その496 不信感P
「えーっと、次は……ミナジリ村初期のベッドね」
ロレッソが注文した【国営ミナジリミュージアム】用の展示物を、土塊操作で作る俺。
ここはミナジリの屋敷内にある隔離された場所。ここから身内であるダークマーダラーのサイトゥたちが別の場所に運び、その仕分けを今回雇った荷運び員たちにやってもらう。
という訳で、魔族の中に人間がまぎれる事は出来ないという隠れ蓑を使い、二段階運搬をしている真っ最中である。因みに、何故か俺の分裂体も働いてる。
そうそう、コバックの地図は中々の出来だった。あれを各国に共有すれば、いざという時も対応する事が可能だろう。
「地べたに座り込んで物作り……まるで王には見えねぇな、ガキ」
元首になった俺をガキと呼ぶのは一人しかいない。
「何だよドゥムガ、今日の訓練は終わったのか?」
ダイルレックス種のドゥムガが、呆れた様子で俺を見る。
「おうよ、そんでロレッソに言われてな。ここの警護って訳だ」
「何でお前をよこすんだよ。綺麗なエメラさんとか、可愛いコリンとかもっと何かあっただろ」
「警護っつってんだろが。それに、元々俺様はダイルレックス種の中じゃ眉目秀麗で通ってたんだよ」
「微黙醜冷……!? 知らない言葉だな」
「知らない言葉に置き換えてねぇか?」
「ソンナコトナイヨ……ん? 何だよドゥムガ、また地力上げたんじゃないの?」
ドゥムガを取り巻く魔力の密度が、以前会った時より向上している。
俺がそう言うと、ドゥムガはニヤリと笑って拳を握った。
「おうよ、ジェイルのお墨付きまでもらったぜ?」
「へぇ、どんな?」
「あのレミリアには負けねぇってな! へへへへ」
相変わらずレミリアをライバル視してるんだな、コイツ。
「へぇ~」
「おい! もう少し驚いたらどうなんだよ!」
「いや、レミリアさんに勝てるとは言ってないじゃん」
「………………あの野郎!」
ジェイルの言い回しが気に食わなかった様子のドゥムガ君。
「『あの野郎』が何だ?」
と、ドゥムガの背後にいたのは我が師匠。
「げ、ジェイル!?」
「たるんどる」
「な、何がいけねぇんだよ!」
「西に監視の目が一つ、北に二つだ」
「まじか!? くっ!」
ドゥムガが慌てて倉庫から出て行く。
ジェイルが俺を見ると、すんと鼻息を吐いてから言った。
「気づいていただろう?」
「えぇ、まぁ」
「教えてやってもよかったんじゃないか?」
「ジェイルさんが近づいてるのも気付いていたので。ドゥムガにとっては、師匠から言われた方がいいでしょう」
「…………いつ気付いた?」
「屋敷の表口から入ってここに来たでしょう? そのタイミングで気付きました。流石ジェイルさん、気を遣ってますね。ドゥムガなんて真っ直ぐ倉庫に来ましたよ。ここに要人がいるって疑われかねない行動です」
「……教えてやってもよかったんじゃないか?」
「ジェイルさんから言った方が筋が通ってるかと」
「…………そうだな」
「あぁすみません、ちょっと性格が悪い言い方でしたね」
「性格が悪いとは言わないが、いい性格をしている」
「はははは……申し訳ない。それで、いかがされました?」
「届いたぞ」
「へ?」
「【不信感P】から荷物が届いたと言っている」
俺はその場にばっと立ち上がり、ジェイルを見た。
「……行きましょう」
「いや、その前に一ついいか?」
……そういえばジェイルは始めからここに目的あって来たみたいだ。
荷物の存在を知ったのは、屋敷の表口から入った時だろうしな。
「何でしょう?」
「その……何だ……」
もじもジェイル。
俺が首を傾げていると、ジェイルが明後日の方を見ながら言う。
「……最近どうだ」
「切り出し方が、まるで世間話ですね」
「そ、そうだ。世間話をしに来たからな」
正直、荷物が気になるところだが、こういったジェイルも気になるミケラルド君である。
「多忙ですが、元気だけが取り柄ですから」
「ふむ……ミックに少し……言っておきたい事があってな」
やっぱり意図があるのか。
「……ナタリーが心配していた」
何だ? いきなり重い話になったぞ。
「そうですか、ナタリーが……」
「リィたんも心配していたぞ」
「リィたんも、ですか」
「無論、私もだ」
「……突然ですね」
「突然ではない。最近のミックの仕事量は明らかに常軌を逸している。聖騎士学校ので警護、講師、闇ギルド。いつ身体を壊してもおかしくないのだ。もう少し休む事を覚えろ。ロレッソやシュバイツは勿論、エメラやクロード、カミナ、コリンにダイモン。皆心配している」
ジェイルからこれ程までつらつらと言葉が出て来る事に驚きを禁じ得ない。
だが、それ程までに心配されているという事。吐き出したいものを一気に出したからこそなのだろう。
「……そっか、つまりこれは――」
「――【国営ミナジリミュージアム】の展示物作成なんて、ロレッソが少しでもミックを休ませたいがための方便だ」
「……やっぱり」
「代わってやれる事なら何でもやってやる。だから少しは休め」
知らず知らずの内に、皆に心配を掛けさせてしまっていたのか。
なるほど、ナタリーやリィたん、ロレッソが言っても、俺は言う事を聞かない。だからこそのジェイル師匠という訳だ。
「……わかりました。荷物の確認をしたら今日、明日と休ませてもらいます」
「それでいい」
相変わらず無表情に見えるジェイルだが、今見えた彼の表情は……どことなくホッとしていたように見えた。
次回:「その497 元首のお休み」




