その526 超長距離砲ぐうる
あれはおそらく魔族四天王の一人牙王レオ。それに、まさか父上も来るとは思ってもみなかった。
「全軍前進!!」
【テレフォン】を使いリーガル戦騎団に最初の指示を飛ばす。
『リ、リーガル戦騎団! 前進!』
流石しっかり鍛えてるな。躊躇いつつも迅速に動いてくれるのはありがたい。ネルソンはこれでよし。
だが、ここに魔族四天王が三人か。……三人? もしかして聖騎士団はもう一人の魔族四天王魔女【ラティーファ】が?
これだけ大規模に動き回っているんだ。動かないはずがない。可能性は非常に高い。
これを指揮した不死王リッチ――なるほど、ちょっと余裕が見えなくなってきたな。
「アリスさん、こっちへ!」
「へっ? は、はい!」
しかし、今はそんな事を考えている場合ではない。
「エメリーさん、ここでストップ!」
「っ!? わかりました!」
俺はエメリーとアリスを隣同士で止め、
「ちょっとお前ら邪魔だっ!」
強い魔力を放って強引にグールやレイスを吹き飛ばした。
「後方に魔族四天王が二人現れました。お二人にはそちらを対処してもらいます。相手は牙王レオ。いけますか?」
エメリー、そしてアリスは互いに見合い、一瞬で決断した。
「「はいっ!」」
なるほど、良い覚悟だ。これまで二人の過去を揺さぶり続けた甲斐があるというものだ。
「ドゥムガ、ラジーン! 親子喧嘩の仲裁を頼む!」
『じょ、上等だっ!』
『お任せを!』
「フレッゾさん、エメリーさんと共に牙王レオをお願いします」
『かしこまりました。ははは、とんだ貧乏くじですな』
「よし、それじゃあお二人とも、腰を落としてこちらへお掛けください」
土塊操作で形成した二つの椅子が地面から生えてくる。
「す、座るんですか!?」
「戦争中にっ!?」
「いいから早く!」
俺の催促もあり、二人はすぐにそれに腰掛けた。
「本日のご乗車誠にありがとうございます!」
「「は?」」
「片道切符のストーンバレッドシャトルへようこそ! シートベルトをおしめください!」
背もたれが伸び、エメリーとアリスの肩、と腹部が固定される。
「ちょ、ちょっとミケラルドさんっ!?」
「戦争と冒険の世界へようこそ! バナナはおやつに含みます!」
じたばたとしたアリスが俺に何か訴えかけるも、今は戦争中。ふざけている場合ではないのだ。
「グッドラック!」
親指を立てて二人にそう言った直後、大地はせり上がり浮き上がった。
「「ま、まさかっ!?」」
「倒せないまでも引き留められたら後でご褒美をあげます! それじゃあ、よい旅をっ!」
「「ミ――」」
二人の返答を聞かぬまま、大地は俺の【サイコキネシス】により、前線基地の近くへ跳んでいったのだった。
そう、音よりも速く。
よし、上手く着いたみたいだ。一瞬アリスがこっちを睨んだように見えたが気のせいだろう。二人とも良い表情をしていた。
俺の固有能力【徒党の親玉】があればドゥムガはほぼSSと言える。そしてラジーンはSSSと言えるだろう。魔族四天王と言えども魔王の復活前。各々強化能力や魔法を発動したとしても多少の時間を稼げるはず。
スパニッシュはこれでいける。
問題はエメリー、アリス、そしてリプトゥアのギルドマスター【フレッゾ】だな。【徒党の親玉】の庇護下にあってもSSの殻は破れない。何かしら援護が必要だろう。ミナジリ共和国であれば領域が使えたんだが、ないものねだりをしても仕方ないだろう。
さて、どうやったものか。
「グルァアアアッ!」
と考えていたら、グールがようやく俺の間合いに戻って来た。
グール? っ!
「これだ!」
「ギィッ!?」
俺はグールの頭をぐっと顔に近づけた。新武器の発見に接吻まで数センチメートルくらいまで近づけてしまった。何故襲ってきた側であるグールが離れたがっているのかは不明だが、俺はそれをキュッってやると供に、スパニッシュへとプレゼントした。
「逝ってこいっ! そんで、もういっちょ!」
グールという名の砲弾がスパニッシュ、レオへと飛ぶ。
ふむ、中々いいな。【超長距離砲ぐうる】と名付けよう。
レイスを捌きつつ、前進。グールを捕まえ砲弾に。これで後方の戦闘に均衡がとれるはずだ。
だが、不死王リッチがこれを許すはずがない。それに、リプトゥア国の王だったゲオルグ王が姿を見せていない。息子のゲラルドは、リプトゥア国を守ると共に、おそらくゲオルグ王を探しにこの戦争へ参加しに来ている。
学友としてはゲラルドと父ゲオルグを再会させてやりたいが、指揮官ミケラルドとしては、会わせたくない。時間があればいいのだが、これは戦争。ゲラルドの戦力は敵の数を減らす事に使いたいのだ。
出来れば見つけ次第、仕留めたいというのが正直なところだ。ん?
「ちっ、動いたか。流石に早いな」
俺の【超長距離砲ぐうる】が五発目、六発目を迎えた頃、不死王リッチが動いた。先程同様、新たな【闇空間】を発生させたのだ。
前回は後方。しかし、今回は――、
「俺の……前、か」
次回:「その527 魔族軍の最大戦力」




