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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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その507 テルースとの再会

 (カンザス)の許しがあるのだろう。

 もう隠れる必要のない地龍テルースが、木々の合間の闇から姿を現わす。

 ローブのフードを被り、そこから零れる長い茶の髪。瞳は黄土色……神秘的で深い色である。肌は白く透き通っている。

 間違いない、地龍テルースだ。

 ここまで長かった故なのだろう。俺はその場でリィたんに連絡(テレパシー)をしてしまった。


『テルースさんが、今、目の前にいる……』

『……でかした』


 今夜、闇ギルドの定期報告があるという事はリィたんも知っている。

 だからそれだけ通信(はな)し、俺はカンザスを見て言った。


「彼女が地龍テルース……リプトゥア国とミナジリ共和国との戦争時、巨大な龍族同士が戦っていた。一方はもしかして……?」

「そういう事。相変わらず優秀だね~」

「けっ」


 どうやらナガレは、あの戦争を思い出したくないようだ。


「彼はデューク・スイカ・ウォーカー。この後、作戦を共に(、、、、、)行動してもらう」

「……テルースです」


 テルースの表情は硬く強張(こわば)っている。

 どうやら俺の正体には気付いていないようだ。まぁ、バレたらバレたで問題だけどな。


「デュークです。カンザス殿、『作戦を共に』というのはどういう事でしょう?」

「明け方までには君も調査に戻るだろう? だからその時にテルースを連れて行ってくれればいいさ」

「龍族をミナジリ共和国に引き入れろと?」

「そう言ったつもりだけどね?」

「私は死ぬのは御免ですよ」

「ミナジリ共和国のZ区分(ゼットくぶん)が気付くと言いたげだね~」


 笑いながら言ったカンザスが――


「そう言ったつもりです」


 ――ピタリと止まる。


「ふふふっ」


 直後、ナガレが後方へ跳ぶ。

 カンザスの殺気が俺に向けられたからだ。

 小心者とは言え、自分の作戦を否定されたら怒るか。

 こいつの底を知る良い機会と思って(つつ)いてみたが……なるほど、ナガレ、カンザスのセットでウチのフェンリル(ワンリル)といい勝負といったところか。つまり、(すき)()いてナガレを掌握出来れば……ミナジリの観測チームは手中に出来る、か。


「……ミナジリ共和国に引き入れるだけ。それだけならば協力しましょう」

「うん、いいよ~」


 カンザスが言うと、パッと殺気が消える。またヘラヘラと笑い出したが、目は笑っていない。

 どうやら根に持つタイプのようだ。

 しかし困ったぞ? 地龍テルースがミナジリ共和国に入って来るのであれば、ジェイルとワンリルじゃ……ちょっと難しいかもしれない。

 やはり俺が出るしかないのだろうな。


目標(ターゲット)は?」

「女性がいいね。エメラかカミナ。あぁ、でもカミナは転移してしまう可能性があるから……エメラかな」


 まるで商品を選ぶかのような選別だ。


「デューク君はミナジリ共和国に彼女を引き入れ、エメラがいる場所まで誘導。そこからは自分の任に戻ってくれて構わない」

「……わかりました」


 この段階で俺はジェイルを動かしていた。

【テレパシー】でジェイルをエメラとクロードの下に向かわせ、匿う。おそらく既にミナジリ共和国のミケラルド商店、その地下にある大会議室まで移動している事だろう。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「あそこです。ミナジリミュージアム前の仮設住宅。手前の家にエメラとクロードが住んでいるようです」

「……わかりました」


 間もなく夜も明ける。

 その前に動くという理屈はわかるが、少し性急過ぎる気がする。

 乗り気じゃなさそうなテルースを見送るのも心に残るものがある。


「あ」


 だからなのだろう。

 俺はその背に声を掛けてしまったのだ。

 そんな間の抜けた声を、テルースが聞き逃すはずもない。


「……何か?」


 振り返る彼女の顔は、少し驚いた表情だった。


「あ、えっと……フェンリルのパトロール区域なのでお気をつけください」

「……そうですか」


 同じZ区分(ゼットくぶん)とはいえ、フェンリルと地龍では格が違う。速度に自信のあるフェンリルだが、通用するのはそれだけ。本気になった龍族を前にしたら、ワンリルは一目散に逃げ出すだろう。


「では、私はこれで」

「ありがとうございました」


 心なしかテルースの言葉が柔らかくなった気がした。

 俺はテルースの前から姿を消すと同時、ミケラルドの姿に戻って仮設住宅に向かった。早替(はやが)えなんてやる事になるとは……ここは舞台裏か何かだろうか。

 まぁ、一人で動いているのだ。これくらいの無理は出てくるだろう。

 因みに、着替えたのはお気に入りのパジャマである。ナタリーがミナジリの四人をディフォルメしたアップリケを施してくれた素敵なパジャマ。

 そんな男がエメラの部屋で待っているのだ。

 もしかして俺はテルースの目に、エメラの間男(まおとこ)として見られたかもしれない。

 噂でも広まったらどうしよう?

 そんなどうでもいい事を考えながら、俺は硬直するテルースに言った。


「おはようございます!」


 元気よく、爽やかに。

 窓を開け、換気してシリアスを追い出し陽気を誘い込むのだ。

次回:「その508 間男と押し掛け女」

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