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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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538/917

その535 被害

「イタイ。本当にイタイ。どうしよう。やばい。イタイ」


 ここは前線基地。

 ベッドの上で天井を見つめながら俺は横たわっている。

 あれから二時間。焦げ付いた腕の表面――黒い部分は回復したものの、その痛みは未だ残り続けている。

 痛覚遮断系の固有能力でもあればいいのだが、生憎(あいにく)そういった能力はまだ持っていないのだ。


「結構時間かかるねぇ」


 近くに座っているのは、ナタリーである。ナイフでリンゴの皮を()き、一見(いっけん)俺にくれるのかと錯覚してしまう。しかし、間違う事なかれ。あれはナタリー自身のリンゴである。

 剥き終わり、シャリとリンゴを(くわ)え「う~ん」と唸るナタリー。

 まぁ唸ってる理由が俺の腕にあるからこそ、心配してくれているのはわかる。しかし俺としては、女の子に看病でリンゴを「あ~ん」される事を望んでいるのだ。「う~ん」よりも「あ~ん」である。女性を愛する全男子が望んでいる事だと声をあげたいところだ。


「やっぱり腕を斬ればよかったか……」

「なし! 私の前でそういうのはなし!」


 と、ナタリーは許してくれない。


「はい握って」

「んっ」


 言われた通り拳を握る俺。


「はい開いて」

「ふんぬ!」


 心の中で助走をつけないと開けない我が手。


「はい握って」

「くっ!」

「はい開いて」

「くくく……!」


 まるでリハビリかのように、ナタリーは俺に指示を出し、腕の状態を見ている。ナタリーは鬼教官である事から怪我は見慣れているものの、こういう症状にはあまり縁がないだろうに。


「動きはしっかりしてるから時間の問題だろうね。でも最後の攻撃は受けたんだよね? 何であんなに焦げちゃったの?」

「ん~、それにはまず検証が必要……かな」

「どんな?」

「あ、そのナイフいい?」

「これ?」


 それは、リンゴの皮を剥いていたナイフだった。

 ナタリーはナイフを俺に近付け、俺はナイフに手を伸ばした。


「う~……」

「む、無理して今やらなくてもいいんじゃない?」

「ダイジョーブダイジョーブ」


 人差し指を伸ばしナイフに向かって発動したのは――


「――……ミック、これもしかして……【聖加護】?」

「そゆこと。うん、おっけー。それでちょっと……そうだな、お腹にぷすっとお願い」

「冗談だよね?」

「前のサッチの新人冒険者の勉強会ではカインって子にナイフ向けてたじゃん」

「あれはサッチさんが止めるってわかってたから!」

「んもう、しょうがないなぁ」


 俺はそう言ってナタリーからナイフを取り、それを自身の腹部へと向けた。


「あ、ちょ――」

「ちくっとな」


 咄嗟(とっさ)に目を(おお)ったナタリー。

 俺は腹部に刺さるナイフを見て、我ながら「何をやっているんだろう?」と考えながらソレを待つ。

 正直痛いし、熱い。どんな小さなナイフだろうと、それは【聖加護】が宿ったナイフには変わりないからである。しかし、今は腕の方が痛いので、腹部の痛みはあまり気にならなかった。

 ナイフを刺した腹部からは最初血が流れはするものの、それはいつの間にか止まっていた。何故なら傷口は【聖加護】の効果によって焼かれていたから。

 火傷、そして徐々に付いていくのはどこかで見た覚えのある……()げ。


「ふむ、こんなもんかな」

「ど、どうなったのっ?」

「もう離したから大丈夫。それより見てみなよ」


 目を覆っていた手をゆっくり外すナタリー。そして見たのは――、


「ミック、これって……!」

「そうなんだよ。【聖加護】を宿したナイフで付けた火傷と、魔人の攻撃で受けた火傷はほぼ同じモノと言ってもいい。おそらく、俺が受けた攻撃は【聖加護】を宿したナニカだったみたいだね」

「嘘でしょっ? 何で魔族側に【聖加護】を宿した武器があるのよ!?」


 驚きを見せるナタリーだったが、俺は過去の記憶を掘り返しながら言った。


「ほら、アレだよアレ」

「アレって?」

「イヅナさんやアイビス皇后、それにヒルダさんが組んでた【聖なる翼】。あのパーティにレックスっていう勇者がいただろ?」

「レックスって、ミックの事だよね?」

「まぁ、肉体はそうだな」

「そのレックスがどうしたのよ?」

「レックスの身体は、ジェイル師匠によって魔界に持ち帰られた。でも、そこに勇者の剣は?」

「あ……」


 ナタリーは、ようやく俺が言いたい事を理解してくれた様子だった。


「そうなんだよ、ジェイル師匠によって勇者の剣も一緒に魔界へ持ち帰られた可能性がある。その勇者の剣が……」

「魔人が使ってた武器って訳ね」

「まぁジェイル師匠に聞けばわかるでしょ」

「でもその魔人って奴、今のミックをこんなにする程強かったのは何でだろう?」

「そこなんだよな。闇ギルドからの情報で強いってのは知ってたけど、魔族四天王に付き従ってた理由も説明がつかない」


 俺とナタリーは答えのない回答を探すようにまた唸るのだった。

 そんな沈黙を察してか、ラジーンが現れた。


「ミケラルド様」

「おかえりラジーン、どうだった?」

「二千四百いた我々ミナジリ共和国の軍勢は千四百程にまで減少。ガンドフ陸戦隊は三千から千二百。リーガル戦騎団は五千から三千。冒険者についてはフレッゾ殿が確認中です。そして法王国騎士団は二千から百名程にまで……」

「…………そっか。法王国騎士団、やっぱり気負っちゃったのかな?」

「団長の【アルゴス】殿が言うには、聖騎士団の不在をカバーしようと奮戦した、と」

「だよね。まぁ、法王国騎士団があれ程動いてくれなかったら右翼は抜かれてただろうね」

「私もそう思います」

「わかった、ありがとう」

「詳細な数につきましては後程書面にてご報告致します。では――」


 言いながらラジーンが消えていく。

 ナタリーは悲し気な表情をするも、それは一時の事だった。

 何故なら、ナタリーが持つ【テレフォン】が反応を示したからだ。


『ナタリー、ミックもそこにいるな?』


 声の主は――リィたんだった。

 そして、リィたんは次にこう続けたのだ。


『法王国に聖騎士団が帰還した』

次回:「その536 聖騎士団の帰還」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔人さん、なんかむかしのひとっぽいし過去の勇者とか?? [一言] これまで愚者と秀才と吸血鬼で3作を読んだわけだけど、世界観と雰囲気の使い分けがうますぎる 正直なぜ愚者しか書籍化してな…
2023/12/21 05:00 退会済み
管理
[一言] 果たしてどんな言い訳をいうのかな?
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