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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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536/917

◆その533 最後の援軍

 右翼のガンドフ陸戦隊の隊長【ジュウザ】を中心にした発光。

 この直後にアークレイスが吹き飛んだ。その異常がわからない魔人ではない。

 顔に浮かぶ不可解は、ミケラルドへと向けられた。

 だが、ミケラルドはニタリとただただ北叟笑(ほくそえ)んでいた。


「いいね。そういう顔、見たいと思ってたんだよ。それじゃ次はあっち」


 次にミケラルドが指差したのは左翼側。

 先と同じように発光したのはミナジリの魔族を率いるダークマーダラーのサイトゥからだった。連合軍の左翼を取り囲んでいたグールたちが無数に切り刻まれ、残ったのはただの死骸のみ。

 魔人の目にはそう映った。しかし、その実そうではなかったのだ。


(一体何が起こってる? 魔族の死体だけが積み上がっていく。両翼の中心で何が?)

「次はあっち」


 また右翼を指差すミケラルド。


「またあっち」


 そして左翼。交互に続く魔族軍への攻撃が止む事はない。

 これを探るべく、魔人は意識を集中させた。両翼で発生する魔力の動きに。

 右翼、左翼、右翼。そう続いたところで、魔人はミケラルドを睨む。


「転移魔法か……!」

「お、気付いちゃった?」

「発光の度に出現する大きな魔力。しかし、発光と同時に攻撃は終わり、攻撃の主は消えている。これはどう見ても転移魔法。つまり……両翼にミナジリ共和国の戦力が瞬間的に加わっているという事。魔力からして左翼に【ジェイル】、そして右翼には――水龍リバイアタンの【リィたん】」

「ご明察」


 両翼に向かって交互に指差していたミケラルドは、最後に魔人に向けて指を差した。魔人はミケラルドを睨みつつ再度口を開く。


「ミナジリ共和国で警備を担当する以上、ジェイルはミナジリ共和国を離れられない。法王国で身内の警護を任せる以上、リィたんは法王国を離れられない。我々もそう思い、事実、ミケラルド(お前)もそういう軍構成にしていた。しかし、一瞬だけの援護ならば――」

「そういう事。まぁ、一瞬でも身内から目を離すからあまりやりたくはないんだけど、あんたたちはそれを知ったところで一瞬で行動出来る訳じゃない。何故なら、それに気づいた時にはもう、二人はミナジリ共和国や法王国に戻っているから」

「正に、究極のヒット&アウェイというところか」

「良い表現だね。まぁこれは保険みたいなものなんだけどね。まさか使う事になるとは思ってなかった」

「それは、我々を褒めていると?」

「この上なく」


 ミケラルドがそう言ったところで、魔人は前方ではなく右側へ動いた。

 しかし、ミケラルドはそれを回り込むように動き、魔人の進路を妨害したのだ。


「お前を右翼(あっち)に行かせる訳ないだろう」

「そこをどけ」

「どけてみなよ。あの二人は絶対にやらせない」

「……まさかこんな決断をするとはな」

「何か勘違いしてないか?」

「何?」

「お前たちには俺の最善の策が潰されただけの事だ。正直焦りもしたけど保険を残しておかないのは愚者がやる事だ。残念な事に俺はそうじゃない。それだけの事だ。勇者と聖女の覚醒という狙いを挫いただけ、お前らにも持ち帰るものもある」

「だから引けというのか?」

リッチ(上司)に相談して来いよ」

「っ!」


 直後、魔人の肉体からこれまで以上に強力な魔力が吹き荒れた。

 それは、ミケラルドへの怒り以外の何物でもなかった。


「あれ? 慎重って情報は間違いだな。激情家に修正しなくちゃ」


 とぼけて言いながら魔人を煽るミケラルド。


「くっ! カァアアアアアッ!」


 大地を踏み抜き、感情に任せた上段からの一撃は確かにこれまでにない程強力なものだった。しかし、動きが一直線である事に変わりはなかったのだ。ミケラルドにとってこれ程受けやすい攻撃はなかった。

 十字に交叉した腕、手甲(てこう)で受けた一撃はミケラルドに大きな衝撃を与えると共に大地を破壊した。

 これを受け切ったミケラルドがニヤリと笑う。

 しかしこの後、ミケラルドの腕に大きな火傷のような傷が広がったのだ。


「ぐっ!? な、何だこれ!?」

「カァアアアアアアアアッ!!」


 魔人の込める力が強くなり、ミケラルドの腕の火傷は、徐々に肩まで進行していく。ミケラルドの顔が歪み、苦痛に耐える中――不死王リッチが動いた。

 自身の両側に無数の【闇空間】を展開したのだ。

 最後方で戦うスパニッシュ、レオがこれに気付き敵味方を掻き分けながらリッチの下へ向かう。

 エメリーやアリスにはこれを追う余力はなく、その場にへたり込んでしまった。

 レイスの闇空間に入っていくスパニッシュとレオ。これを見て、不死王リッチがとった行動が撤退であると皆が気付いたのだった。

 次に動いたのはレイスの上位魔族アークレイス。続きドッグウォーリアー。これらが引き下がったところで、不死王リッチは魔人に向かって小さな魔力砲を放った。これが頭部に当たり、小さな衝撃と共に怒りから目覚める魔人。


「ほ、ほら、撤退だぞ……!」

「……ふん、いずれ決着はつける」


 言いながら魔人はミケラルドの腕から剣を離し、後退して行った。

 魔人と共に、ゲオルグも【闇空間】へ入る。その直前――、


「親父っ!」


 息子であるゲラルドが引き留めるも、ゲオルグはそれを意に介さない様子で【闇空間】へと入って行くのだった。

 グール、レイスが後退するも、その前に【闇空間】が閉じられる。

 当然、【闇空間】の使用者は不死王リッチである。彼が逃亡するまでの間、時間を稼ぐのはこのグールとレイスに他ならない。

 殿(しんがり)軍ではあるが、連合軍にこれを追撃する余裕はなかった。

 中央で(うずくま)るミケラルドは、だらんと腕を垂らし、空を仰ぐ事しか出来なかったのだった。

次回:「◆その534 残る謎」

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