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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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512/917

その509 ナタリースープレックス

「――と、言う訳なんだけど……」


 事の顛末(てんまつ)をナタリーとリィたんに話しているものの、やはりというか何と言うか、ナタリーは終始無言で俺を見ている。睨んでこそいないが、色んな感情が入り混じった目をしている。ふきだし(、、、、)を付けるのであれば「どうしてくれようか、コイツ……」といったところだろう。


「……むぅ」


 老練な翁のような(うな)りである。

 リィたんはナタリーを見つめている。もしかしてナタリーの気持ちがわかるのだろうか。


「…………わかった」

「へ?」


 ナタリーの言葉に、俺は間の抜けた声を出してしまった。


「わかってないけど、わかったのっ」


 ちょっと語気を荒くして、ナタリーはそっぽを向いた。


「え、でも……ナタリースープレックスは?」

「何それ?」


 今度は睨んできた。

 俺は慌ててナタリーから目を()らし、ちらりとリィたんを見る。


「さっさと闇ギルドを潰せば済む事だ」


 リィたんはいつも単純明快である。


「確かにね」

「木龍グランドホルツが動き出したようだな」

「あ、やっぱりその噂出回ってるの?」

「冒険者ギルド経由で生徒たちから聞いた」

「流石ギルドは情報が早い。でも何でこのタイミングなんだろう?」

「陽動……というより、闇ギルドの目を散らせるためだろうな」

「あー、目立つしな」

「表向きは法王国に集った炎龍と水龍に会うため……といったところか」


 なるほどな。

 俺への連絡がなかったのは木龍なりの配慮か。俺が事前にその行動を知っていたとしたら、ある程度行動が制限されてしまう。流石は龍族の生き字引。行動に無駄がないな。


「ミック」

「はい、何でしょうナタリーさん?」

「怒らないから他人行儀はやめて」

「……わかった」

「この後どうするの?」

「昼になったら『エメラさんの行方が知れなくなった』ってクロードさんが行動を起こす。そこから捜索隊を組織して闇ギルドに圧力を掛ける」

「圧力?」

「ジェイルさんとワンリルで森を捜索するから、相手は逃げの一手だろうな。もしかしたらもう逃げてるかもしれないけど、全員がそうとは思えないから……場合によっては収穫があるかも」

「ほぉ?」


 その説明を聞いたリィたんの片眉が上がる。


「強気に動くという事か」

(むし)ろそれくらいやらないと向こうを騙せないからね」

「分裂体の動きは?」

「反応が消えちゃった」

「何っ?」

「あぁ、慌てなくていいよ。多分、カンザスの【闇空間】に入れられただけだと思うから」

「……なるほど、だから本体のミックでも反応を追えなかったという事か」

「でも、エレノアがその【闇空間】を使えるとしたら、地龍テルースの子【アスラン】を捕獲している場所に分裂体を運ぶはず」

「闇空間に閉じ込めたまま……という事もあり得るが?」

「それはないと思う」

「何故だ?」

「闇空間の中でも人の時間は流れてるからね。餓死……というより、その前に大きな声じゃ言えないような事が起きちゃうから」

「何だそれは?」


 美女と美少女の前で「生理現象」と言わなければならないのか?

 あぁ、ナタリーが気付いたみたい。ちゃんとリィたんに耳打ちしている。


「なるほど」

「まぁ、俺の分裂体だしそういうのないけど、相手はそれを知らないからね」

「生かすために外に出す……か。相変わらず人間とはよくわからない事をする」


 言いながらも、リィたんは理解しているようだ。

 水龍リバイアタンのみでは、この人間の世界で生きていけないという事を。


「あ、ミック。あっち(、、、)はどうするの?」

「あっち? あぁ、リプトゥア国か」


 魔族四天王の【不死王リッチ】が動き出したという件。

 現状見張りのドノバンから連絡はないが、この法王国は勿論、ガンドフ、リーガル国も着々と準備を進めている。とはいえ、その指揮をとるのは何を隠そう俺である。

 相手は不死種や妖魔族が多い不死王リッチの軍隊である。

 火魔法と光魔法が有効――というよりそれしか効果がない。

 勿論例外はある。

 それが、【聖加護】という俺の苦手な能力である。


「そろそろ交渉しないとな」

「誰と?」

「……――聖女アリス」


 ナタリーは目を丸くして俺を見るのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「こんにちはアリスさん」


 と、笑顔でアリスの部屋へやって来た俺。

 今頃ミナジリ共和国ではエメラ捜索隊が組まれているのに、何故こんな事をしなくてはならないのか。当然、アリスの協力を乞うためである。

 扉を開けて硬直するアリスに、俺は最高の笑顔を振りまいた。

 するとアリスは……静かにぱたんと部屋の扉を閉めたのだった。


「おやおや?」


 おかしな事に、一度会ったはずのアリスは消え、目の前にはただ扉があるだけである。きっとアリスに会う直前にタイムスリップして過去に戻ってしまったのだろう。俺はコホンと咳払いをし、コンコンとドアをノックした。


『………………どちら様でしょうか?』


 初手では聞けなかった問いだ。

 そう、ここは聖騎士学校の寮とはいえ女子寮である。警戒するにこした事はないだろう。何せアリスは聖女で美少女なのだから。

 だが安心して欲しい。女子寮だからこそ、ここへの侵入……というより入館はライゼン学校長からもらっているのだ。


「ミケラルドですっ♪」


 弾んだ声を廊下響かせると……何故かアリス以外の部屋の扉がいくつか開いた。

 扉から顔を覗かせたのは、キッカだったり、勇者エメリーだったり、剣聖レミリアだったり、メアリィだったりクレアだったり……勿論、その他にも野次馬根性丸出しの女冒険者が、扉の隙間から廊下にいる俺を覗いているのだ。

 だがしかし、アリスからの返答も反応もない。

 これは一体どういう事なのか?

 しかし、そんな俺の怪訝な気持ちを察したのか、扉越しにアリスの声が届く。


『どちら様でしょうか?』


 ………………なるほど、ループ物だな?

次回:「その510 せいじょときゅうけつき」

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