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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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572/917

◆その569 闇の集会4

 ミケラルド・オード・ミナジリの分裂体だったエメラは、魔人の一刀両断の後、闇色の蒸気を発し消えていく。

 すると、エレノアがデュークに言った。


「デューク殿、見事な助言でした」

「いえ、元は私が招いた不始末とも言えます。カンザス殿にも申し訳ない事をしました」


 そう言うと、ミケラルドに血を吸われた者たちが顔には出さぬものの、心に動きを見せたのだ。


(化け物が化け物を動かす自作自演。相変わらずじゃのう。しかし、この動きに一体何の意味が?)


 サブロウが、ミケラルドの意図を考え、


(エレノアに攻撃したところで殺されるのは明白。アタシだってやらないよ。地龍の居場所を探るためだったんだろうけど、こりゃ一体どういう事だい?)


 ナガレもその疑問を解けずにいた。


(魔人に分裂体を斬らせた事で意味を成した? いや、そうとは考えにくい。分裂体であれば呪いの類を付与する事も出来ない)


 ノエルもわからないまま。

 しかし、三人は理解した。これだけはわかっていたのだ。


((いずれにしても、何の策もなく分裂体の正体をバラすヤツじゃない))


 ミケラルドの謝罪を受け取ったカンザスは肩を(すく)め言った。


「まぁ、事なきを得たのでよしとしましょう。任務失敗は残念だけどね。あ、その代わり、今度何か奢りたまえ」


 気取って言ったカンザスに怒りはなかった。

 それは、ミケラルドが自ら責を負ったからだろう。

 エレノアが再度ミケラルドに言う。


「ミケラルドの狙いは一体何なのでしょう?」


 それは、ある意味デュークとしてのミケラルドへのテストとも言えた。


「当然、エメラを攫われないよう動いたと見るべきなのでしょうけど、どうもそれだけではない気がします。これだけの一手を打てるのであれば、その先を考えない訳がない……となると、我々の拠点の把握でしょうか。今の分裂体の実力を考慮してもここで事を起こすのは愚策。しかし、分裂体はエレノア殿に襲い掛かった。これはミケラルドの意図を隠すための行動だったかと」

「結構です。私もそう考えました。今日限りを以てここを放棄します。次なる拠点は失われし位階(ロストナンバー)に通達します。それまでは、各々現在の任務を遂行するように」

「ほぉ、ここを放棄するか」


 サブロウが言うと、エレノアが答える。


「元より今日の本題はそこにありました。こればかりは皆さんに直接お伝えした方がいいですからね」

「……ふむ、確かに。今回の事といい、パーシバルがミナジリ共和国に付いたのであれば、ここは既にバレている可能性が高いという事か。それでも向こうが手を打ってこないという事は……」

「えぇ、我らの力を測りかねている」

「測っている段階とも言えるが?」

「その通りです。魔人殿の力とミケラルドの力が拮抗している今、彼らがここに来るのは愚か。だからこそ、我々も今動かねばならないという事です」

「なるほどのう。烏兎怱怱(うとそうそう)……我らが胡坐(あぐら)をかいて好き勝手やれる時代は既に流れたという事か。相わかった、連絡を待つ」


 サブロウがそう言って消えると、他の(とき)の番人もそれに合わせ闇に消えていく。最後に残ったのはデューク・スイカ・ウォーカーのみ。


(……よし。よしっ。よし!)


 強く拳を握ったミケラルドは、安堵した表情で微笑(びしょう)を浮かべた。それは、ミケラルドが入念に行ってきた準備の結果とも言える。


(ま、問題はこの後……か)


 ホッと一息吐き扉を出ると、ミケラルドを待っていた存在がいた。

 ミケラルドの首の位置には、【聖加護】の宿った剣。

 ピタリと止まったミケラルドは、剣の主を横目に見る。


「魔人殿……これは一体どういう事ですか?」

「それはこちらが聞きたい。何故あの時エレノア殿を守らなかった?」

「あの時? ミケラルドの分裂体が襲い掛かった時の事でしょうか?」

「それ以外に何がある」


 そう、ミケラルドの席は魔人の隣。その魔人の奥にエレノアがいたのだ。

 ならば、ミケラルドが魔人より先に動けたのは明白。魔人はミケラルドが動かなかった事を不審に思ったのだ。


「それはおかしな話です」

「何?」

「そもそも我々は対等な間柄。エレノア殿の指示にこそ従いますが、守るという義理もないはず。それにあの分裂体の実力は高く見積もってもSS(ダブル)程度。我々ならば軽くあしらえない方がおかしい。エレノア殿にそんな判断が出来ないとも思えませんが?」

「よく回る口だな。どこぞの元首を思い出す」

「なので、おかしな行動をしたのは私ではなく魔人殿です。夜も遅いのにくだらないいざこざはごめんですよ」


 ミケラルドは、そう言いながら魔人の剣を()えて摘まみ(、、、)避けたのだ。強敵である魔人に対し背を向けるのは愚行。正に一撃必殺の領域。しかし、それでもミケラルドは背を向けた。

 魔人の視線は今もまだミケラルドに向いている。一歩、また一歩と遠ざかるミケラルド。魔人の疑念は募るものの確信には至らない。そんなミケラルドと魔人の駆け引きは、やがて終わりを迎える。

 そう、魔人の必殺の領域をミケラルドが出た事によって。

 法王国の空の下、ミケラルドが天を仰ぎ息を吸い、大地に向かって言った。


「いっっってぇえええええええええええ!!」


【聖加護】を受けた剣に触った代償。

 その悲痛の叫びは虚空へと消えていくのだった。

次回:「その570 ナタリーの危惧」

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