表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

472/917

その470 生餌

「で、やるのは私ですか」


 先程の呆れ眼をそのままグラムスに返した俺。


「アシスタントと言うんじゃ」


 木に縛り付けたパーシバル。

 そして、その木を担ぎ、歩く俺。

 グラムスは木の枝から枝へと跳び移っている。


「おい、お前一体何者なんだっ? 悪い事は言わない。これ以上僕を怒らせない事だなっ」


 そう言いながらも声が震えているパーシバル君。

 俺はデュークの姿だし、この姿でパーシバルとの面識はない。更にはパーシバルの失われし位階(ロストナンバー)は、予め発見し、こちらの手中に置いている。

 着々と力を付けるミナジリ勢だが、闇ギルドの【エレノア】、【シギュン】、そして【魔人】の存在が気になるところだ。

 サブロウの話では、実力が読めないのはこの三人らしいからな。で、そのサブロウが別件で気にしてたのはこのパーシバル。気にしてた理由は勿論、「何をしでかすかわからないから」。コントロールの効かない幹部程危ういものはない。

 それには俺も同感である。だからこそグラムスの提案には俺も乗り気なのだ。


「む、見つけたぞい!」


 グラムスが指差す方向。注視して見ると、ディノ大森林の代名詞とも呼ばれるモンスターを発見した。

 フォルムはヴェロキラプトルを彷彿させる小型の恐竜。ただ、黄色い体表をしている。黄土色の目がギョロリと動き、半円の長い爪はその獰猛さを体現している。


「【ステルスランナー】……!」


 震える声でパーシバルが言ったのも無理はない。

 奴は森林の中を疲れる事なく走り続ける強心臓の持ち主。擬態も得意とし、草木の中に隠れれば見つける事も困難なランクAモンスターである。

 警戒している俺やグラムスであれば、そこまで手こずる相手ではない。がしかし、何の防御手段も持たないパーシバルが目にすれば話は別だ。

 たとえSSS(トリプル)の実力があろうと、パーシバルの場合は魔法があってこそだ。

 ステルスランナーの牙はパーシバルの身体を食いちぎれるし、その爪は簡単に臓腑に届きうる。

 それは大抵の人間に言える事だ。ランクC……いや、ランクDのモンスターならば、無抵抗なSSS(トリプル)冒険者を殺す事が可能だ。

 防御行動というのはそれ程重要で、無防備である事はそれ程重大な過失なのだ。

 で、その無防備なパーシバル君。

 その震えが木を伝い俺に届いている。

 木の枝からすとんと降りてきたグラムスが、何やら自身の(ふところ)をまさぐっている。


「何ですか、それ?」

美味(うま)ぁいソースじゃ」


 懐から取り出した小さな壺。それは、グラムス爺ちゃん印のお手製(こおば)しソースだった。

 グラムスは笑顔でパーシバルの頬にそれを塗り付けていく。


「ふ、ふ、ふふーん♪」


 鼻歌も参入して楽しそうである。

 彼の人生はとても有意義なのだろう。そう見える。


「おひょひょひょひょひょ〜♪」

「やめっ!? 師匠っ! ひっ! く、くすぐ……アハハハハハハハッ!」


 大丈夫、彼の弟子も楽しそうだ。破壊魔(はかいま)なんて呼ばれてるとはとても思えない程だ。


「これも修行じゃ! ほれほれほれほれー!」

「や、や、やめろぉおおおおおおおおおっ!?」


 そんなパーシバルの笑い声もとい悲鳴が響いたところで、【ステルスランナー】が俺たちに気付いた。

【ステルスランナー】の数は四匹。ギョロリと向けられた八つの視線は全てパーシバルに向けられた。


「頼んだぞい」

「まぁ、軽いジョギングみたいなもんですよ」

「お、おい! やめろ! 聞いてるのかっ! やめろって言ってるんだ!」


 パーシバルの静止は、俺たちの右耳から左耳へ通り抜け、グラムスは再び枝の上へ、俺は振り返りスキップを始めた。


「ふ、ふ、ふふーん♪」


 おっと、グラムスの鼻歌が移ってしまった。伝染病か何かだろうか?


「お前! 何、呑気(のんき)に鼻歌歌ってるんだよ! おい、これを(ほど)けぇ!」

「修行の賜物(たまもの)です」

「訳の分からない事言ってんじゃねーよ!」


【ステルスランナー】の速度に合わせ、追いつかれ引き離しの繰り返し。


「くわれる! 食われる! 喰われる! クワレルッ! ギャ!? 噛んだ! 今、噛んだぁっ!!」

「歯が当たっただけだろー」


 背後から聞こえる生餌(いきえ)からの悲鳴は、やがて泣き声へと変わる。


「やめろぉ……やめろよぉ……」

「えっほえっほえっほ」


 スキップから小走りへかわり、パーシバルが失禁系闇人(やみうど)になった時、グラムスが【ステルスランナー】を倒した。

 えぐえぐと嗚咽(おえつ)するパーシバルを前にグラムスがニヤリと笑う。


「闇から抜けると言え」

「い、言える訳ないだろぉ!」


 まあパーシバルは、パーシバルの失われし位階(ロストナンバー)がこちらの手にある事を知らないからな。失われし位階(ロストナンバー)(とき)の番人の手足であり、(とき)の番人の監視者でもある。表に寝返ったと告げ口でもされようものなら、パーシバルの命が危うくなる。

 そう思うのも無理はないし、奴の心はまだ折れていない。


「では、生餌パートツーじゃ♪」


 心底楽しそうな爺である。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「いやぁあああああああっ!? やだぁあああああ!!」


 パートツー、キラービーに襲われるパーシバル君。


「あ、あの……僕はここに置かれただけで……」


 パートスリー、コカトリスの巣にて、卵の隣に置かれるパーシバル君。


「へ、へへへ……へ?」


 パートフォー、緑竜の背に括り付けられたパーシバル君。


「飽きてきたのう」

「いつまで続けるんです?」

「クッション」


 緑竜が背中を岩肌にぶつけようとしてたのを、風魔法で助けると、グラムスは言った。


「そろそろだと思うんじゃがのう?」

「抜けますぅ……」


 おぉ、流石師匠。凄い読みだ。


「聞こえんのう!」

「抜ける! 闇ギルドを抜けます!」

「ほっ、堕ちおった!」


 闇に堕ち、表に堕ちたパーシバルは、最早灰色というか廃人というか。まぁ、このシーソーサバイバルを生きやすくするためには、早々に俺が闇を潰すしかないという事だ。

次回:「その471 木龍の情報」


明日は二話以上投稿できると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
[一言] 殺さないところが師匠の愛なんですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ