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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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その566 闇の集会1

 驚いた訳ではない。

 彼は、俺が部屋に入るなり自然と立ったのだ。

 目を点にし、口を開け、俺だと認識するまでの一瞬――何故か青ざめた顔を見せた。


「戻りましたよ、アーダイン(、、、、、)さん」


 そんな俺の呼びかけにハッとしたアーダインは、ガタンと椅子に腰を下ろした。いや、今のは崩れ落ちたと言うべきかもしれない。

 直後、脂汗を見せたアーダインがようやく息を漏らした。


「……ま、まさか本当だったとはな」

「何がです?」


 俺が聞くと、アーダインは顔を揉んでから言った。


「とぼけるな。【血の連鎖(ブラッドコントロール)】の話だ」

「あぁ、ね。はい」


 つまり、事前に情報を与えたというのにも拘わらず、アーダインの理解は得られなかったのか。だとしたらアーダインが俺をSSS(トリプル)にした理由としては……なるほど法王クルスの言葉を信じたという事か。

 まぁ、さっきアーダインも「半信半疑」って言ってから俺を送り出したもんな。


「しかも、その様子じゃSS(ダブル)ダンジョンをクリアしてきたな?」

「え、何でわかったんですか?」

SS(ダブル)はおろか、SSS(トリプル)相当のモンスターでも今のミックには傷一つ付けられないからだよ」

「答えになってない気がしますねぇ……」

「お前が部屋に入った時な」

「は?」


 あぁ、さっき青ざめてた時か。


「一瞬、脱出経路の確認をした自分がいた」

「まるで私がモンスターみたいな口ぶりですね」

「お前がモンスターじゃなくて安堵してるところだ」

「本人を目の前に言う言葉じゃないですねぇ……」


 困った表情をした俺だったが、アーダインは何かを諦めたかのように溜め息を一つ吐いた。

 そして、ギラリとした視線でいつもの厳格なアーダインに戻ったのだ。


「まったく、困ったヤツだ。……しかし、これで心置きなくSSS(トリプル)の仕事を依頼出来る訳だ」

「いや、今超絶忙しい時期なんですけど……」

「だったらその忙しい時期をさっさと乗り越えろ。剣神イヅナですら手に余る仕事がいくらでもあるんだ」


 なるほど、確かに俺をSSS(トリプル)にした時点でアーダインの――冒険者ギルドの選択肢が増えたという事か。Z区分(ゼットくぶん)というランクは冒険者ギルドにはない。ならば、Z区分(ゼットくぶん)に該当する仕事はSSS(トリプル)の仕事。イヅナやパーシバルがクリア出来ない仕事が山ほどあったのだろう。

 まぁ、ただでさえパーシバルは除名処分になっているから、イヅナやオベイルにクリア出来ても手の回らない仕事はあるのだろう。


「明日の夜……だったな?」

「えぇ、明日の夜です」

「決着はつけられそうか?」

「いえ、魔人の目を掻い潜っては難しいでしょう。けど、大きく一歩前進出来るでしょうね」

「ふん、そうであってもらわねば困る」

「まったく、困った人ですね」

「ディックがお前に懐柔された理由がよくわかる」

「人聞き悪いですねぇ」

「人たらしと言うべきか。何ともおかしな魔族もいたものだ」

「それは自覚があります」

「これは、冒険者ギルドの長として言うべきではないのだろうが――」

「へ?」

「――ありがとう。感謝している」


 そんなアーダインの言葉が、やけに耳に残った。

 そう、冒険者ギルドと冒険者は互いに対等。契約を交わし、互いに納得した上で仕事をする。礼儀こそ必要だろうが、企業のトップがそんな心のこもった感謝を易々と吐いては、冒険者ギルドの看板に傷が付く。

 総括ギルドマスター室という密室だからこそなのだろう。だがしかし、この言葉は俺の心に深く残ったのだ。

 俺はそれから、SS(ダブル)ダンジョンの詳細説明を報告し、冒険者ギルドを後にした。

 SS(ダブル)ダンジョンの報酬についてはアーダインにこう報告した。

 ――――まだ手に入っていない、と。

 アーダインは首を傾げていたが、俺に有無を言わさぬ雰囲気があったのか、それ以上を突っ込んでこなかった。これはきっとある意味信頼と言えるのだろう。

 ミケラルド商店から転移し、戻ったのはルークの部屋。

 気疲れした身体を休め……明日に備える。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 起床し、マスタング講師の授業を受け、日が暮れる。

 ナタリーの部屋に挨拶に行った俺を待っていたのは、ミナジリの初期メンバー。


「ジェイルさん、来てたんですか」

「弟子が夜遊びに行くと聞いてな。一言注意をしに来ただけだ」


 珍しくジェイルから冗談が出て来た。

 これも彼なりの激励なのかもしれない。


「ちゃんとしてればバレないから、うん。頑張ってね、ミック!」

「任しといて、ナタリー」


 ナタリーはその激励を真っ直ぐ伝えてくれた。

 何とも嬉しい見送りではないか。

 そしてリィたんは――、


「むんっ!」


 何故か俺にハルバードを振り下ろした。

 まったく、心配性だなぁ。

 俺はそれをトンと指先でおさえ、リィたんに言った。


「駄目だよリィたん、こんな場所で」

「「っ!?」」


 ハルバードをよけ、顔を覗かせリィたんを見る。

 一瞬呆けていたリィたんだったが、すぐに顔を戻し俺を見る。


「なるほど、『気を付けて行って来い』という言葉は無粋だな」


 ホッとしたような表情で。

 ミナジリメンバーに見送られ、俺は法王国の中枢に潜む闇の総本山へと向かう。

 闇の扉を開き、待っているのは十人の――(とき)の番人。

 中央奥に座るエレノアが言う。


「揃いましたね、それでは始めましょう」

次回:「◆その567 闇の集会2」

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