その501 プリシラ
前話の、「人物紹介索引」ですが、150以上のキャラを書きました。前に見た時より増えてたら書き足してると思ってください。
――信頼を求めているのであれば、連続して注文はしない。何故なら、信頼の確認にも時間を要するからだ。
ジェイルの言葉は正しかったが、相手が直接確認しに来るのであればその限りではない。
プリシラは俺に会いたくなかった。無論、拒否という意味ではなく、「願わくば」といったところだろう。
先程の魔法……やはりそういう事なのだろうか。
「……『やはり』とは?」
俺がそう言うと、プリシラは困った様子で俺に言った。
「返答に困るね」
本当に困っていらっしゃる。
眉をハの字にし俺を見た後、正面を向くプリシラ。
やがて足を振り下ろし、「よっ」と言って俺が造った簡易ベンチを降りた。
そして、コゾモフ村とは反対の方を指差しながら言った。
「少し歩こうか」
俺は頷き、ベンチを土に戻し彼女の隣を歩いた。
「流石だね、私と会った痕跡を消す、か」
「敵が多い、とヒルダ殿に聞いたもので」
「ははは、違いない」
声は幼女のものだが、対応はやはり大人びている。
歩き方、仕草、視線、呼吸――彼女の一挙手一投足がそれを物語っている。
肉体は若々しくとも、ヒルダが言ったように魔力は……。
「そうだね、まずはそれから答えようか」
「読心術がお得意で?」
「キミ程じゃないけどね」
「お世辞は貴方のが上ですね」
「その世辞にはのせられといてあげるよ」
くすりと笑ったプリシラに俺も微笑み返す。
すると、彼女はすんと鼻息を吐いてから言った。
「おかしな話だろう? 師匠の私がリルハやヒルダより弱いなんて?」
「破壊魔パーシバルは魔帝グラムスより強い魔力を持っていますし、そんなに珍しい事じゃないかと」
「うん、確かにね。あれは弟子が師を追い抜いた典型的な例さ」
「……まるで違う例でもあるかのようですね」
「ないとでも?」
俺はうーんと唸り、虚空を見る。
師を追い抜く以外の実力の逆転……か。
「あ」
「気づいたかい? でも、その先は言うんじゃないよ?」
プリシラがこう言ったのには理由がある。
そうだ、俺は彼女の見てくれに騙されるところだった。
彼女は年齢不詳のリルハと、老齢のヒルダの師なのだ。彼女たちが師を追い抜いたのではない。プリシラが弱くなったのだ。
――原因はそう、老化である。
「これでも全盛期は凄かったんだよ? でも、人間である以上、老いには逆らえない。そういう事さ」
「リルハ殿も使われているその秘術、それが原因ですか?」
俺の考えが正しければ、プリシラやリルハは、自身を幼女の身体にする事で魔力消耗を抑えている――はずだ。
「半分正解かな」
「というと?」
「コレは肉体的行動を円滑にするための知恵。寧ろ、これがなければ私は外を出歩く事すら出来ないだろうね」
活動補助のパワードスーツのようなものか。
だが、そんなパワードスーツにも動力となるエネルギーが必要。
それが魔力という訳だ。
「つまり、魔力を使う事で生きながらえている」
「筋力が落ちれば身体の機能は低下する。それを活性化させるには若々しい身体が必要。何とも皮肉の効いた話だろう? ベッドから起き上がれないのにどう身体を維持すればいいのか。その答えがコレだ」
「肉体的維持を求め、それを強引に魔力で補う。しかし、その代償は魔力の――……」
「そうだね、そこから先は私に譲るべきだ。そういう事さ、魔力の老化が進んでいる」
この話、ナタリーが聞いたら俺を褒めてくれるのではなかろうか?
なるほどな、あちらを立てればこちらが立たずという訳だ。
「……生にしがみついている訳では……なさそうですね」
「人間にしては長く生きたつもりだからね。今更どうこうするつもりはないし、いつ死んだって構わない」
「しかし、敵から隠れるという事は――」
「――もう少しだけね、生きなくちゃいけない」
彼女はいつ死んでも構わないと言ったが、それは彼女の言い分。だが、そこに彼女以外の何かが絡むのであれば、その答えは変わってくる。
「【天啓】……ですか」
言うと、プリシラはにこりと笑った。
「いいね、とてもいい推察だ」
「貴方の意にそぐわない力が働いているのだと思いました」
天啓――勇者エメリーに訪れた神からの啓示。
それがプリシラにも……?
「けど違う」
「では一体?」
「ヒルダの眼の事はクルスから聞いてるだろう?」
法王クルスが漏らしたなんて、一体どこで知ったのやら。
「予知の魔眼……でしたっけ?」
「そこまで万能じゃないけどね」
そういや法王クルスもそんな事を言ってたな。
しかし気になる言い方だ。まるで、ヒルダの魔眼の事じゃないような?
「突如として、ある光景が頭に浮かぶのさ。そして、その光景は必ず現実のものとなる」
そう言った後、俺は足を止め考え込んだ。
振り返ったプリシラは、静かに俺の頭の整理を待っているかのようだった。
「っ! そうか、ヒルダ殿の魔眼ではなく……貴方の!」
「やはり聡いね。そう、ヒルダはただの伝言者。各国に危険だと思われる情報を流していたのは、私だよ」
そうか、そういう事だったのか。
「そして、今この場で私とキミが見合っているこの状況こそ……私の最後の予知だ」
次回:「その502 プリシラの家」




