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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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513/917

その510 せいじょときゅうけつき

 聖女と吸血鬼。そんないかにもな組み合わせ。

 俺としてはアリスの事が嫌いじゃない。だが、アリスの使う聖加護は超が付く程に苦手である。というより弱点である。

 一歩間違えば俺は昇天し、天界から今後の展開を見守る天使ミケラルドとなるだろう。悪くないアイディアだが、事はそう簡単ではない。

 何故なら俺は元首。一国の指揮を執るトップなのである。

 魔族との戦争が起きるのなら、それを止めなくちゃいけない。しかし相手は魔族。止められる訳もない。ならばやらなくちゃいけないのは、人界に勝利をもたらす事である。

 戦争に勝つ事。どれだけ効率的に勝つかという事が求められるのであれば、それをやらない手はない。それが、このアリスへの交渉なのだ。

 しかし、アリスはいない。

 俺の目の前にはアリスがいないのだ。


「アリスさん、ミケラルドです。お話があるんですけど?」


 扉相手にそう言うと、その奥から返答が届いた。


『にゃ~お』

「一度顔を突き合わせておいて居留守ってのは無理があると思いますけどぉ? あのー、アリスさん?」

『……こ、ここ女子寮ですよっ!』

「はい、ですから入館許可証を発行してもらいました」


 アリスに見える訳もないが、俺は首から下げているソレを掲げて見せた。

 まぁ、これは野次馬たちへの対処でもある。公式に来たと明言すれば、ある程度通り(、、)もいいだろう。


『……何の御用でしょうか?』

「ちょっとご相談があって」

『相談というのは何でしょうか』

「ここでは言いづらい事ですね」

『そ、そういうのは言わなくていいですっ!』


 こちらは聞かれたから答えただけなのに。何と言う理不尽だろうか?

 がしかし、確かにこれは悪手だったかもしれない。

 何故なら俺の耳には――


「言いづらい事っ!」


 と、キッカが興奮した様子が聞こえ、


「わぁ? わぁっ? わぁっ!?」


 と、勇者エメリーが焦る声が聞こえ、


「くっ、伏兵でしたかっ!」


 と、シェルフの姫メアリィから意味不明な言葉が聞こえ、


「ふぅ……ふぅう……」


 と、鼻息の荒いクレアの声が聞こえ、


「なるほど」


 と、強い視線を向ける剣聖レミリアの声が聞こえた。

 他にも、女子寮の女子たちが熱い視線だったり、興奮の声を漏らすなど、この狭い女子寮(せかい)でのホットな話題を提供してしまったのだ。

 むぅ、失敗してしまった。ここではやはりまずかったか。


「ぜ、是非、中でお話したいんですけど――ぁ」


 続けて言った言葉も失敗――そんな事もあるさ。吸血鬼(ニンゲン)だもの。


「「おぉおおお~~~~っっ!!」」


 時すでに遅し。興奮冷めやらぬ野次馬たちの声。

 非常に楽しそうで何よりではあるが、これではあらぬ噂が立ってしまう。


「公式におうちデートに誘ったぁ!」

「しかも女子寮っ!」

「あれが吸血鬼の文化なのねっ!」


 吸血鬼の生態としても、人間としてもおかしな行動だったとは思う。

 しかし、こんな展開になるとは思いもしなかった。失敗失敗。


『い、今は都合が悪いですっ』


 そんな反省をしていると、ようやくアリスから返答がきた。

 ふむ、そういう事なら仕方ない。ここは一旦引こう。


「わかりました。また後日伺います」


 俺はそう言い残し、アリスの部屋を後にした。

 次に向かう先は――――、


「へ? え? へっ!?」


 そんな間の抜けた声を出したのは、勇者エメリー。

 扉の隙間から見える右目の変化には中々面白いものがあった。


「どうもエメリーさん」


 俺が満面の笑みでそう言うと、キッカの部屋から――、


「側室きたぁあああああっ!」


 とか聞こえた。

 それ以外にも、


「流石吸血鬼! 見境ないわね!」

「さんかくっ! かんけいっ!」

「三角で済むはずないでしょ! 一国の元首なんだから十角くらいカタイわよ!」

「魔王よ魔王!」

「ひゃ~!」


 ……なるほど、今日は失敗デーだな。

 早朝に地龍テルースとの交渉が上手くいった反動だろう。世界は上手い事均衡しているようだ。


「ど、どうも……」


 と、エメリーが挨拶するも、どうしてか片目以上の隙間を見せてくれない。

 この扉の稼働範囲はそんなに狭くないはずなのだが?


「ご相談したい事があるんですけど、お時間よろしいですか?」


 もうこれ以上、噂が悪くは広まらないだろうとし、俺は気にせず続けた。


「い、今ですか……?」

「出来るだけ早いと助かります。後、扉はもうちょっと開けてくれると助かります」


 すると、


「……こうですか?」


 左目も出て来た。俺の意図する開き方とかなり差異はあるものの、会話は成立するだろう。

 だが何故中腰で、尚且つ逃げ腰なのだろうか?


「まぁそれでも結構です」

「相談というのは……?」

「一緒にリプトゥア国へ行きませんか?」


 そう言うと、


「は・ね・む・ぅ・ん!」


 まぁキッカですけど。

 リプトゥア国は、勇者エメリーにとって余り良い思い出のない場所である。だからこそ、そんな場所へ俺がエメリーを誘うには理由がある。それくらいはエメリーにもわかるはずだ。

 俺はしゃがみ、エメリーと視線を合わせた。


「勇者覚醒の条件が揃ってる場所があるんですよ」


 エメリーは目に驚きを見せ、俺の意図をようやく理解してくれた。

 そんなエメリーの反応に周りが気付ける訳もなく、俺の背後の扉が開いた。

 出て来たのは杖を持って構える……どこかの聖女(、、、、、、)


「そこの存在X! エメリーさんから離れなさいっ!」


 聖女アリスのバックアタックである。

女子寮の廊下で一話使うとは思いませんでした・x・


次回:「その511 聖女アリスのバックアタック」

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― 新着の感想 ―
[一言] 大丈夫だ、今はアリスがその気であろうとなかろうと、その内主人公をすきになるさ。 俺的には既に好感度ははち切れとる気がするけど
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