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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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527/917

◆その524 魔族の動き

 せり上がり、浮いた大地が物凄い勢いで飛んでいく。

 そこにはミケラルド、エメリー、アリスが乗っていた。

 ミケラルドの【サイコキネシス】により高速に動いたそれは、魔族の集団がいる大地に向けられた。轟音と共に妖魔族不死種であるグールが弾け飛ぶ。

 直撃の瞬間、乗り物(大地)から降りた三人。内二人――ミケラルドとエメリーがグールの頭上を叩き、大地を鳴らす。周囲のグールを巻き込んだ強力な一撃は、軍とは呼び難い中央軍の強さを物語った。


「はっはっは! ぶっ潰せ!」


 左翼のドゥムガがこれに追いつくようにグールを引きちぎる。


「まったく、あいつは品がないな」


 右翼のラジーンが静かにグールの首を斬り落とす。


「「ウォオオオオオオオオッ!!」」


 中央左、右の法王騎士団と冒険者も猛った声を出し、これに続く。

 右翼の後ろに控えるガンドフ陸戦隊。そして中央後方にはリーガル国戦騎団が控える。この時、既にリーガル国戦騎団の団長――ネルソンは左翼後方へ軍を動かしていた。

 これは、左翼の内に冒険者を置いた事による弊害と言えた。その理由は、現在冒険者が担っている位置に聖騎士団を置くはずだったからである。

 左翼後方には軍はなく、再配置する時間がない。

 戦争が始まってから調整する他なかったのだ。これを迅速に行ったネルソン団長に、中央の最先端にいるミケラルドが言う。


「ネルソンさん、ナイスです!」

『戦場は生き物、ならば乗りこなすだけです!』


 ミケラルドに届く【テレフォン】からのネルソンの言葉。

 既に各所で戦闘が始まっている。そんな中、アリスを挟むように動くエメリーとミケラルド。

 すると、勇者エメリーがグールを斬りながら左翼の冒険者集団を見た。そして何かに気付いたようにミケラルドに言ったのだ。


「ミ、ミケラルドさん!」

「はい、何でしょうっ?」


 ミケラルドはグールを振り回し、不死王リッチに向かって投げながら言った。


「冒険者の中に【ゲラルド】さんがいました!」

「ほ、本当ですかっ!?」


 アリスが驚きを露わにする。


「えぇ、そうですね」

「知ってたんですか!?」


 エメリーの言葉に、ミケラルドが答える。


「情報が冒険者ギルドに流れた後、知ったんでしょうね。リィたんが言ってましたよ。『ゲラルドにリプトゥア国に送って欲しいと頼まれた』って」

「そういう事でしたか!」

「ゲオルグ王が動いてるって情報は流してないですが……リプトゥア国は彼の故郷ですからね。動くとは思ってました。他にも【緋焔(ひえん)】が来てますよ」

「「ラッツさんたちが!?」」


 驚くアリスとエメリーに、ミケラルドが続ける。


「元ホームタウンですからね」

「聞いてないです!」


 アリスが言うも、


「言ったら気にしちゃうじゃないですか」

「じゃあ何で言ったんですか!?」

「後で言うと怒るじゃないですか。あ、そんな事よりレイスたちが動き始めました。ご注意を」

「くっ! ライトシュート!」

「オーラブレイド!」


 幽体とも言える透ける身体を持ったレイス、その上位魔族アークレイスは、物理的攻撃が効かない。有効な手段は武器に魔力を纏わせる事だが、それ以上に有効なのは魔法そのものである。特に光魔法には弱い。

 アリスが遠隔魔法、そしてエメリーが近距離魔法で牽制しつつレイスたちに攻撃する。そして二人で対処しきれない中距離の敵を担当するのがミケラルドである。

 これを見ていた右翼のドノバンがラジーンに言った。


「何故ミケラルド様は【大津波】を使用しない? 【大津波】を発動させれば戦況は一気にこちらに傾く」

「それでは世界のためにならないからだ」


 ラジーンの答えはドノバンが理解出来ない答えだった。


「どういう事だ?」

「今回の目的は勇者エメリー、聖女アリスの覚醒にある。謂わばこれは勇者と聖女の試練と言える」

「……なるほどな。この事は?」

「誰にも言える訳がない。ミケラルド様の能力を知っている部隊長――つまり私とドゥムガにだけ渡された情報だ」

「確かに、これは墓まで持って行かなければならない情報だな」

「特にあの二人には言えないだろうな」

「しかし不気味だな――不死王リッチ……」

「ミケラルド様がグールをあれだけ投げ飛ばし、挑発しているにも関わらず防ぐだけで動く気配がない」


 ドノバンとラジーンが魔族軍中央にいる不死王リッチを見ている頃、同じような違和感を覚えていたミケラルド。


(流石に動じないな。だが気になる。何故後方のアークレイスたちを動かさない? 数で勝っているという余裕? いや、相手はシェルフを狙おうとした知恵者――シェルフ?)


 直後、ミケラルドは味方の方へ振り返った。そして、再びリッチを見て気付いたのだ。

 それは、前方の連合軍が魔族軍と交戦を始めた時に起こった。


(っ! まさか!?)


 不死王リッチは両の手を左右に広げ、禍々しい闇を展開したのだ。

 ミケラルドはその魔法を知っていた。何故ならそれは、ミケラルドが愛用し、不死王リッチが過去、ヒミコ率いるダークマーダラーをシェルフに送り込んだ魔法だったからである。

 闇魔法、【闇空間】――。

 発動と共に、それは中央後方へと飛ばされた。中央後方とは(すなわ)ち、リーガル国戦騎団の背後である。


「まずい!」


 ミケラルドがそう言った時、二つの【闇空間】から強大な魔力が出てきた。


「ふん、窮屈極まりないな」


 出て来たのは、魔族四天王――吸血公爵【スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエル】。


「ガハハハハッ! 食い散らかしてやる!」


 獅子の顔をした巨大な大男、魔族四天王――牙王(がおう)【レオ】。


(魔族四天王が……三人だって!?)


 この時、余裕のあったミケラルドの顔に初めて焦りが見えたのだった。

次回:「◆その525 三王の脅威」

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