その484 荷運びデューク
2021/1/22 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
自分は何をやっているんだろうと思う事はないだろうか?
俺は正に今がその時であり、見慣れた狸商人を前に作り笑顔をするのに必死である。
「……ふむ」
リーガル国の王商、ドマーク商会のドン――ドマーク。
彼が優秀たる所以は、たとえ荷運びする人材であろうと自分の目で面接し、雇用するか否かを決めるところにあるのかもしれない。
俺の履歴書(偽造)と、俺の顔(別モデル)を交互に見ながら、「スカイ君は~」などと俺の名前(偽名)を言っているドマークの真剣な態度を見ていると、何とも申し訳なくなってくる。
俺はそれに対し、「はい!」、「仰る通りです!」、「流石は音に聞く大豪商!」など、意気込みや熱意を伝えながら面接をこなす。
「…………よろしい。では三日後、朝の四時にドマーク商会の裏手にある倉庫前にいらしてください」
「ありがとうございます!」
と、なんとか荷運びの合格を言い渡された俺は、拳神ナガレとの合流地点へと向かった。
◇◆◇ ◆◇◆
「三日後の朝四時に」
「聞いてたよ」
ったく、どこに耳があったのやら。
「これからどうするのさね?」
「旅支度と道具の調達ですかね」
「ふーん、まぁいいよ。アタシは戻って監視の続きだ。何かあった時の連絡方法はわかるね?」
「問題ありません」
「じゃ三日後」
ナガレの奴、左腕を失ったのに実力は些かも衰えていない。
……いや、失ったが故に気合いで元に戻した、か。
そう考えると、ナガレのこの一年は地獄のような日々だったろう。
ここで【呪縛】を発動するか? ……いや、どこに闇の目があるかわからない。ナガレに不審な動きを見せるのはまずい。
――――と、思ってた時期が私にもありました。
にゃろう、「じゃ三日後」とか言いながら俺を尾行してるな?
実力を隠しながらSSSの尾行を撒くのは正直不可能と言える。
ならば、直談判しかあるまい。
俺は曲がり角で止まり、ナガレの接近を待った。
「何か用ですか?」
「おや、偶然だね?」
「最初から尾行しておいて偶然は言い過ぎですよ」
「ふん、アタシは武人だ。強者の実力の底を見たいと思うのは当然だろう?」
「そんな事をしていたら命がいくつあっても足りませんよ」
「余計なお世話だよ」
「ならミナジリ共和国の剣士を狙えばいいじゃないですか」
「あのジェイルかい?」
「そうです、ジェイルとかいう凄腕の剣士です」
「ダメダメ、あんなの隙がなくて近づけないよ」
「私には隙があったと?」
俺が睨むと、ナガレはケタケタと笑って言った。
「さぁ、どうだかねぇ?」
なるほど、コイツは武人なんかじゃない。
反撃しないであろう相手にしか近付かないのだ。
人としてそれは間違いではない。危険からは遠ざかる、当然の事だ。
しかし、奴の言葉を借りるならば、強者の実力の底を観客席で観たいだけなのだ。そして、相手が自分より下だとわかると戦いを挑む。
なるほど、恨みがあるはずのイヅナの前に現れない訳だ。
「次、私を尾行するような真似をしたら、任務妨害行為としてエレノア殿に報告します」
「っ! 生意気な坊やだね……」
鋭い視線を向けるナガレに対し、俺はさらりと言い返した。
「それも威圧行為として報告しましょうか?」
「…………ふん」
ようやく帰ったか。何とも面倒臭い婆さんだ。
だがこれで、俺も法王国に戻る事が出来る。
◇◆◇ ◆◇◆
人目を忍び、法王国へと転移した俺は、そそくさと自分のホーリーランドへと戻った。
「どうしたミック、疲れているな」
「あ、やっぱりまた抜け出してたんだ」
リィたんとナタリーの言葉に癒されながら、お茶をいただく。なんとも素晴らしき空間かな。
「抜け出してた? どういう事です?」
お茶を淹れ終えた聖女アリスが小首を傾げて言う。
「さっきの授業受けてたのはミックじゃないのよ」
「はい?」
ナタリーが簡潔に説明するも、当然アリスには伝わらない。
何故なら簡潔過ぎるからだ。
「ミックは分裂出来るの」
「またまたモンスターじゃあるまいし」
動揺を見せながらも、アリスはまだ信じていないようだ。
ナタリーが俺の腕を指でつまんだので、俺もナタリーに付き合う事にした。
「ひっ!?」
そりゃつまんだ部分が千切れたらアリスも驚くわな。
千切れた部分と、それを床にポイと投げたナタリーを交互に見、慌てるアリス。
すると、ソレがうにょうにょと動き、やがて人の形となり、ルークとなる。
「お嬢様、本日は遠くシェルフの国で誕生した焼き菓子――エフロンをお楽しみください。お砂糖はおいくつ?」
「あ、一つで……って違う!」
と、俺の分裂体と懐かしのやり取りをした後、アリスは突っ込んでくれた。
なるほど、段々と大人になっているじゃないか。
乙女の成長はとても早いものだ。
「……え、キモチワルイ……」
聖女アリスとミケラルド・オード・ミナジリはいつになったら仲良くなれるのか。彼女と平和条約を結びたい系魔族のミケラルド君としては、この行方が気になって仕方ないのだった。
次回:「その485 先手」




