◆その568 闇の集会3
ノエルの報告を受け、サブロウが笑った。
「はっはっは、冒険者ギルドもついに重い腰を上げたか」
そしてナガレが荒い鼻息を吐く。
「ふん、手綱を握れると思ってランクSにしたのが失敗だよ」
これに対し、エレノアと魔人が一瞬視線を交わす。
これに気付けたのはミケラルドだけだった。
(……なるほどね)
「ノエル殿、報告に感謝します。これは非常に由々しき事態と受け止めるべきでしょう」
エレノアの言葉にノエルが首を傾げる。
「それはどういう事でしょう?」
「SSSになったとすれば、ミケラルドはSSのダンジョンに入れるようになったという事。現在、SSダンジョンの報酬が何であるか判明していませんが、ミケラルドの実力であれば――」
「――なるほどのう。SSダンジョンの報酬がミケラルドの実力を底上げするものだとしたら、我々の立場が危うくなる、か」
サブロウがエレノアの先を続けるように言う。
(いや、違う。おそらくエレノアと魔人が問題視しているのは俺の【血の連鎖】という能力。これを二人が知ってるとなると、スパニッシュからその情報がもたらされている。エレノアが実は魔族四天王の【魔女ラティーファ】という線……断言こそ出来ないが濃厚だとは言える)
「……メディック殿、何か変わった事は?」
「魔皇ヒルダがミケラルドと接触したという情報はあったが、それ以降何か変わったという事は特にない」
「サブロウ殿は?」
「後進の育成以外にワシは何もしとらん」
「結構です」
そしてエレノアが次に見たのはミケラルドだった。
「次にミナジリ共和国についてです。デューク殿」
「はい」
「パーシバルの後に刻の番人となったデューク殿です。とても優秀な人材で、水龍、剣神、剣鬼たちと交戦し、生き残るだけの実力を有しています」
「ほぉ?」
隣に座る魔人からの視線が鋭い。
ミケラルドもそれに気づいていたが、敢えてそれには反応を示さなかった。
「けっ」
ナガレの悪態は、ミケラルドの正体を知っているからだろう。
「デューク殿には現在ミケラルド・オード・ミナジリ個人の調査をお願いしています」
それを聞き、ミケラルド正面付近に座るシギュンの目の色が変わる。
(あの目は私怨があるな。ほんと、ミケラルドってヤツは困ったヤツだよ。あんな綺麗で性格が悪そうな人に一体何をしたのだろう)
「カンザス殿」
「地龍を使ってミケラルド商店の要――エメラを捕獲したはいいけど、あちらさんの動きが消極的な気もしますね」
「ナガレ殿はどう思われます?」
「知らないよ。そっちの坊やのが詳しいんじゃないのかい?」
ニヤリと笑ったナガレがミケラルドを見る。
(中々のキラーパスじゃないか、糞婆め……ならこっちにも考えがあるぞ?)
「デューク殿、いかがでしょう?」
「そうですね。一番の問題はミケラルド・オード・ミナジリに転移魔法がある事。ミナジリ共和国でのミケラルドの動き、法王国でのミケラルドの動きを見るに、一つの疑問が浮かびました」
「というと?」
「実の母親が誘拐されたというのに、娘であるハーフエルフのナタリーの心が悲痛に染まっていない点です」
「ミケラルドにそれだけの信頼を置いていると?」
「いえ、攫ったエメラが本当にエメラなのか、そこに焦点を当てるべきでは?」
この発言に、カンザスが静かな目でミケラルドを見る。
「それはどういう事だい? エメラまでの地龍の誘導は君に依頼したはずだけど?」
「それすらもミケラルドの策だったとすれば? という話です」
ここで、ミケラルドはエメラが偽物である可能性を自ら暴露したのだ。
カンザスがエレノアを見、それにエレノアが頷く。
カンザスは闇魔法【闇空間】を発動し、その中からエメラに化けたミケラルドの分裂体を引きずり出したのだ。
「こ、ここは……?」
そんな分裂体の姿を見るミケラルド。
(ここまで食事と水だけ与え、闇空間の中で生活させた事を考えると、俺が考えてた通りにはならなかったって事。だが、どうして? もしかして別の闇空間に入れたのか? なるほど、カンザスの性格から考えてそれはあり得るな。盲点だったぜ、ちきしょう)
「これが偽物だと?」
カンザスが言うと、魔人が立ち上がった。
そして、剣を引き抜きながら分裂体に近付いたのだ。
魔人が剣を振り下ろそうとした瞬間、
「キエェ!」
ミケラルドの分裂体は跳び上がり、壁に張り付いたのだ。
「カァーッ!」
四つ足で壁を這う化け物のように。
(エメラさんの姿なのがシュールだな……)
その鋭敏な動きに驚愕した刻の番人たちが驚き立ち上がる。
「何じゃこやつは!?」
サブロウの疑問に魔人が答える。
「先の一戦でミケラルドは魔族四天王二人に対し分裂体を二体送り込んだ。もしやと思ったが、このエメラもそうだったようだな」
「ケーッケッケッケ!」
壁を縦横無尽に駆け回る分裂体に眉を顰めるシギュン。
「なんておぞましい……」
(どの口が言ってるんだろう? でも、少し楽しくなってきた)
そんなミケラルドの分裂体遊びも、狙いがあっての事。
壁を駆けまわり、分裂体が跳び付くように狙ったのは――【エレノア】。
それを庇うように立ったのが魔人だった。
そして、魔人の一刀の下……分裂体は真っ二つに引き裂かれたのだった。
(よし!)
そんなミケラルドの胸中を、この場にいる誰もが見抜く事は出来なかった。
次回:「◆その569 闇の集会4」
※次で集会が終わります。




