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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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535/917

◆その532 消耗戦

破壊魔(はかいま)に魔帝……一体どれだけの手札を持っているのやら」


 魔人は落ち着き払った様子で、しかしミケラルドを探るように言った。

 ミケラルドは頬をポリポリと掻きながら、不死王リッチに目を向けた。


「それはこっちの台詞だよ。不死王リッチとゲラルドの侵攻は察知してたけど、まさか魔族四天王三人に、魔人……いや、聖騎士団の動きを封じたのもそっちの作戦だろ?」

「さて、何の事だかな」

「つれないねぇ」


 連合軍の両翼の様子を見ながら肩を竦めるミケラルド。

 兵に疲弊が見える中、余力を残しているのは魔族軍と一部の味方のみ。

 この消耗戦が続けば、疲れ知らずの妖魔族に形勢が傾く。ミケラルドはそれを危惧するも、打開する手立てがないという実情。

 顔にこそ見せないが、ミケラルドは焦っていた。

 それがバレているのか、魔人はニヤリと笑って言った。


「正直この均衡を作った事は驚嘆に値する。我々にはリプトゥアを占領するという目的があった。たとえミナジリ共和国の元首が指揮官だろうとな」

「それは、俺を褒めてるって事だよね?」

「相応の評価はしているつもりだ。でなければ私が出て来た意味がない。だが――」

「――これ以上はこちらが不利」

「そういう事だ、意外に冷静じゃないか」

「そちらに勇者と聖女を殺す目的がないのは、せめてもの救いだよね」


 この言葉にピクリと反応する魔人。


「……それはどういう意味だ?」

「どういう理由かはわからないが、魔族が魔王の復活を先延ばしにしてるのは明白だろう。だったら、魔王の復活とセットになってる勇者の覚醒は先延ばしにしておきたい。だけど、それには勇者に死んでもらうと困る。第一目標はリプトゥア国の侵略だろうけど、付随する目的は勇者エメリーと聖女アリスの拘束及び誘拐……かな」


 ミケラルドの言葉を聞き、魔人は再び武器を構える。


「なるほど、噂以上に頭が回るようだ。その首、この場でとっておくべきだろうな」

「それが出来るならこんなクソ長い話に付き合ってないだろう? そっちの目的は時間稼ぎだろ?」

「それがわかっていて尚、話に付き合うか。なるほど、読めない男だ」

「安心してくれ、もうお喋りは終わりだ」

「……何かする気だな?」

「あまりやりたくないけど仕方ないんだよ」


 溜め息を吐くミケラルドの顔はとほほと下がった瞬間、魔人はミケラルドに向かって一気に駆け、剣を振りかぶった。

 それが狙いだと気付いていたミケラルドが、手甲(てこう)でそれを受ける。

 衝撃と共に爆風のような風圧が周囲に広がり、付近のグールを巻き込み吹き飛ばす。


「時間稼ぎはどうした……!」

「不要という判断に至っただけの事……!」


 手甲(てこう)と剣の競り合い。

 魔人の剣はビクともせず、反対にミケラルドの手甲(てこう)もビクともしなかった。両者の実力は正に拮抗していた。

 故に、各所での戦闘結果が戦局を変える。

 パーシバルとグラムスはリッチ、ゲオルグと戦い、エメリー、アリス、フレッゾ、ドゥムガ、ラジーン、そしてミケラルドの分裂体二体は、スパニッシュ、レオと戦った。だが、この戦いもまた、ミケラルドのテコ入れによって均衡を保っていた。

 ならば、戦局を決めるのは――連合軍の両翼しかないのだ。

 両翼を制した軍勢はどこへ行くのか。そう、当然強者たちの援護へと向かう。これが起こった時、たとえ被害が出ようとも、戦争は終結へと至る。

 消耗戦と判断し、妖魔族の多い魔族軍が優勢とみた魔人はミケラルドと会話をし、時間稼ぎをした。しかし、ミケラルドはその時間稼ぎを知りつつ魔人の策にのった。ならば、魔人は行動を起こすしかないのだ。

 相手は一代で国を築いた大傑物ミケラルド・オード・ミナジリ。泳がせては自分に跳ね返る水が多いと、魔人は判断したのだ。

 右袈裟、左払い、中突き、魔人の剣はことごとくミケラルドの急所を狙い、ミケラルドはそのことごとくを防いで見せた。

 体術も魔法も互角。魔族軍、連合軍の主力同士の戦いは決着がつかない。

 これを打破すべくミケラルドが考えた苦肉の策とは――。

 ミケラルド、魔人といえど体力、魔力には限界がある。

 両者の実力が拮抗するが故に、放出する魔力は膨大で、それを支える身体にも無理がでてくる。

 二人の戦闘が始まって一時間を超えようかという時、ミケラルドが持つ【テレフォン】に連絡が入る。


『準備出来たよ、ミック!』


【テレフォン】越しに聞こえたのは、ミナジリ共和国の創設メンバーの一人である――ナタリーの声だった。

 肩で息をし始めたミケラルドは、ホッとした様子でナタリーに言う。


「よし、それじゃちゃっちゃと始めちゃってくれ」

『わかった!』


 ナタリーからの連絡はそれきりだった。

 その会話を拾っていた魔人が怪訝な様子で言う。


「一体何を企んでいる……」

「俺が魔族軍にそう聞いたって何も教えちゃくれないだろう?」

「ふん」

「ま、まずはあっちじゃない?」


 言いながらミケラルドが指差したのは、連合軍の右翼が奮戦する方角だった。

 そこには、ガンドフの重騎士擁するガンドフ陸戦隊がいた。

 そして、ガンドフ陸戦隊が前にするのは討伐困難の難敵アークレイス。

 魔人には、間もなく右翼の戦いが決着する――そう見えた。

 それは事実ではあったが、真実ではなかった。

 魔人の目に映った一瞬の発光。それはガンドフ陸戦隊の隊長【ジュウザ】から放たれた光だった。

 その光の直後、アークレイスたちは一瞬にして吹き飛んだのだ。


「なっ?」


 驚く魔人を見るミケラルドは、なんともあくどい顔をしていたのだった。

次回:「◆その533 最後の援軍」

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