その494 毒茶の感想
「今しがた、【毒】と伺ったコレを飲めと?」
「お茶を誘ったのはミケラルド様でしょう?」
なるほど、筋は通っている。いや、全然通ってないけどな。
「でも毒でしょう?」
「毒が入ってもお茶です」
ふむ、中々に煽りよる。
がしかし、これを断りでもすれば「今この場で暴れてやる」という意思がビシビシと伝わってくる。
仕方ないと思い、【毒耐性】と【猛毒耐性】、更には【超毒耐性】や【麻痺耐性】等を発動し、カップを持つ。シギュンをちらりと見るも、彼女は笑ったまま微動だにしなかった。何この人、超怖い。
カップの中身を見、シギュンを見、カップの中身を見、シギュンを見……そしてとうとう俺はそれに口を付けたのだった。
「てぃ!」
ゴクンと一気に飲み干した俺を見て、シギュンがニタリと笑う。
「うわぁ。何ですかこれ、舌がピリピリする」
俺がそう言うと、今度はニコリと明るく笑うシギュン。
「数多くの毒草や毒虫、猛毒を持つモンスターの毒を厳選し作りました。刺激的な味でしょう?」
「物理的に刺激がきてますね」
「ふふふ、逞しい方です事」
にゃろう、俺に毒が効かない事を知ってたような口ぶりだ。
……いや、違う。少なからず歯痒そうに見える。
という事は……なるほど、俺を試したのか。
「一本とられましたよ。私を殺す手段を、ここで一つ消しておきたかったと、そういう訳ですね」
「ホント、殺し甲斐のある男……!」
不服そうに言うシギュン。
つまり今後闇ギルドは、「ミケラルドに毒が通じない」という情報を共有する訳だ。これにより、手段こそ減るものの失敗を減らす事が出来る。
なるほど、ただでは転ばないとはこういう事を言うんだろうな。
「では、これでお茶の義務は果たしたという事で」
「えぇ、今後とも仲良くしてくださいね」
笑顔を突き合わせた俺とシギュンの間には、歪で禍々しい魔力がちらほらありましたとさ。
◇◆◇ ◆◇◆
副団長室を出て、クインの殺気を背中で浴び、法王クルスの部屋に戻った俺は、自分で新たな茶を淹れていた。
「ミケラルド君、深夜なんだが?」
「深夜ですね、クルス殿」
「報告は明日でもよかったのだが?」
「いえ、早いところ口直しをしたくて」
「そういう話をしていないのだが?」
「お宅の聖騎士団副団長殿に毒を盛られまして」
「何!? それは本当か!?」
「外の警備に聞こえちゃいますよ」
「う、うむ……それは本当か? そうなると我が国の権威が失墜するのだが?」
「ちゃんと飲みましたよ、全部。偉いでしょう?」
「何故毒と知ってて飲んだっ?」
「シギュンが飲めって言うので」
「シギュンを闇人と知ってて飲む馬鹿がどこにいるっ?」
「ここに」
俺が自分を指差して言うと、法王クルスは頭を抱えソファに腰を下ろした。いや、あれは落ちたというべきか。
「お茶なんて誘わなければよかったですよ、ホント」
「茶を飲みに行って毒を飲む国家元首か……」
「毒茶だったんです」
「毒は毒だろう」
「シギュンはお茶はお茶だと」
「シギュン寄りになっていないか?」
「まぁ、爺さんよりかは美女ですよね」
「…………くそ、否定が出来ない」
流石、法王クルス。男の中の男である。
「それで、シギュンは何を?」
「こちらへの探りを入れつつ宣戦布告ってところでしょうか」
「ほぉ、遂に自分が闇人だと認めたか」
「いえ、言い切りはしませんでした。流石ですよ、手の内を明かし切らず一手かすめ取られてしまいました」
「クインはどうだった?」
「殺気剥き出しでした」
「殺気は証拠にならんからな」
「でも、シギュンが副団長の椅子にいなければならないという事は理解出来ました」
「言質が取れれば解任に追い込める。しかし、そうはしなかった。つまりシギュンは聖騎士団副団長の権限が必要だという事か」
「今はまだ……でしょうね。そろそろなりふり構っていられないという印象は否めませんでした」
「ふむ……リプトゥア国の様子はどうだ?」
話題を変えた法王クルス。
やはり、魔族側も気になるよな。
「リーガル国のブライアン王には既に連絡済みですが、あの国の兵では太刀打ち出来る相手ではありません。許可を頂き、リプトゥアの北東にテレポートポイントを設置しました。現地の仲間から連絡がきた段階で動ければと」
「電撃作戦になるな。わかった、我が騎士団もいつでも動けるようにしておこう」
「感謝します」
「ウェイド殿には?」
「ぬかりなく。現在周辺の地図を作っていますので、しばしお待ちを」
「彼奴らの驚く顔が見物だな」
「とはいえ、闇ギルドも気になるところです」
「負担を掛けるな。支援金は弾む予定だ」
「天まで弾んでください」
「ふふふ、相変わらず欲深き元首だ」
法王国には何かと迷惑掛けてるが、持ちつ持たれつ上手くやれているのかもしれない。不死王リッチの動き、闇ギルドの動き。どちらも気になるところだが、この一ヶ月が勝負の月になるだろう。
その後俺は、お茶を四、五杯飲んだところで「そろそろ帰れ」と法王クルスに追い出されたのだった。
次回:「その495 現地の仲間」




