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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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561/917

その558 ファーラの魔力

2021/6/12 本日二話目の投稿です。ご注意ください。

「……え?」


 まさか、ファーラの魔力を見せた瞬間にお叱りの如き言葉をもらうとは思わなかった。

 俺は木龍グランドホルツに言われた通り、すぐにその魔力を消した。

 そして木龍を見上げ言ったのだ。


「それはどういう意味?」

「それはこちらの台詞だ。ミック、お前本当に元首か?」


 一方的に怒られている気がする。

 だが、今のは俺の聞き方が悪かった。


「コホン、今の魔力の形について聞きたかったんだけど……?」

「……餌だ」

「もう少し具体的に」

「モンスターの餌だと言っている」


 瞬間、俺は目を見開いて驚いた。

 その直後、リィたんがこの場を離れたのだ。

 きっとファーラの下へ向かったのだろう。

 それを見送った木龍が、ぎろりと俺を見る。


「……どういう事だ?」


 そんな鋭い視線から目を逸らしつつ、俺はファーラという存在について木龍に説明した。


「……なるほどな」


 木龍は難しい顔をして目を伏せた。

 俺と法王クルスは見合い、そしてまた木龍を見た。

 すると俺たちは、俺たちの間を通り抜けるような穏やかな風を感じたのだ。

 それは明らかに木龍から発せられた風魔法に他ならなかった。


「これは【呼び戻しの風】か?」

「いえ、もっと高度なものですね」


 法王クルスの言葉を否定するも、その答えを出せるものでもなかった。

 心地よく漂う風。身体をくすぐるように通り、透り抜けていく。

 やがてそれが収まると、木龍がパチリと目を開く。


「【スタンピード(、、、、、、)】はない。……おそらくな」


 今、耳慣れなくも……よく知っている言葉が俺の耳に届いた。


「スタンピードだと……!?」


 法王クルスもその言葉を知っているようだった。

【スタンピード】――それは、言葉通り【殺到】を意味する。

 木龍はファーラが纏う魔力についてこう言った。

 ――モンスターの餌だ、と。

 それはつまり、ファーラの魔力は種……どころではなく、モンスターを招く餌だったという意味だ。

 そして、木龍は次に「スタンピードはない」と言った。

 これはおそらく……モンスターの大襲来を意味していたのだ。


「魔族四天王の狙いは、ファーラなる存在が放つ魔力の形状におびき寄せられたモンスターの群れ。ファーラを聖騎士学校に送ったという事は、目的は聖騎士学校の破壊、及び法王国への壊滅的なダメージ。そういう事かな?」


 俺が聞くと、木龍は目を伏せてそれを肯定した。


「あのまま続けていれば法王国は……!」


 法王クルスの顔が青ざめる。

 スタンピードがどれほどのものかはわからないが、リプトゥア国の戦争で疲弊している今、そんな事が起これば法王国は国として機能しないレベルにまで追い込まれる可能性がある。早目に手を打っておいて正解だった……と言いたいところだが、どうも木龍の様子がおかしい。


「……まだ何か?」

「少なからずその魔力の影響を受けたモンスターは存在するはずだ。気を付けろよ、ミック」

「……わかった」


 俺がそう言うと、法王クルスが一歩前に出て言った。


「残ってはくれぬか?」


 だが、木龍の答えはわかりきっていた。


「悪いな人間の王。私にとって最優先事項は地龍たちだ」

「……そうか」

「そこのお人よしの吸血鬼を頼れ。先に貸しを作り、すぐに取り立てればいいだけの事」


 それは、俺の前で言う事だろうか?


「わかった、国庫を開いてでもやって見せよう」

「その意気だ」


 ニヤリと笑った木龍と法王クルス。

 蚊帳(かや)の外にいる俺は、明日の晩にある闇ギルドの集会の事で頭がいっぱいだった。

 こうして木龍は去った。ファーラという存在、更には魔族四天王の狙いがわかり、法王クルスと別れた俺はオベイルの家でこの事について触れた。

 剣神イヅナ、剣鬼オベイル、更には法王クルスの頼みでこの場に残ったアーダインという強者たちがいる中、勇者エメリーは強い怒りを見せた。


「酷い……!」

「それってつまり、ファーラさんを囮に使ったって事ですよね……」


 それは、聖女アリスも同じだったのだ。


「先程、リィたんから連絡が入り、ファーラさんの魔力は以前のように戻ったものの、木龍グランドホルツが残した言葉は捨てきれません。クルス殿が手を打つようですが、皆さんもこの件について知っておいた方がいいと思ってこうして話した次第です」

「聖騎士学校へは?」



 剣聖レミリアの質問に、アーダインが答える。


「無理だ。それどころか聖騎士団にも話を通せない。現状オルグに話す事すら危険だ」

「そういう事です。聖騎士団にこの話を通すという事は、闇ギルドにその情報を渡す事に他なりません」


 俺がそう補足すると、オベイルが鼻で笑った。


「はっ、そりゃもう聖騎士団が闇ギルドの一部って言ってるようなもんだな」

「正にその通りなんですよねぇ……」


 俺が肩を(すく)めて言うと、イヅナが顎を揉みながら言った。


「ふむ、だとすれば法王が頼れる先はミナジリ共和国か――」


 ちらりと動くイヅナの視線。それはアーダインに向かっていた。


「ま、冒険者ギルド(ウチ)って事になるな」


 直後、扉の奥から一個の気配を感じ取った。

 皆、警戒するも、相手は魔力量的に考えても一般人と言えた。

 ノック音の後に聞こえる「アーダイン様っ!」という慌てた声。

 家主のオベイルがドアを開け、アーダインが扉から顔を出す。

 制服を見るに、相手はギルド員の男。

 アーダインに男が耳打ちすると、彼はニヤリと笑って俺を見た。


「ミック、依頼だ」

次回:「その559 新たな依頼」

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[一言] オルグが無能すぎて酷い
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