表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

578/917

◆その575 オルグ尾行作戦2

「なぁ、こんな事して俺たち何か役に立ってるのか?」


 聖騎士団長のオルグを尾行し始めてから三十分程。

 ハンがラッツに言った。キッカ含む三人は堂々と道の真ん中を歩き、ホーリーキャッスルに向かうオルグの背を追っているだけである。


「我々が尾行したところでオルグ殿()にはすぐにバレる。だからこそ冒険者ギルドに向かう道中のみの尾行なんだ。事前にキッカがオルグ殿()に説明しているが故に不可解に思われない行動。これが重要だ」


 と、言いながらラッツは歩きながら小さな冊子を読んでいる。


「それ、あの人(、、、)からナタリーちゃん経由もらったやつ?」


 ハンが聞くと、ラッツが冊子をハンに向けて言う。


「そうだ、興味深いぞ。読むか?」

「いやいや、俺がそういう小難しいのダメなの知ってるだろ?」

「ふむ、面白いと思うのだがな」

「それより、さっきの話だよ。最初からリィたんに任せてもらえばいいだろう?」

「それは違う。これは俺たちの実績になるからな」

「あん?」


 ハンが首を傾げると、隣を歩いていたキッカがその説明をした。


「考えてもみなさいよ、私たちは既にオリハルコンズの一員でしょ?」

「そうだな」

「一緒に任務をこなした実績、これが重要なのよ」

「ランク上げるのに有利なのはわかるけど、それは低ランクの話だろ? Aランクの俺たちには必要ないんじゃないか、って話だ」

「うっ」


 キッカがその指摘に押し黙る。

 くすりと笑ったラッツがそこへ助け船を出す。


あの人(、、、)はそう考えてないという事だろう」

「え?」


 キッカが小さな驚きを見せ、ハンがポカンと口を開ける。


「マジかよ」

「ランクAからSへ上がるには、確かに武闘大会での優秀な成績が必要だ。だが、その武闘大会の成績だけで決まるとも言い難い」

「それってつまり……」

「この任務の実績は考慮し得る内容だという事だ」

「なんかちょっと(ずる)く感じるなぁ~」


 ハンが難しい顔でそう言うと、キッカが人差し指を立てて言った。


「そりゃ狡王(こうおう)なんて言われてるんだから、そうなるでしょ」

「キッカ、咬王(こうおう)だ」


 ラッツの指摘にも、


「そう言ったつもりよ」


 キッカは平常運転だった。

 そんな会話も三人が冒険者ギルドに着いたところで終わる。

 そして、その冒険者ギルドの扉から示し合わせたかのように現れた集団。


「あ、お疲れ様ー!」


 そんな明るい声でキッカの手をとり言ったのは、先の話題の人物、咬王ミケラルドですら頭の上がらない人物――、


「あ、ナタリー(、、、、)ちゃんお疲れー。何か依頼?」


 言いながらキッカが奥にいる面子を見る。

 ナタリーの後ろのいたのは、メアリィ、クレア、レミリア、そして勇者エメリーと聖女アリスである。当然の事ながら、彼らもオリハルコンズのメンバーである。


「ううん、これからアイビス様とお茶なんだー」


 ナタリーの肯定のような否定。

 剣聖レミリアが肘を抱えて言う。


「アリス殿に聞きました。何でもオリハルコンズの最初期に三人はアイビス様に会ったらしいですね?」

「なので、仲間外れはダメだと思いますって私が言ったんです」


 微笑みながらメアリィが言う。それに同調し、うんうんと頷くクレア。


「な、成リ行きデそウなリまシた」


 ぎこちなく、どことなく棒読みなエメリー。


「いいじゃんいいじゃん、アイビス様すっごい優しい方だよ。楽しんでおいでー」


 キッカがそう言うと、ナタリーたちは三人を横切って外へ出た。

 アイビス皇后がいる場所とは、(すなわ)ちホーリーキャッスル。

 遠目に見える聖騎士団長オルグが向かっている場所に他ならない。

 キッカが冒険者ギルドに入るも、ラッツとハンは中へ入らなかった。

 正確には、止まってナタリーたちの背中をぼーっと見てるハンを、ラッツが待っているという状況である。


「ハン、どうした?」

「いや、女ってすげーなーって思っただけ」


 ハンの言葉を拾うも、ラッツはこの場に(とど)まるもう一人の人物に目を向けていた。


「ふっ」


 笑みを零し、ラッツがハンに言う。


「そう一括りにしてはいけない。そうじゃない女性も必ずいる。そういう事だ」

「え?」


 ハンはラッツに振り返るも、ラッツは既に冒険者ギルドの扉を開き中へ入って行くのだった。

 再び首を傾げるハン。しかし、ラッツ同様、ハンは別の場所で視点を止める。

 そこに立つのは複雑な表情をし、何やらブツブツ言ってる聖なる女。


「おかしい。何かがおかしいんです……」

「ア、アリスちゃん……?」

「そもそもなんなんですか、この台本は? 何でアイビス様の台詞(せりふ)もあるんですか? 『おほほほほ』って、アイビス様がこんな風に笑う訳ないじゃないですか。それにこの私の台詞……『それが、聖女として当然の務めです』ってどこで使うんですか? この文末『(キリッ』っていうのは何ですか? 新しい文学か何かですか?」


 止まらぬ愚痴のような悲痛の呟きに、ハンが乾いた笑いを浮かべる。

 そして、アリスが持つ台本へ目をやると、大きく書かれた脚本担当の名前。

 そこには、『ぺんねーむ:そんざいえっくす』と丸みを帯びた字で書かれていた。

 台本をくしゃくしゃにしながら、アリスは「もうっ!」とだけ言い放って、ナタリーたちを追うのだった。

 そんなアリスの悲壮感漂う背中を見送るハン。


「男もすげーのかもな」


 そう言うしかなかった。

次回:「◆その576 オルグ尾行作戦3」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ