その49 まず一歩
「アルフレド様がっ!?」
「しーっ! 声が大きいですってっ」
火急の件のため、執事のゼフは、すぐに俺をランドルフの下へ案内してくれた。
まさか、当日中に依頼が終わるとは思ってなかったようだが、ランドルフは俺の言葉で我に返り、自分の家ではあるが、話が話しだけに、周囲を気にしながら声を潜めた。
「一体何故っ?」
「いや、それはこっちが知りたいくらいですよ」
実際、俺はこの国の内情に精通している訳じゃないからな。
「そもそもミケラルド殿はどうやってその糸口を掴んだのだ?」
「え、えーっと、気がかりな点を追ってたら、公爵家に辿り着きまして」
「その気がかりな点とは何かね?」
むぅ、流石に突っ込んでくるか。
「わ、私がこの家に護送されてきた時、誰かに見られてるかのような視線があったのです。その視線の主を出し抜き、跡を付けました」
物凄い嘘ではあるが、俺が用意しておいた言い訳をランドルフは何とか呑み込んでくれた。
「だが、それだけでレティシアを攫ったとはわからないだろう」
「ではこれを」
俺は一枚の紙をランドルフに渡した。
「……こ、これは、シュバイツの筆跡っ!?」
「レティシアお嬢様誘拐の計画書です。アルフレド様からの指示とも書いてあります。シュバイツ様のご自宅で発見しました」
これも、俺が用意した証拠の一つだ。
勿論、シュバイツを【呪縛】で操り、行動に沿って書かせたものだ。
実際起きた事だから、偽造ではないと言いたい。
ランドルフは、計画書を睨みながら何かに気付いた様子だ。
「そうか! アルフレド様が王位を諦めていなければこれは繋がる!」
へぇ、つまりレティシアを狙った理由がわかるのか。
「どういう事です?」
「レティシアはな、【看破】という特殊能力を持っているのだ」
「それは一体どういった能力なんでしょうか?」
「大きな悪意を持った者を色で見分ける事が出来るのだ。まだ未成熟故、使いこなす事は出来ないようだが、これがコントロール出来るようになれば、アルフレド様にとって、レティシアは邪魔な存在」
そういう事か。
だからレティシアはシュバイツを怖がっていたのか。
悪意がわかるだけで、何を考えているのかはわからない。
どこかのタイミングで、レティシアはシュバイツの悪意に気付いた。だから極力近付かなかったんだ。
…………ふむ、確かに俺のステータスにも【看破】の特殊能力が付いている。
試しに使ってみても、ランドルフには何の色も出ない。
町に出れば、もしかしたら効果の程がわかるかもしれない。
「レティシアお嬢様がいなくなれば、いくらでも悪だくみが出来る……そういう事ですね?」
「陛下への反意とは……なんと恐れ多い!」
ランドルフは拳を強く握って怒りを見せる。
「まぁまだそれしか証拠がないので、確定とは言い切れませんけどね」
「証拠……そうだ、ミケラルド殿! シュバイツはどうしたのだっ?」
まぁ、当然それは気になるところだよな。
「私がシュバイツ様のご自宅を調べた時には、いませんでした。おそらくもう国を出ているかと」
実際には、町で待たせてるんだけどな。勿論、【チェンジ】で顔を変えてある。
「そうか、任務に失敗したとなれば、アルフレド様がシュバイツを消す事なぞ造作もない。しかし……疑問が残る」
「何でしょう?」
「ミケラルド殿が公爵家に行った理由はまぁわかる。しかし、何故そこからシュバイツの家に向かったのだ?」
当然、この質問も予想していた。
俺がシュバイツの家に行く動機がないからな。
「簡単ですよ、そんな事」
「何?」
「私を数日苦しめた相手に、仕返ししようと思っても、別にいいじゃないですか♪」
ぽっかりと口の空いたランドルフに、俺は爽やかな笑顔を返した。
「見つからない自信はありましたし、たとえ見つかっても、ランドルフ様からの依頼で調査中と言えばいいですから」
「…………はは、流石の私も呆れるぞ。ミケラルド殿……」
娘の誘拐事件の調査依頼とはいえ、騎士の家と公爵の家に忍び込む冒険者だ。呆れて然るべきだろう。
「はぁ、こんな事はリンダにすら、口が裂けても言えぬな」
「調査依頼完了という事でよろしいでしょうか?」
「…………うむ、よくやってくれた。ミケラルド殿」
呆れながらも、ランドルフは俺の実力を認めてくれたようだ。今後のランドルフの行動は、気苦労の多いものになるだろう。
そう思い、俺は苦笑してランドルフの手を握った。
「何か用があれば、冒険者ギルドにご連絡ください。すぐに駆け付けます」
「うむ、私は良き知己を得たようだ。感謝する」
そして、ランドルフに依頼完了のサインを貰い、その場を後にした。
この国の闇は深くても、俺にとってはそう難しく考える事でもない。
勿論、今後ランドルフとは、色々関わる事になるだろう。
人間との共存に向けて、俺の足はしっかりと前に進んでいる。
そう自覚出来た一日だった。




