた。


「ざ、雑……」

「ここからはもっと雑だ」

「さっき、真剣に『……ふむ、さてどうすべきか』とか言ってたじゃないですか」

「考えた結論が……コレだ」


 何故か、木龍グランドホルツが異質な扉に向かって手をかざした。


「え……え? マジっすか?」

「大マジだ。ミック、合わせろ」


 本気だ。本気でやる気だ、この人。


「あの中、調査したかったんだけどなぁ……」

「全てを無に帰す方が相手にとって痛手と判断したまでだ」

「うーん、確かに。私だったらあの中には色々重要なモノを置くだろうし……」

「やらんなら私だけでやるぞ?」

「やります、やりますってば」


 ったく、だからアスランを闇空間に入れたのか。

 俺は観念し、覚えたばかりの【(きわみ)ブレス】を放つべく、カパっと大口を開けたのだった。

ようやくアスランを発見・x・


次回:「その580 開口一番」

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