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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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501/917

その499 荷運びミック

「おぉ【コリン】! また大きくなったな!」

「お兄ちゃん!」


 ミナジリ邸の門番をする元奴隷の【ダイモン】。その娘がこの可愛い幼女――コリンである。現在はエメラやジェイル、シュバイツ(シュッツ)などの指導の下、屋敷お手伝いとしてメキメキ成長中である。

 数か月前までは炭にしか見えないパンを作ったり、炭にしか見えない目玉焼きを作ったり、食事と間違えて炭を出していたあのコリンが……適度な焦げを付けたトーストを提供してくれるこの喜び。

 子供を持った事がない俺でも、この成長は嬉しいものである。


「よしよし」

「えへへ~。でもお兄ちゃん、毎日コリンの事『大きくなったー』って言ってるよ?」

「いいのいいの、子供は毎日成長するものなの」


 そう、転移魔法のおかげでミナジリ共和国にいる事も多い。コリンに会う機会はそう少なくないのだ。だがそれでも、子供の成長や、無限の未来という可能性は素晴らしいものなのである。

 食事を済ませ、コリンとそんな会話をしていると、シュバイツ(シュッツ)がコホンと咳払いをした。


「ミケラルド様、そろそろ出発のお時間です」

「あれ、もうそんな時間?」

「シェンドの町に用がおありなのでしょう?」

「あぁ、そういえばそうだった」

「では、お急ぎを」


 シュッツにそう言われると、俺は名残惜しむコリンに別れを告げ、リーガル国のシェンドの町へ転移した。そこにいるある男に用があるからだ。


「よう【マックス】、元気そうじゃん?」

「ちょっと待てミック」


 と、目を瞑り何か考えている様子のマックス。


「今……考えてる」


 マックスみたいな考えるクマも珍しい。


「何を?」


 そう聞くと、マックスが腰元の剣に手をポンと置き言う。


(コレ)を、ミックに向けるかどうかだ」

「何でだよ!?」

「関所からミナジリ共和国の元首がこちらに向かっているという連絡がないからだよ、アホたれ!」

「……盲点だった。あいや、でもほら、俺って冒険者でもあるじゃん?」

「冒険者でも国境は越えるんだよ!」

「空間を超越しただけだよ!」

「法王国ではよくてもリーガル国はダメなの!」

「俺とクマとの仲じゃん!」

「クマがどこにいるってんだ!」

「いつ俺がクマの話したんだよ!」

「たった今ですけどぉ!?」


 くそ、マックスのヤツ、耳が変になってしまったのだろうか。


「いいから、調書とるからこっち来い」

「えー、いーじゃんいーじゃん」

「おい、見張りの交代頼む」

「はっ!」


 などとクマは人間の言葉を話し、部下に見張りの任務を任せたのだった。

 俺はマックスに連れられ、クマが聞く調書項目に答えながら、マックスの呆れ眼を見ていた。


「以上だ。あのな、これ毎回上に提出しても、初犯って事になるのどうにかならんのか?」

「いやね、今ブライアン殿と折衝(せっしょう)中なんだよこれ。法王国だとクルス殿の鶴の一声で通ったらしいけど、リーガル国だとそうもいかないらしいんだ。まぁ、そういう訳でもうしばらく初犯ミケラルドが何人か見つかるかも」

「それを扱う俺の身にもなってみろよ!」

「えー、何かマックス君の給与明細に『ミケラルド手当』みたいなのがあるって聞いてるけどー?」

「ばっかおま! どこでそれ聞いたんだよ!」

「ブライアン殿」

「くっ、陛下……恨めない自分を恨みますぞ……!」


 見事な忠誠心である。

 大きな溜め息を吐いたクマックスは、頬杖を突きながら俺を面倒臭そうな目で見た。


「……で、取調室(こんなところ)に俺を連れて来て(、、、、、)、どういうつもりだ?」

「さっすがマックス、よく俺をわかってるじゃん」

「ぬかせ、お前がタダで警備に捕まると思うか。任務中の俺を個室に誘導した狙いは何だ?」

「ちょっと頼みがあって」

「……何だよ?」

「はい」

「あん?」


 マックスが俺から手紙を受けとり、それを開封する。

 で、開封した直後に封蝋を二度見する。そして驚きながら俺に言ったのだ。


「何でお前がリーガル国の書簡を持ってんだよ!?」

「今朝、ブライアン殿に書いてもらったから」

王命(おうめい)じゃねぇか!」


 バッと手紙を覗き込むくま。

 直立不動で目を走らせるクマ。

 段々と眉が八の字になっていく熊。

 反省でもしているのか、壁に手を突き困った様子のKUMA。


「異動命令かよ……」

「行先は?」

「ミナジリ共和国のリーガル大使館」

「栄転だな」

「あぁそうだよ! お前っていう裏がなけりゃな! 一体何があった!?」


 肉薄するマックスに、俺は事実だけを述べた。


「――――……なるほどな。俺も暗殺及び誘拐リストに載る可能性があるって事か」

「悪い」

「そいつは謝る事じゃないだろ。ミナジリ共和国の元首の友人。だから危険が迫ってる……名誉な事じゃないか?」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、ここはお前の育った町だろう?」

「だったら、事が済んだらお前が陛下に言ってくれればいい。だろ?」

「……だな。ありがとう」


 マックスの気遣いに感謝しつつ、【テレフォン】のマジックスクロールをテーブルに置き、俺はドアに手をかけた。


「荷をまとめたら【テレフォン(ソレ)】に連絡を。護衛をよこすから」

「わかった」


 周りへの影響を考えるとそろそろ闇ギルドとの決着をつけたいところだ。……そのためには、まずはこの荷物からか。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 リーガル国、ミナジリ共和国の南に位置する法王国。その法王国の東にあるのが、【ウェイド・ガンドフ】が治めるドワーフの国【ガンドフ】である。多くの鉱脈があり、鉱石や宝石などの輸出は勿論、鍛冶の国とも称され、それらの加工品などがガンドフを支える基盤となっている。そんな首都ガンドフの南に位置する小さな農村。それが双黒(そうこく)の賢者プリシラがミケラルド・オード・ミナジリに指示した荷運び先、【コゾモフ村】である。

 良く言えばのどかな村。悪く言えば何もない村。そんな場所だった。


「ここか……」


 俺はコゾモフ村へ入り、約束の雑貨店へと向かうのだった。

次回:「その500 コゾモフ村」

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