◆その529 最後線
2021/5/14 本日一話目の投稿です。ご注意ください。
勇者エメリーを主軸としたフレッゾ、聖女アリスは魔族四天王の牙王レオの猛攻を受けていた。
「おぅら!」
レオの武器はその強靭な肉体。自身の肉体を鋼鉄以上の硬度にし、魔力を纏いエメリーを攻撃する。
「ぐぅっ」
エメリーが吹き飛ぶも、その真下を潜り、リプトゥア国のギルドマスター【フレッゾ】がレオの足を狙う。
「はぁ!」
双剣の二撃による攻撃も、
「ぬるいな」
膝を固め防御したレオには届かない。
「本命は私ではありません」
駆け抜けながら言ったフレッゾの言葉に、レオが目を細める。
「ライトシュート!」
放たれたのは聖女アリスの聖なる光弾。
「っ! しゃらくさいっ!」
裏拳でこれを弾いたレオに対し、アリスが更に動く。
杖を持ち、構えたのだ。
「ほぉ、前に出る聖女も面白い」
「いいえ、絶対に出ませんっ!」
アリスはそう言い切りながら杖を振る。
空を切るかと思われた杖の後方から静かな足音。
戦線に復帰したエメリーがアリスの振った杖に乗り、勢いを加算させたのだ。
「オーラブレイドッ!!」
勇者の剣、そしてオーラブレイドから繰り出される強烈な交叉攻撃。
「くっ!?」
レオはこれを両の手で掴み、受けた。
致命傷にはならずとも、レオの手からは確かに赤い血が流れたのだ。
(いける!)
自分の攻撃が通じた。エメリーがそう思った時、レオは次の攻撃に移っていた。思い切り手を引き、剣ごとエメリーを引き寄せたのだ。エメリーの顔の先には、大口を開けたレオ。
「わっ!?」
エメリーは仰け反り、左手のオーラブレイドを消して勇者の剣を両手で引っ張った。
しかし、レオの膂力はそれ凌駕していた。
勇者の剣を手放すしかない――そう思った時、フレッゾがレオの腕に強烈な一撃を叩き込んだ。
「チィッ!」
腕が痺れたレオが腕を払いながら舌打ちする。
レオから離れたエメリー、フレッゾ。
後方からアリスが回復魔法を発動するも、その心中は穏やかではなかった。
(牙王レオは余力があるのに対して、こちらは常に全力……。いえ、全力でなければレオの猛攻に付いていけないんだ。私の残り魔力を考えると……!)
片や切れた手をペロリと舐め嬉しそうに笑うレオ。片や肩で息をするエメリーとフレッゾ。
「戦いにくい相手だが……それだけだ」
レオの言葉に更なる警戒をするエメリーとフレッゾだったが、レオはその警戒網を一瞬ですり抜けたのだ。
いつの間にか二人の背後に抜けたレオは、裏拳を一発放っただけでフレッゾを遠くへ吹き飛ばした。
「くぉ!?」
「フレッゾさんっ!」
アリスが叫ぶも、レオの攻撃はまだ止んでいなかった。
受けが間に合ったエメリーも弾き飛ばし、その足でアリスの下へ走ったのだ。
アリスが後方へ跳ぶも、その距離はレオにとって些細なものだった。
フレッゾ、エメリーがその速度に追いつく訳もなく、遂にアリスはレオによって捉えられる。
「っ!?」
首を掴まれ声も出せないアリスが苦しみ藻掻く。杖を落とし、じたばたと動く足も、レオには届かない。
「何故俺がこの細い首をへし折らないかわかるか? ま、わからねぇだろうな。これはな、俺たちのためだ。お前たちの勇者だの聖女だのの称号がなけりゃ、すぐに殺してやるんだがな」
「なっ……くっ……」
苦しむアリス。
エメリーが復帰するも、アリスの援護という戦力、フレッゾの援護という戦力がなければレオには遠く及ばない。力を一つに集めねば、三人はレオと戦う事が出来ないのだ。たった一人の綻びは、戦闘を傾けるには十分と言えた。
そしてそれは、魔族四天王スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエルと戦うラジーンとドゥムガにも言える事だった。
「ガァアアッ!」
「繊細さを帯びたとしても、その大振りが直らなければただの木偶だぞ? ドゥムガ」
「うるせぇ! 前々から気に食わなかったんだよスパニッシュは!」
「だからと言って人間との共存を推奨するミケラルドに付くとは愚かの極みだ」
「うるせぇ! うるせぇっ! うるせぇっ!!」
ドゥムガの拳を軽やかにかわすスパニッシュ。
跳び、舞い、闇魔法【ゾーン】を使用しかわす。翻弄されるドゥムガの顔に苛立ちが見えるものの、ギリギリのところで冷静でいられたのはラジーンの援護があったからだ。
ラジーンの飛び道具である投げナイフや魔法が、スパニッシュの攻撃の回数を制限していた。
「お前は確かに強い。だが、それだけだ。攻撃に伴う殺気がわかりやすく愚直。何ともわかりやすい。手数で誤魔化しているが、目が慣れれば――」
「――っ!」
今しがた放ったばかりの投げナイフが弾き返される。ラジーンがそれをかわすも、頬が裂けてしまう。
ドゥムガの致命傷を避けるために中距離から攻撃を放っていたラジーンの戦力が削られる。我武者羅に攻撃を繰り返すドゥムガだが、ラジーンの戦闘力が削り切られれば、そこでこの戦闘は終わる。
二人には――いや、この場で魔族四天王と戦う五人にはそれ以上の焦りがあった。
「それに、忘れてもらっては困る。我々にはまだ【覚醒】という手段が残されているという事を」
圧倒的な戦力と手札。最早、事は勇者エメリー、聖女アリスの覚醒を目論むという段階にない。時間を掛け戦場で向上させるはずの力。ほぼ初戦という段階で戦う相手は魔族四天王。
ミケラルドの誤算ではある。
しかし、タダでは転ばないのが、ミケラルド・オード・ミナジリという男なのだ。
最前線から轟音が響き、大地の木が無数に見えた時――五人は窮地に立たされていた。だが、その後、スパニッシュの眼前に、レオの眼前に理解しがたい存在が現れたのだ。
「「なっ!?」」
次回:「◆その530 咬王ミケラルド」
※本日もう一話投稿予定です。




