その54 罰ゲーム
罰ゲームといっても、ただリィたんを辱めるだけでは、それは小学生か中学生の発想だ。
出来れば実益を兼ねたモノがいいわけだ。
ただ使いっ走りをさせるのは誰でも出来る。
リィたんは特異な存在である。それは、魔族として生まれた元人間の俺に近いものがある。
そう、リィたんは水龍リバイアサン。古の武器、炎剣フレイムタンを体内に宿しリバイアタンと名乗っているが、水龍リバイアサンなのだ。
ならばいるはずだ、いや、あるはずだ。龍と龍のネットワークが。
久しぶりにクロード家に戻った俺は、先ずナタリーの説教を受けた。
「もう、すっごく心配したんだからね!」
「はい」
「『今日、夕飯いらない』だけじゃ『今日は帰らない』にならないんだから!」
まったくもってその通りだと思う。
ナタリーには夕飯の有無しか連絡していなかったからな。これは反省だ。
頬を膨らませるナタリーに、俺はしゅんと項垂れて終始問答をしていた。
やがてそれが終わると、ナタリーとジェイルの開拓地について話が変わった。
「実は、私たちもお手伝いさせて頂く事になりました」
と、言ったのはクロード。
私たち――という事はエメラもって事か。
「えぇ? でもまだ見通しが出来てないから別にいいって言ったじゃないですか」
「いいんですよ。ミケラルドさんの活躍を見てたら、私たちも頑張らなくちゃって思えたので」
「ふふふ、人手も増えましたからね」
クロードとエメラが言うと、俺はそれに苦し紛れの反論をした。
「あの人たちが元々どういう人たちだったか知ってるんですか?」
ジェイルに目をやると、ジェイルは一つ頷いた。
なるほど、説明はしてあるようだ。
二人も頷き、理解を見せている。
「でも、ミックが良い人にしたから大丈夫!」
「そうは言っても、暗示みたいなものだぞ? 勿論、悪人以外にこれを行使するつもりはないけどさ……」
言うと、ナタリー、クロード、エメラはくすりと笑って応えた。
なんだろう。この反応は?
理解が追いついていない俺は、三人に向かい目を泳がせた。
「明日、開拓地に行けばわかりますよ」
エメラの意味深な笑みが気になって仕方ない俺だったが、それ以上の回答は得られなかった。
その後、シュバイツとランドの親分をジェイルにし、ジェイルは開拓地に二人を連れて行った。
クロード家の反応を見て、俺も行きたくなったが、ナタリーがそれを許してくれなかった。
まぁ、やる事もあるし、それはやはり明日でもいいか。
「という訳でお待たせ、リィたん」
「……別に待ってないぞ」
珍しく身構えて警戒心を見せるリィたんは中々に見ものだ。
「罰ゲームの件なんだけど――」
「――私も龍族だっ! ミックがどうしてもと言うのであれば、腹を括ろうっ!」
凄い、目を瞑って怯えるリィたんなんて本当に珍しい。
もう少し見ていたい気分ではあるが、流石に可哀想だ。
勿論、エッチなお願いなんて出来る訳がない。
今現在、俺はクロードたちと一緒にテーブルを囲んでいるのだから。
そう、ナタリーの冷たい目をこれ以上受けたくないのだ。
「別にリィたんに無理言うつもりはないよ。ちょっとばかりお願いがあるんだ。それが罰ゲームね」
「……お願い?」
片目を開けて、リィたんは俺の言葉を待った。
「龍族を紹介して欲しいんだよ」
「「なっ!?」」
その場にいた全員が驚く。
特にエルフのクロードは物凄く驚いていた。
正気か? と言いたいような顔つきである。
「そこまで驚く事じゃないでしょう? ここにいるリィたんだって水龍ですよ?」
「し、しかし……」
「そうですよ、ミケラルドさん。龍族は誰にも触れられぬ禁忌と呼ばれているんです。リィたんさんの特異性は理解出来ますけど、更に他の龍族ともなると……」
エメラが黙っていたリィたんに目をやる。
するとリィたんは鋭い視線で俺を見ていた。
「それが、ちょっとばかりのお願い……だと?」
「無理にとは言わないけどね」
「……何が目的だ、ミック?」
「言っただろ? 今後は商人としても生きるんだ。龍族の素材を扱える商人なんて、絶対いないだろう? そこに俺が入りこみたい。それだけだ」
「龍族をなます切りにでもするかの物言いだな」
「あー、違う違う。流石にそんな事は考えてないよ」
そう言ったところで、ようやく俺に龍族への害意が無い事が、リィたんに伝わったようだ。
キョトンとした目で小首を傾げたリィたん。
「龍族にも家族がいるだろう? 当然、家族には子供がいる。子供がいるって事は、卵があるって事だろう? 調べたんだけど、龍族の卵の殻は色んな素材に使えるんだ。鱗にしたって、たまに身体から剥がれ落ちるそうじゃないか。でもそれって、龍族には不要なものだろう? そういう龍族には不要な物を、交易に使いたいんだよ」
呆気にとられたのか、クロード、エメラ、ナタリーは口をぽかんと開けたままである。
リィたんですら少し口が開いている。
「どうかな、リィたん?」
俺の問いにようやくリィたんが動き、頭を掻きむしっている。
「……はぁ、どうなってもしらぬからな」
まず、一つの山が動いてくれたな。




