その503 プリシラの願い
金にがめつく情報を集めていた古賢者。プリシラの前に賢者と呼ばれた者。そして、双黒の賢者プリシラか。
俺が買った打刀を造ったのも、【立体映像】の魔法を作ったのも前代賢者だとプリシラは言っている。
ならば、転生者乃至転移者は、その前代賢者という事になるのではなかろうか。
「どうだい、目的の情報は収集出来ただろう?」
「まぁ、そうですね」
正直、肩透かしに近い感想を抱くが、次なる手掛かりを得る事は出来た。
「それじゃあ今度は私からの願いを聞いてくれないか?」
「願い……ですか?」
七つの玉でも集めて来たのだろうか。
「ほんの些細な願いさ」
「はぁ、危険を冒してまで会いに来てくれた訳ですし、叶えられる事ならば……」
俺がそう言うと、プリシラはその体躯に似付かわしい笑みを見せた。
「ふふふ、ありがとう。それじゃあお願いだ。私の寿命がもう尽きるという事は先程伝えた通りだ」
「明るく言いますねぇ……」
「今日明日死ぬ訳じゃないしね」
「まぁそうかもしれませんけど」
「で、だ。『もう少しだけ、生きなくちゃいけない』ってのもさっき言った通りさ」
そう言えば、その理由をまだ聞いていなかったな。
「貴方の使命のようなもの……ですか?」
「まぁそう言う事だ。あの人からの依頼でね。どうしてもやらなくちゃいけないんだ」
あの人――即ち、前代賢者からの言いつけという事か。
「聞きましょう」
「きっと驚くと思うよ?」
「もったいぶりますね。普通そこまで予防線を張られたら驚きませんよ」
漫画じゃあるまいし。
「魔王を……復活させて欲しい」
おら、おったまげたぞ。
「あ、中々驚いてるんじゃないかい?」
プリシラは俺を指差して小首を傾げた。
そして、俺の眼を覗き込んで、指で目を広げ瞳孔チェックまで行った。
手首を持ち、脈拍まで確認しているところを見ると、俺の驚愕度合いは彼女に筒抜けだろう。
「ふむふむ……全速力で走ったみたいな脈だね。それと、その両目、魚群が泳いでるよ」
「渦でも巻く程に?」
「程に」
同意の相槌を打ったプリシラは、またも笑みを見せて言った。
「出来るかい?」
「え、いや、ちょ……え、何で?」
たとえ吸血鬼だろうが、俺は今、とても人間らしい質問が出来たと思う。
「『考えてもみろ。魔族と闇ギルドが魔王の復活を阻止してるんだぞ? それを阻止しないと大変な事になるに決まってるじゃないか』ってのが師匠からの依頼」
「あ、いや、確かにそうですけど、明確な理由がないと行動なんて出来ないですよ」
「だろうねぇ、君は一国の元首。理由もなく魔王復活のために動こうものなら世界から大バッシングだ。『魔族はやはり魔族だ』と」
「そこまでわかっていて何で俺に?」
するとプリシラは、俺の胸にトンと人差し指を置いて言った。
「たった今、君は、私が、世界で一番信頼出来る存在だからだ」
「会って一時間かそこらで弟子超えの信頼とは驚きですね」
「あんまり驚いてないじゃないか」
まだ脈をとってやがる。
いや待て? 弟子以上の信頼? それってつまり……!
「……あ」
「そういう事だ。リルハとヒルダは私の余命について知らないんだよ」
「いやでも、え、本当に?」
「無論、私の使命についてもね」
「俺だけに話したって事ですかっ?」
「そういう事になるね」
「そういう事言われても困るんですけどっ? そんな一気に信頼するもんです、普通!?」
「君の行動もあるが、この私の女の勘もある。更には予知の最後の登場人物。これこそ正に天啓! いや、運命と言っても過言じゃないねっ!」
ふふんと言い張ったプリシラだが、俺は頭痛が痛いので早退したい気分である。
普段、無茶したり引っ掻き回したりするのは俺の使命だと思ってたが、このプリシラ……かなり強烈なのではなかろうか。
「……魔王を復活させるって言ったって、どうやれって言うんですか?」
「君がやってた事と変わらないよ」
「俺が? うーん……つまり、聖女アリスゴリラ計画と勇者エメリーの化け物計画を急げと?」
「その企画書面白そうだね」
「あぁ、今のは内緒でお願いします」
「まぁそういう事さ。君にやってもらいたい事は彼女たちの育成。それと真なる【勇者の剣】の制作」
この目、プリシラは俺が【聖加護】を使えるのを知ってるのか。
「まったく、どこで調べてるんだか……」
「死ぬ前までには教えてあげるよ」
「看取れと?」
「イイ男に手を握られて天に旅立つのが夢だったんだ」
何て不純な夢なんだ。
だがしかし、どこかで聞いた事のある話だな。
「魔王の復活……という名目より二人の覚醒と言った方が通りは……いいか」
「そうだね。根本的にこれまで人類がやって来た事と変わりない。なるべく急いで欲しいというだけだ」
確かに、魔族や闇ギルドが勇者の覚醒を防いだり、魔王の復活を防ぐのは気がかりだった。奴らに利がなければそんな事をしない。その理由を知りたいところだが、その理由を知る術は現状ない。
ならば、やるしかない……のか。
「はぁ……とりあえず、ミナジリ会議の後、各国と連携してみます。それでいいですか?」
「いいね。それじゃあ早速行こうか」
外を指差すプリシラさん。
「どこに?」
「やだなぁ、これもさっき言っただろう? ベッドは?」
「ベッド?」
そう言えばプリシラはさっき言ってたな?
――――用意してあるところに行くのさ。
「それってつまり――」
「――ミナジリ共和国へ!」
……はて?
次回:「その504 来賓プリシラ」




