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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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577/917

◆その574 オルグ尾行作戦1

 聖騎士団の団長――神聖騎士オルグ。

 法王国の武の象徴であり、彼を崇拝する騎士、聖騎士学校生は多い。

 しかしながら、当の聖騎士団には彼を慕う派閥はない。それは、同じく神聖騎士にして聖騎士団の副団長――(とき)の番人シギュンの手によって、魔族の手によって消滅に追い込まれたからと言えるだろう。

 この聖騎士学校では月に一度、神聖騎士であるオルグの特別授業がある。

 別段特別な授業という訳でもなく、月末に一度、生徒たちの成長を確認する場といえる。二学年の後半になれば団長のオルグにその実力をアピールしようと躍起になる生徒もいるが、一学年の初期ともなれば、まだその自覚のない生徒が多い。しかし、それは例年の話である。

 今年の一学年は勇者エメリー、聖女アリス、水龍リバイアタンのリィたんなど、例年の卒業生を超える人材の宝庫とも言える。さらに言えば、聖騎士学校にまで入学する冒険者の意識は高く、向上心も高い。これに触発される正規組もおり、講師をするオルグの目には異常な事態とも言えた。

 更に言えば、その原動力はミナジリ共和国の元首ミケラルド・オード・ミナジリにあるという噂まである。


「はぁ!」

「やっ!」


 実力の近い者同士の模擬戦。

 元ゲオルグ王の息子ゲラルドと、剣聖レミリアの打ち合いが続く。

 二人の剣風(けんぷう)は周囲をも巻き込む。ランクEにも満たない正規組すらいる中で、二人との実力差を肌に感じてしまえば、それは脱落のきっかけになってしまうと言える。

 それは、聖騎士団員の実力者を見た一学年が、あまりの実力差に「そこは別世界」だと自覚し、退学を決意した過去があるからだ。

 しかし、それもまた例年の話。正規組は二人の剣圧に圧倒されながらも、その試合場を放棄せず、食い入るように見ているのである。

 どんな事でも構わない。何か一つでもいい。その日の内に成長出来るのであれば。

 SS(ダブル)の実力者レミリアとゲラルドの実力は、冒険者組の入学ラインであるランクAから見ても別世界である。誰一人として目を離さない異様な空間に、神聖騎士オルグは顎を揉みながら唸る。


(我が聖騎士団にすらない気迫。これだけの気概、一体どこで培ったのか。やはりあの噂は真実? いや、いくら他国の元首であろうと私はそれを鵜呑(うの)みに出来る立場にない……。しかし今日は朝からどうもおかしい。この妙な違和感は何だ?)


 オルグの違和感は正しかった。

 それは、授業を終えたオルグが、事務処理を終え、ホーリーキャッスルに戻るため聖騎士学校の正門へ向かった時の事だった。


「む?」


 オルグの視界には、一人の女が立っていた。

 魔法使いの風貌をした若き乙女。実力はランクAなれど、手に持つ武器(つえ)は青白く輝いていた。女はオルグの接近に気付き、ニコリと微笑(ほほえ)む。


「あ、オルグ様ー!」


 元気よく手を振る女にオルグが言う。


「む? 君は確か……キッカ(、、、)君だったかな」

「わ~! 覚えててくださったんですかっ? とても嬉しいです!」


 パァっと笑みを見せるキッカ。


「優秀な人材は目に留まるものだよ」

「わー! ありがとうございますっ!」

「それで、こんなところで何を? 見たところ出掛けるようだが?」


 授業が終われば外出も可能。

 無論、学校へ申請は必要である。


「あ、これからパーティで冒険者ギルドからの依頼を消化しに行くところです」


 冒険者の本分は冒険。それを縛る事は聖騎士学校でも出来ない。

 それ以上に、優秀な冒険者がいるおかげで法王国の治安が良いという事実もある。


「ほぉ、その飽くなき向上心は我が聖騎士団も見習わねばならないな」

「そんなそんな。でも嬉しいですっ」

「うむ、励んでくれたまえ」


 神聖騎士に相応しい威厳と風格。そんな表情でオルグが言い、キッカに背を向ける。遠ざかるオルグの背を見たキッカの後ろから耳慣れた声が届く。


「おい、今の誰だよ?」

「神聖騎士のオルグ殿……ではないのか?」


 耳慣れた声は二つあった。一つは軽い口調、もう一つは誠実そうな口調。


ラッツ(、、、)、俺が言ってるのはそっちじゃねえ。オルグ殿と話してた方だ」

「ではキッカだな。仲間の顔を見忘れたか、ハン(、、)


 そう、後ろから現れたのは、キッカの古い馴染みであるハンとラッツだった。


「そんな仲間すら知らねえ顔してたっつってんの、俺は」

「何を言ってる? 店で値切る時のキッカはいつもあんな顔をしているぞ」


 淡々と言うラッツの言葉に驚愕するハン。


「マジかよ」

「マジだ」


 そんな二人の会話を、プルプルと震えながら聞いていたキッカは、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ラッツとハンの頭をポカリと殴ったのだ。


「っってぇええええええ!?」

「痛いぞキッカ」


 当然、力加減の差はある。


「何をネチネチネチネチとくっちゃべってるのよ! さっさと行くわよ!」


 キッカが正門の外を指差す。しかし、指差していたのは外ではなく……オルグの背(、、、、、)

 ぷんすこと怒り、ぶんぶんと腕を振りながら歩き始めるキッカ。

 その背を指差すハンがラッツに言う。


「見ろ、あれがいつものキッカだ」

「違うぞハン」

「あ?」

あれも(、、、)いつものキッカだ」


 そう言いながらハンを横切って行くラッツ。

 そんなラッツの背をぼけっと見るハン。しばらく考えた後、ハンはその視線を空に向けた。


「なるほど、そういう考え方もあるか」


 そう言った後、ハンは二人を追いかけるのだった。

次回:「◆その575 オルグ尾行作戦2」

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