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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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555/917

その552 吸吸血血鬼鬼2

 そういえば殺気大会の時に教えたな。

 それにしても、ルークの名前を言った時のファーラの表情は、この特別講師室に入ってから一番いい表情をしていた。なるほど、気に入られているようですよ、ルークさん。

 まぁ、あの時はシギュンのご褒美が目当てでファーラに近付いたんだけどな。

 この子の顔を見てたら褒美(そんなもの)はどうでもよくなってしまう。でも、明日になったらまたご褒美第一主義に戻ってるかもしれない。


「私は……退学ですか?」

「えぇ、そうです。何か問題を起こしたらですけど」

「え? ……で、でも私は――」

「――聖騎士学校の退学に該当する規則には『当校の信用を失墜させる行為をした場合に限り、ライゼン学校長の判断で退学させる事が出来る』とあります。確かにファーラさんは魔族で、吸血鬼です。しかし、存在(イコール)行為にはなりません。いるだけで退学してしまうなら、それは学校ビジネスとして成り立ってないですよ。それに、私はライゼン学校長じゃありませんから」


 俺がそう言うと、ファーラは安堵した様子でホッと息を吐いた。


「ところでファーラさん」

「は、はいっ」


 ぴっと背筋(せすじ)を伸ばしたファーラ。

 先程より緊張の色はない。もしかして、生きてこの場所から出られないと思っていたのかもしれない。ファーラの実力を考えれば、Z区分(ゼットくぶん)と一緒に密室に入る緊張は……かなりの恐怖だったろう。


「今後、どうするおつもりですか? あぁ、これからって意味ではなく卒業後の話です。魔界へ帰るおつもりで?」


 そう言うと、ファーラはまた黙ってしまった。

 そんなに詰めたつもりはないんだが、どういう事だ? 何故こんな簡単な質問で言葉に詰まってしまうんだ?

 いや…………まてよ? 吸血鬼?


「あぁ、そういえば同族の吸血鬼は父上以外で初めて見ましたよ。確かに我々だけだと種族としておかしな話ですからね。吸血鬼が暮らす地域とか別にあるんですか? 魔界にいる期間が短くてそういう話聞かないんですよねぇ」


 などと、俺が言っている間にファーラの表情は徐々に険しくなっていった。

 呼吸がやや荒くなり、身体は震え、脂汗すら見えるこの異常事態。もしかしてファーラは、俺のなんちゃって四歳児の一年より、過酷な五年を送っていたのではないだろうか。


「仲間は……皆焼かれてしまいました」

「……何故?」

「知りません。突然人間が現れて……それで、生き残った私をスパニッシュ様が保護してくれました」

「魔界に人間が?」


 コクリと頷くファーラ。

 だとしたら人間に対し敵意を持っていそうなものだが、彼女からはそういった感情は読み取れない。益々不可解である。


「保護された直後も、人間はまだ周囲を探し回ってて……それで見つかってしまい、スパニッシュ様がその人間を説得して――」

「――は?」

「え?」

「父上が人間を説得?」

「私はまだ子供だからって」


 誰だそれ? スパニッシュって書いてアリスって読むんじゃないだろうな?

 いや、待てよ? 人間という事は――、


「その人間って……――」

「――っ!?」

「こーんな顔、してませんでした?」


 俺は、自分の顔を変えてファーラに見せた。

 ファーラは顔を恐怖に引き()らせ、俺を指差す。


「そ、そう……その顔です……っ!」


 先日の戦争、ゲオルグ王以外にもう一人人間がいた。

 それこそが俺と戦い引き分け、俺の腕を最先端黒焦げスタイルに変えた張本人――魔人という訳だ。

 俺は顔を戻し、溜め息を吐く。

 そして、手で目を覆い顔を揉んだ。


「……なるほど、わかってきましたよ」

「な、何がでしょう……?」

「今のは先日の戦争で私と戦った魔人と呼ばれている男です」

「戦う? 人間が魔族側に……?」

「えぇ、父上たちと仲良さそうにしてましたよ」


 直後、ファーラが硬直する。

 それは、知りたくなかった事実を自覚した顔。

 それが見えたからこそ、俺は()えてそれを口にした。


「つまり、魔人が吸血鬼たちを焼いた件は、父上が仕組んだ事でしょうね」

「っ!」

「魔人と結託し、同族である吸血鬼を消し、ファーラさんを保護した。全ては、ファーラさんを聖騎士学校へ送るために」

「な……何で私なんかを……」

「それは、私が先程説明した通りです。父上は、ファーラさんが私に見逃されるとわかっていたからですよ。一つ、何もしない魔族。二つ、女性。三つ、子供。その上、私と同族であれば、これ以上ない保険となる」

「そんな……!」


 何とも残酷でいやらしい手を使ってくるじゃないか……スパニッシュ。

 吸血鬼を滅ぼした理由は、おそらく俺の能力が原因だ。魔王と同じ能力を持った俺という吸血鬼が生まれてしまった以上、スパニッシュはそうする他なかった。これ以上【血の連鎖(ブラッドコントロール)】を持った存在を世に出さないために。もしかしたらこれは魔族四天王の総意かもしれない。

 そして、人間を憎まないようにファーラへ魔族の基本である弱肉強食思想を植え付け、法王国へ送った。いや、俺の下へ……か。


「っ!」


 俺は、形容しがたい声を漏らしそうになった。いつの間にかファーラの手の甲にポタポタと落ちていた雫は、彼女の心を表しているかのようだった。正に純粋。彼女の心はまだ子供なのだ。美しく、未来に溢れ、脆く、壊れやすい。


 だからこそ……危険。

次回:「その553 吸吸血血鬼鬼3」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 吸血鬼が滅んだら、魔族としての格がさがるんじゃ? [一言] いったい何時になったらアリスのサービスシーンがくるんだぁぁぁぁああ!? それは浜辺が良いです
[一言] 誤字 魔界にいる帰還→期間
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