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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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508/917

その505 定期報告

「かしこまりました、後程ご挨拶に伺います」

「そうしてくれロレッソ」


 賢者の隠遁生活をミナジリ共和国で送る。

 ただそれだけなのだが、流石に見知らぬ幼女がミナジリ邸にいる事はロレッソに報告しなければならないだろう。後は……ジェイルだろうか。


「ジェイルさん」


 練武場でドゥムガ含む部下たちに指導しているジェイルを見つけると、俺は小走りに駆け寄った。

 むすりとしたジェイルの視線が痛いのは気のせいじゃないはずだ。


「休みはどうした?」


 ほらやっぱり。

 ジェイルの中では『今日の俺は荷物を届けた後、ガンドフでバカンス』という予定だったに違いない。そこに俺がやって来れば、そりゃむすりとするわな。


「どうやら確認要らずだったようで」


 ピクリと反応したジェイル。

 俺はトンと頭に指を置き、【テレパシー】の合図を送った。


『しばらく屋敷に賢者プリシラが住む事になりました』

『……いつまでだ』

『死ぬまで』

『安請け合いが過ぎるんじゃないか?』

『彼女(いわ)く、もうすぐ死ぬそうです』

『なるほど?』


 わかってないな、このトカゲ師匠。


『……ふむ、わかった。後程顔を出そう』

『内密にお願いします』

『ミックがテレパシーを使うくらいだ。案ずるな』


 俺がくすりと笑うと、ジェイルがそのまま続けて言った。


『それで、この後はどうするつもりだ?』

『リルハさんとヒルダさんにテレポートポイントを貸しに行こうかと』

『明日にしろ』

「え?」


 思わず肉声が零れてしまった。


『明日だ』

「あ、はい」


 どうやら、ジェイルの中で俺の休みの予定はまだ生きているようだ。

 師匠には逆らえない。そういう訳で、俺は屋敷に戻るのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「プリシラが?」

「うん、お兄ちゃん……じゃなかった、ミケラルド様を呼んで来てくれって」


 屋敷に戻ると、俺は早々にプリシラに呼ばれたのだった。

 コリンの伝言を聞きプリシラの部屋に行くと、先のジェイル同様むすりとしたプリシラがベッドに座っていた。

 ……これはどういう事だ?


「どうしたんですかその顔」

「よかった、私の表情で不機嫌が伝わったようだ」


 どうやら賢者は不機嫌なようだ。


「先程、食事を摂らせてもらった」

「お口に合いましたか?」

「卵の殻が沢山入ってた」

「えぇ、そんなに?」

「卵一個分は入ってたんじゃないか?」

「なんだ、たった一個じゃないですか」

「新手の嫌がらせかと思ったが、そうではない」

「多分コリンが気を利かせて出したんでしょう」


 言うと、プリシラは俺をずびしと指差して言った。


「そう、それだ」

「不機嫌の理由はコリンだと?」

「子供は悪くない」

「素晴らしい感性の持ち主ですね」

「だから(あるじ)を呼んだんだ」

「……シュバイツ(シュッツ)は何と?」

「コリンの問題はミケラルドに言えと」

「まぁ、私が許可しましたからね。安心してください。貴方はゲストですから。コリンも頑張ります」

「私に直接言えというのかっ? コリンに!?」

「良い社会勉強かと」

「トレイで顔を隠しながら恐る恐る『ど、どうでしょうかっ?』なんて言うコリンに対し、何て言えばいいんだ!?」

「『美味しい、卵の殻がなければ完璧だったな』。これでOKです」

「言えというのか!?」

「宿代だとでも思ってくれれば結構です」

「ゲストとは名ばかりか……くっ」

「いいじゃないですか。予期せぬ訪問者ですし」

「ただでは転ばない男だね、君は」

「因みに私はコリンの焼いた黒い塊を食べ切った男です」

「元首の食事はそこまで苛烈を極めたのか……!?」

「貴方のバトンは受け取りますので、死ぬまでにコリンの成長に協力してください」

「……確かに、君には無茶を頼んだ」

「おや、その自覚はあるようですね」

「ふん、あっという間に立場が逆転してしまったね」

「いえ、そうではありません」

「む?」

「なるほど、どうやら余命が短いのは事実のようですね」

「……気づいていたか」

「えぇ」


 部屋に入った時、プリシラがベッドに座っていた時に気付いた。

 プリシラの元気は屋敷に落ち着いた時に消え去った。俺と出会ったあの時がピークだったのは本当のようだ。


「その足、既に動かないのでは?」

「ん、正解。これでようやくベッド生活という訳だよ」

「明るく言いますねぇ」

「言わねば君が困るだろう?」

「賢者でいらっしゃる」

「だろう?」


 ふふんと鼻高々に威張るプリシラをもっと見ていたいが、そういう訳にもいかない。俺は闇空間からある物を取り出しプリシラに渡す。


「紙と……ペン?」

「一筆お願いします」

「誰に?」

「貴方の弟子たちに」

「……わかった二筆書こう」

「揚げ足のとりかたは賢者とは思えないですね」

「今のは単純な嫌がらせだ」

「なるほど?」


 先のジェイルのような反応を見せた俺は、コリンを呼び戻した。そしてジェイルの言いつけ通り、その日はゆっくりと休んだのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 夜中にベッドから起き上がった俺は準備をすると共に部屋を出た。

 待っていたのは、ロレッソとジェイル。


「まったく、日を跨いだ瞬間に仕事ですか?」

「呆れたヤツだ」


 二人の小言に、俺は苦笑しか返せなかった。


「定期報告があるんですよ」

「闇のか?」


 ジェイルの質問に、俺はこくりと頷く。


「お二人の心配は有難いですが、実はそんなに疲れてないんですよ」

「休みは何も疲れを癒すためのものではありませんよ」


 ロレッソの指摘はご(もっと)もである。


「ま、こればっかりは仕方ないでしょう」

「闇が潰れるまでの辛抱……でしょうか」

「予定は詰まってます」


 遂にはロレッソが溜め息を零す。

 すると、ジェイルが俺の胸にトンと拳を置き言った。


「困った時は呼べ」

「呼ばない時がありました?」

「……そういえばないな」


 そんなジェイルを見て、俺とロレッソがくすりと笑う。


「それじゃ、行ってきます」

「お気をつけて」

「無茶はするな」


 聖騎士学校、闇ギルド、前代賢者の捜索、そして魔王の復活か。

 何故世界はもっと単純じゃないのだろうか。そう思いながら俺は【カンザス】と【ナガレ】との合流地点へと向かうのだった。

次回:「その506 合流地点」

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