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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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568/917

その565 久しぶりのダンジョン攻略5

 四階層のヒドラは九十の首からブレスを吐く。

 しかし、最終階層のアンセスターヒドラは、百の首から【(きわみ)ブレス】を吐くのだ。そして、本体はSS(ダブル)ダンジョン最強のSS(ダブル)

 ランクSが群れればSS(ダブル)相当なんて生易しいものではない。

 更に体長は五十メートル近く、タフな生命力を予想させる。

 アンセスターヒドラが吐いた(きわみ)ブレスは、俺の炎耐性を上回る威力を有していた。


「……熱くね?」


 ()めてかかったつもりはない。

 だが、これだけの(きわみ)ブレスを集中砲火となれば、いくらZ区分(ゼットくぶん)の実力を持っていても貫かれてしまう。そういう事だ。このダンジョンでアンセスターヒドラの(きわみ)ブレスを受けたくて受けるヤツなんていない。

 誰もが回避行動に出るだろう。時間稼ぎという目的がなければ、どんな戦闘でも短期決戦が望ましい。俺は最短で決着をつけるため動いただけだ。

 それでも、アンセスターヒドラの百の攻撃をかわし切る事は出来なかった。

 これは霊龍からの教訓なのかもしれない。

 どんな強敵でも集中砲火は効果的であると。

 ……ふむ、現段階だとエメリー、アリス、レミリア、ゲラルド、あとはグラムスかなんかでパーティを組めば戦えるかもしれないな。勿論、倒せるかは別にして。

 このアンセスターヒドラの厄介な点は、ヒドラも持っている【(きわみ)再生】にある。一つの首を斬り落としたとしても、三十秒もあれば回復してしまう。それがヒドラだ。

 しかし、アンセスターヒドラにはもう一つ優秀な固有能力がある。それが【再生速度向上】である。


「まずは一本!」


 水魔法【金剛斬】で斬り落とした首が床に転がる。

 そこから逃げ回る事、十数秒……首は生まれ変わったかのように復活した。

 約十五秒ってところだろうか。

 ただでさえ厄介な【(きわみ)再生】が更に厄介になる。あんなのは最早(もはや)チートと言えるだろう。

 さて、アンセスターヒドラの首はいくつだろうか? 百だ。

 百の首を一瞬で落とす事は簡単である。

 しかし、様々な戦い方を学び、後進の勇者エメリーたちに教える事を考えると、熟考が必要だ。

 やはり、一カ所ずつ傷口を焼く他ないか……。

 そう思い、俺はちまちまと首を刈っては焼いていった。

 個人的には尻尾を掴んで振り回したい気持ちでいっぱいだったが、首が少なくなってきたアンセスターヒドラの行動もチェックしておきたかった事もあり、やや時間が掛かってしまった。


「やっぱり首が少なくなるにつれて残った首の耐久力が上がるなぁ~……」


 まぁ、アリスの【聖加護】があれば多少は楽か。

 アンセスターヒドラの行動を全てチェックし、諸々の情報を紙に書き写す。

 途中からは戦力差に恐れおののいたアンセスターヒドラは、ただただ自身の死を待つのみとなった。


「これで【(きわみ)ブレス】と【再生速度向上】をげっと」


 自分の魔力が更に増大した事を確認し、拳を握る。


「……いいね、でもまだ足りないな」


 理想は魔人含む(とき)の番人全員の吸血。

 これが成れば、俺は単身魔界に乗り込めるだけの戦力を得られるだろう。

 とはいえ、まだまだ法王国でやる事は多い。

 まずはここのお宝からだろうか。


「この奥? いや、ここか」


 アンセスターヒドラが立っていた場所の後ろには石で出来た小さな(やしろ)のようなものがあった。

 しかし、周囲を探してみても目を凝らせども何も見つからない。


「となると……魔力か」


 俺はその社に手を触れ、内包する魔力を放出した。

 すると、社が神々しく発光した。

 光は小さくなり、手の平に収まる程になった時、その姿を変えたのだ。


「紙? ……いや、マジックスクロールか?」


【鑑定】で視るも、それが何なのかはわからなかった。

 仕方ないと思い、俺はマジックスクロールにも魔力を流した。

 すると、紙の中央に大きな円が(あぶ)り出しの暗号のように浮かび上がったのだ。そして、円を沿うように光の点ぐるりと一周した。

 最後にその光の点は円の上部でピタリと止まった。

 ……いや? 少しぶれている。なんだろうこれ。

 そして、俺が何気なく左を向くとその光の点の位置が変わったのだ。

 左に向いている。

 俺はそのマジックスクロールを右に向けたり傾けたりした。

 その動きに伴って光の点が移動する。光が差す方向は決まって【北】である。


「これってもしかして……【コンパス】?」


 円を描く文具ではない。方角を示す文明の利器である。

 だが、この【魔法のコンパス】……一体何を示しているんだ?


「……いや、待てよ?」


 法王国のランクSダンジョンの報酬は、同じく法王国にあるSS(ダブル)ダンジョンの最終階層の扉を開くものだった。ならばSS(ダブル)ダンジョンの報酬は……もしかしてSSS(トリプル)ダンジョンの場所を?


「……確か冒険者ギルドが把握しているダンジョンはここで最後、か」


 そう呟いた後、俺はくすりと笑ってからそのマジックスクロールを丸めた。

 まだまだ世界は、俺が思う以上に謎に満ちている。そういう事だ。

 そんな事を考えながら、俺は外への転移陣に乗るのだった。

次回:「その566 闇の集会1」

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