その565 久しぶりのダンジョン攻略5
四階層のヒドラは九十の首からブレスを吐く。
しかし、最終階層のアンセスターヒドラは、百の首から【極ブレス】を吐くのだ。そして、本体はSSダンジョン最強のSS。
ランクSが群れればSS相当なんて生易しいものではない。
更に体長は五十メートル近く、タフな生命力を予想させる。
アンセスターヒドラが吐いた極ブレスは、俺の炎耐性を上回る威力を有していた。
「……熱くね?」
嘗めてかかったつもりはない。
だが、これだけの極ブレスを集中砲火となれば、いくらZ区分の実力を持っていても貫かれてしまう。そういう事だ。このダンジョンでアンセスターヒドラの極ブレスを受けたくて受けるヤツなんていない。
誰もが回避行動に出るだろう。時間稼ぎという目的がなければ、どんな戦闘でも短期決戦が望ましい。俺は最短で決着をつけるため動いただけだ。
それでも、アンセスターヒドラの百の攻撃をかわし切る事は出来なかった。
これは霊龍からの教訓なのかもしれない。
どんな強敵でも集中砲火は効果的であると。
……ふむ、現段階だとエメリー、アリス、レミリア、ゲラルド、あとはグラムスかなんかでパーティを組めば戦えるかもしれないな。勿論、倒せるかは別にして。
このアンセスターヒドラの厄介な点は、ヒドラも持っている【極再生】にある。一つの首を斬り落としたとしても、三十秒もあれば回復してしまう。それがヒドラだ。
しかし、アンセスターヒドラにはもう一つ優秀な固有能力がある。それが【再生速度向上】である。
「まずは一本!」
水魔法【金剛斬】で斬り落とした首が床に転がる。
そこから逃げ回る事、十数秒……首は生まれ変わったかのように復活した。
約十五秒ってところだろうか。
ただでさえ厄介な【極再生】が更に厄介になる。あんなのは最早チートと言えるだろう。
さて、アンセスターヒドラの首はいくつだろうか? 百だ。
百の首を一瞬で落とす事は簡単である。
しかし、様々な戦い方を学び、後進の勇者エメリーたちに教える事を考えると、熟考が必要だ。
やはり、一カ所ずつ傷口を焼く他ないか……。
そう思い、俺はちまちまと首を刈っては焼いていった。
個人的には尻尾を掴んで振り回したい気持ちでいっぱいだったが、首が少なくなってきたアンセスターヒドラの行動もチェックしておきたかった事もあり、やや時間が掛かってしまった。
「やっぱり首が少なくなるにつれて残った首の耐久力が上がるなぁ~……」
まぁ、アリスの【聖加護】があれば多少は楽か。
アンセスターヒドラの行動を全てチェックし、諸々の情報を紙に書き写す。
途中からは戦力差に恐れおののいたアンセスターヒドラは、ただただ自身の死を待つのみとなった。
「これで【極ブレス】と【再生速度向上】をげっと」
自分の魔力が更に増大した事を確認し、拳を握る。
「……いいね、でもまだ足りないな」
理想は魔人含む刻の番人全員の吸血。
これが成れば、俺は単身魔界に乗り込めるだけの戦力を得られるだろう。
とはいえ、まだまだ法王国でやる事は多い。
まずはここのお宝からだろうか。
「この奥? いや、ここか」
アンセスターヒドラが立っていた場所の後ろには石で出来た小さな社のようなものがあった。
しかし、周囲を探してみても目を凝らせども何も見つからない。
「となると……魔力か」
俺はその社に手を触れ、内包する魔力を放出した。
すると、社が神々しく発光した。
光は小さくなり、手の平に収まる程になった時、その姿を変えたのだ。
「紙? ……いや、マジックスクロールか?」
【鑑定】で視るも、それが何なのかはわからなかった。
仕方ないと思い、俺はマジックスクロールにも魔力を流した。
すると、紙の中央に大きな円が炙り出しの暗号のように浮かび上がったのだ。そして、円を沿うように光の点ぐるりと一周した。
最後にその光の点は円の上部でピタリと止まった。
……いや? 少しぶれている。なんだろうこれ。
そして、俺が何気なく左を向くとその光の点の位置が変わったのだ。
左に向いている。
俺はそのマジックスクロールを右に向けたり傾けたりした。
その動きに伴って光の点が移動する。光が差す方向は決まって【北】である。
「これってもしかして……【コンパス】?」
円を描く文具ではない。方角を示す文明の利器である。
だが、この【魔法のコンパス】……一体何を示しているんだ?
「……いや、待てよ?」
法王国のランクSダンジョンの報酬は、同じく法王国にあるSSダンジョンの最終階層の扉を開くものだった。ならばSSダンジョンの報酬は……もしかしてSSSダンジョンの場所を?
「……確か冒険者ギルドが把握しているダンジョンはここで最後、か」
そう呟いた後、俺はくすりと笑ってからそのマジックスクロールを丸めた。
まだまだ世界は、俺が思う以上に謎に満ちている。そういう事だ。
そんな事を考えながら、俺は外への転移陣に乗るのだった。
次回:「その566 闇の集会1」




