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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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524/917

その521 簡素な部屋

 地図上に置かれた――【兵棋(へいぎ)】と呼ばれる俺が作った駒を動かし、これまでの流れを復唱する俺。


「ドゥムガとサイトゥが左翼、その内に聖騎士団。中央には私たちで、その隣を法王国騎士団にお任せし、ラジーンが右翼ですね。中央後方にリーガル国戦騎団を置き、右翼後方にはガンドフ陸戦隊……となると冒険者は左翼後方かな」


 隣から地図を見下ろすエメリーが言う。


「ですね」


 彼女はこの一日で化けたと言わざるを得ない。

 この作戦会議室に顔を連ねた歴戦の者たちを前に動じていない。それ以上に、彼らに有無を言わせない存在感がある。

 アリスなんて、可愛らしく作ったアリスの駒を(つつ)きながら「むぅ~」と(うな)っているのに。まぁ、この場合、どちらも凄いと言うべきなのかもしれないな。


「おそらく、数の関係上防ぎきれない箇所もあるでしょう。リーガル戦騎団は適宜両翼に広がれる準備を」

「中央は絶対に抜かれない、と?」


 リーガル戦騎団の団長【ネルソン】が(うかが)うように聞く。


「絶対に抜かれませんよ」


 俺がそう言うと、ネルソンはただ喉を鳴らすだけだった。


「ま、こんなところでしょうか。物見(ものみ)からの情報が入り次第、動きます」

「「はっ!」」


 気合いの入った返事を貰った後、身内以外は外へいそいそと出て行く。

 俺は仰々しい指揮官の椅子にどっかりと座り込んだ。


「ふぃ~……」


 俺の溜め息を拾ったのか、コバックが動く。


「どうぞ」


 カップに入った水を渡され受け取る。


「ありがとう」


 コバックは無言で控え下がって行く。勿論、警護のドノバン、イチロウ、ジロウも一緒である。

 ドゥムガ、ラジーンも準備があるようでコバックの後ろに続いて行った。

 作戦会議室に残った勇者エメリーと聖女アリス。

 ほんの二時間程の会議だったが、彼女たちの顔にも疲れが見える。

 俺はそんな二人を見て言った。


「お疲れのようですね」


 この段階で言葉を取り繕っても仕方がない。

 俺は思った事をそのまま言ったのだ。

 二人は否定も肯定もせず、ただ気まずそうな顔を浮かべた。


「部屋を準備してます。今の内に休んでおいてください」


 すると、エメリーとアリスは見合い、コクリと頷いたのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「わぁ」


 感嘆の息を漏らしたのがエメリーで、


「うわぁ……」


 やや引き気味な声を漏らしたのがアリスである。

 彼女たちは何を見たのか。それは二人で使う共同の部屋である。

 造りこそ簡素であるが、戦争には似付かわしくない中級ホテル並みのモノが揃っている。


「窓がないのに何でこんなに明るいんですか? それに、息苦しくない……」


 アリスの疑問に俺はベッドの近くにある手の平(だい)の石を持ち上げた。すると、部屋が一気に暗くなったのだ。


「……もしかしてその石で魔力供給を?」

「そういう事です」


 俺は石を所定の位置に戻し、ニコリと笑って見せた。


「正確には、この石にマジックスクロールを貼ってるんですよ」

「でもそれだと容量的に難しいんじゃ?」


 コトリと顔を傾けるエメリー。

 するとアリスが言った。


「魔素……ですか?」

「ご名答。流石ホーリーキャッスルに出入りしてるだけありますね、アリスさん」

「あそこにもこういった仕掛けがありますから」

「アリスさん、魔素って?」

「うっ……」


 エメリーが聞くと、アリスは言葉に詰まってしまった。

 まぁ、それを詳しく説明出来るレベルではない……か。


「魔素というのは、自然と身体から漏れ出る微量の魔力の事ですよ。それを吸い取って、マジックスクロールの動力としてます。なので、魔力保持者が部屋にいるだけである程度の事は出来てしまいます」

「むぅ……」


 アリスが唸りながら俺をジトリと見る。

 なるほど、説明は出来なくでも理解はしてるんだな。それだけじゃ納得出来ないって事に。


「床に、負荷を掛ける事で魔力活性を促すマジックスクロール。同様に、人の体温や室内の温度を魔力エネルギーに変換するマジックスクロール。その他、人が動く事で生じる全てのエネルギーをこの石にまわしてます」

「つ、つまりそれって……」

「そう、人が部屋に入った時点で部屋の中の全てが賄えるようになってます。まぁ、お風呂の時は少しだけ減っちゃいますけど、長湯しなければその後は徐々に回復します」

「お風呂もあるんですかっ!?」


 アリスが嬉しそうに眼を輝かせている。

 いや、心なしかエメリーも嬉しそうである。


「ありますよ。ほら」

「…………ん?」

「私の知ってるお風呂とはちょっと様子が違うような?」


 アリス、エメリーの感想は(もっと)もである。


「これが浴槽なのはわかりますけど、この筒状のうねうねしたやつは……?」

「シャワーです」

「「シャワー?」」

「浴室内にもいろんなところにマジックスクロールが貼ってあるんですけど、まぁ細かい説明は省きます。部屋で集めた魔力をこの浴室にまわし、火魔法と水魔法によって温水を出す事に成功しました。エメリーさん、手を」

「え? はい」


 マジックスクロールを起動させ、手を差し出したエメリーにシャワーのお湯を当てる。


「わ、あったかいっ!」

「構造上の関係でシャワーの勢いの調整だけが出来ないんですけど、排水もクリーンウォッシュのマジックスクロールを利用してるので結構な自信作です」

「これ、ずっと出るんですか?」

「えぇ、ここの起動部分をいじらなければ。お二人で三時間くらいまでは持つはずです。それ以上使う場合はやっぱり室内の魔力供給が追い付かなくなるので、ご自分で補給してください。まぁ、大した量じゃありませんけど」

「こ、こんなの……ホーリーキャッスルにもない……」


 アリスがわなわな震えてる。これ以上この場にいればまた何を言われるかわからないので、俺は「じゃ、後はお二人でごゆっくり」とだけ言い残し、その場を後にした。

 落ち着いたらホテル事業にも力を入れようかと検討中のミケラルド君だった。

次回:「その522 問題発生」

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