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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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◆その573 新たな任

「広報……ですか?」


 闇ギルドの闇人(やみうど)――(とき)の番人シギュンは、小首を傾げ聞いた。ここは執務室。眼前には法王を冠した法王国の長――法王クルス。隣には騎士団長のアルゴスが立っている。

 法王クルスは面倒臭そうな顔を浮かべながら困ったように言った。


「世論というのを切り捨てるには、時代が進み過ぎた。民の声に耳を傾け、民の疑問を解決するのも我が仕事だ。面倒な仕事かもしれないが、是非シギュンに頼みたい」

「私でよろしければ法王陛下のため粉骨砕身の思いで働く所存にございます。けれど、あまり耳馴染みのない言葉に困惑しております」

「確かに、それは一理ある。だが案ずるな。世に起きる様々な事件や事故を調査するのが国の役目。その調査報告や進捗状況を知りたいのは人の道理というものだ。そうであろう?」

「はっ、正に」

「民の代表者たちに質問の場を設け、その答弁をしてもらうのがシギュンの役目だ」

「左様にございましたか。しかし、オルグ団長を差し置いて……となると」

「安心しろ。既にオルグに話を通しておいた」


 この発言に対し、ピクリと反応するシギュン。


「団長に……?」

「オルグは実直で優秀。当然、それは私も理解している。しかし、時と場合によって話が変わってくる」

「と、仰いますと?」


 シギュンが聞くと、法王クルスが残念がるように言った。


「あの強面を民の前に立たせてみろ。遠目で見ればオルグは英雄然と見えるかもしれない。が、しかしだ。互いに向き合う質問の場となればそうではない。民が質問出来ると思うかね?」

「お戯れを」

「ははは、副団長のシギュンには些か困る質問だったか。いや、すまない事をした。まぁつまりそういう事だ。シギュン、お前は見目麗しく弁も立つ。広報の担当として最適であり、それをオルグも認めているという事だ」

「法王陛下の寛大なる配慮、非常に嬉しく思います」

「何、法王国は他国に対して威厳と率先して導くリーダーシップを見せなければならない。オルグやこのアルゴスでは出来ない事を頼れるのは、シギュンしかいない。是非とも民の声に耳を傾けてやってくれ」

「法王陛下のお心のままに……」

「記念すべき第一回の会見は来週の頭だ。何か困った事があればいつでも私を頼りたまえ」

「はっ」

「うむ、今後も励んでくれ」


 法王クルスがそう締めると、シギュンは深く頭を下げ、執務室を出て行った。

 シギュンの足音が消えると共に、法王クルスが音声遮断の魔法を発動する。


「ふぅ」


 肩の力がどっと抜けた法王クルスがそう零し、背もたれから背をずりおとした。最早(もはや)台座に背を預けていると言っても過言ではない状況にアルゴスが零す。


「陛下、いくら私の前でも限度がありますぞ」

「いや~、あの女の凄いところはアレだな」


 天井を見上げ、シギュンについての意見を述べる法王クルス。


「えぇ、オルグ殿の話以外は淡々と陛下と話しておりました」

「まぁ、オルグの話で反応を見せたのは良い兆候だ」

「と、仰いますと?」

「シギュンはオルグの対応に対し反応したのではない」

「では一体?」

「オルグの対応を違えさせた自身に対して反応したのだ」


 法王クルスのその言葉を聞き、アルゴスは言葉に詰まった。

 それは、それ程までに驚くべき事だったのだ。


「法王国の神聖騎士オルグを完全に駒として見ている。何とも恐ろしき女よ。だが、言うなれば奴は自分しか見ていないという事になる」

「自分以外の全てが……駒」

「上に立つ者として当然の資質ではある。が、それに胡坐(あぐら)をかけば感情という波に覆われ、流される。危険だ。早々に潰さなければならない」


 アルゴスはこれに対し息を呑む他なかった。

 そんな重い空気を変えるため、法王クルスはすんと鼻息を吐いてから話題を変えるよう言った。


「そうだアルゴス、あっちの件(、、、、、)はどうだ?」

「問題ありません。蟻の子一匹通さぬよう、我が騎士団が見張っております」


 アルゴスからそう報告を受けた法王クルスは、手元の紙を眺める。


「ミケラルド商店に新部門設立……か」

「恐ろしき御方ですな」


 アルゴスが言うと、法王クルスがようやく正しく椅子に座り言った。


「ふぅ……ミックが味方でいてくれて本当に良かった」

「大事になさいませ。ミケラルド殿ならば、法王陛下の生涯の友人となるでしょう」

「ふふふ……お前、アイツが四歳児だって事忘れてないか?」

「語弊を恐れず申し上げるのであれば……」

「ん? 何だ、言ってみろ」

「法王陛下も七十四歳児ではありませんかな?」


 そんなアルゴスの本気とも冗談ともとれない言い方に、法王クルスは思わず噴き出して笑ったのだ。


「ぷっ、はっはっはっはっは! そうだな、確かにそうとも言える。いや、まさかアルゴスにそんな事を言われる日が来るとは思わなんだ。お前もミックに毒されてきたな?」

「さて、どうでありましょうな」


 くすりと笑ったアルゴスに、ニヤリと笑う法王クルス。

 そしてクルスは手元の資料に今一度目を通したのだ。


「ミケラルド……探偵事務所(、、、、、)か」


 そう零し、再び笑みを灯す法王クルスだった。

次回:「◆その574 オルグ尾行作戦」

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