表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

450/917

その448 おすわり

 それは、【フェンリル】にとって正に奇襲と言えただろう。

 極限まで魔力を鎮め、弱者を装っていた俺との賭け。

 フェンリルの(げん)によれば、俺が勝てばフェンリルは俺のペットになってくれるそうだ。フェンリルが勝った場合、それは当然食用ミケラルドをゲット出来る事にあるだろう。


「へ? ……へ?」


 このフェンリル、確かに速い。

 真っ向勝負であれば、負けはしないものの少々手こずっていた。いや、場合によっては逃してしまっていただろう。


「ななななな何なのだこれは!? 死んじゃうのだだだだだっ!」


 だが、炎龍ロードディザスターがバグってしまう程の俺を前に、一気に魔力含む多くの能力を解放した俺を前に、フェンリルが起こした行動は……硬直そのものだった。

 ピクリとも動かない身体。当然だ、ただでさえフェンリルを上回る魔力を見せつけ、【威嚇】、【強威嚇】、【超威嚇】の揃い踏みだ。

 腰が引け、八の字(、、、)になった目元は既に勝負を捨てている。

 そう、これは既に勝負ではない。

 フェンリルの戦いの意思は、俺の魔力解放と共に消え去った。

 だが、賭けもあるし、相手もそれを呑んだ結果だ。

 フェンリルも笑って許してくれるだろう。


「へ……えへへへ……へ?」


 危ないクスリでもやっているのかと思うくらい、フェンリルは笑ってくれた。

 人は一定の痛みや恐怖を超えると笑うと聞いた事がある。

 それが本当かどうなのかはどうでもいい事だ。事実、フェンリルは萎縮し、恐怖し、心が折れてしまったのだ。


「怖くないよー」


 遠方から俺の魔力の底を確認出来たのであれば、フェンリルはここへ来る事もなく難なく逃げられただろう。しかし、フェンリルは気付いている。いや、理解していると言った方がいいだろう。

 この場からはもう逃げられないと。

 そして、この奇襲があったからこそ、フェンリルの頭には炎龍を先に襲うという冷静な判断が出来ない。相手が人間だったら難しいだろうが、相手は獣。

 特に、Z区分(ゼットくぶん)相手には【ミケラルド式とんでもトンチ大作戦】と相性がいい。


「フェンリル君」

「は、はいっ!」


 毎秒寿命を削られているような顔をくしゃくしゃにしながら、フェンリルは元気に返事をした。絶対に逆らってはいけない相手を見ているようだ。

 事実、フェンリルにはそう見えてしまっているのだろう。可哀想に。

 俺は【闇空間】からオリハルコンの塊を取り出し、薄く引き伸ばして見せた。

 肌触り良く、角という角に丸みを持たせ、簡単な調節細工を施しフェンリルに言う。


「どうかな? フェンリル君のサイズに合わせた首輪なんだけど?」

「と! とてもよろしいかと!」

「そうか、気に入ってくれたようで何よりだよ」


 俺が微笑み一歩進むと、フェンリルが一歩じりと下がる。


「おや、どうしたんだい?」

「い、いえ! 足が、足が勝手に……!」


 ガチガチと歯を鳴らし、怯えている。

 おかしい、ここにはとても優しそうな吸血鬼さんしかいないのに。


「死んじゃうのだぁあああ!?」


 岩陰にいる頭隠して尻隠さずを体現した炎龍の嘆きも聞こえる。


「だいじょうぶ、いたくない。いたくないよ~」


 爪を伸ばしながら微笑みフェンリルに迫る俺。


「痛いの嫌! 痛いの嫌!」


 動物病院を怖がる犬のようである。


「痛いの――あれ!?」


 いつの間にかフェンリルの背後には岩の壁があった。


「な、何で……?」

「手術室へようこそ」


 そう、俺とフェンリルを囲う岩壁も、屋根も、俺が【土塊(つちくれ)操作】で用意したものだ。そして最後に――。


「ひっ!?」


 地面からせり上がる手術台に乗ったフェンリルの小さき悲鳴。


「いいこだね、いたくないよ~」


 俺が手をワキワキさせながら近付くと、フェンリルはここが世界の中心であるかのように叫んだ。


「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 よし、【(きわみ)嗅覚】と【(きわみ)獣脚】をゲット。

 ぐったりと疲れ果てている【フェンリル】と、どこか距離を感じる【炎龍ロードディザスター】。


「お、お前一体何なのだ!」


 はて、今日何回目の質問だろうか、と考えたところで思い出した。

 そうだった、俺はまだ二人に自己紹介をしていなかった。


「初めまして、俺の名はミケラルド・オード・ミナジリ。北にあるミナジリ共和国の元首ね」

「げんしゅ?」

「まぁ王様みたいなもんだよ」

「王か! 道理で強いはずなのだ!」


 俺の話に興味津々な炎龍との距離が元に戻ると、フェンリルがちらりと俺を見て言った。


「北東に魔界がありますが、そこではないのですか……?」

「人類の国だよ」

「っ! それでは、ここ最近、水龍の加護を受けたというあの!?」

「へぇ、詳しいな。どこから仕入れたんだ?」

「森や山にいても人がいない場所はありません。自然と会話が耳に入るのです」

「へぇ。あ、その首輪の付け心地はどう? 痛かったら言ってね」

「いえ、とても馴染みます」

「そりゃ何より。いくつか魔法を付与してるから前より強くなってるはずだよ」

「あ、ありがとうございます」


 ヒクヒクしながら笑うフェンリル。後でナタリーに名前を考えてもらおう。

 その内、フェンリルも慣れるだろう。まずは闇エメラの餌付け大作戦から始め、人間界の素晴らしさを伝えていこうと思う。


「それで、この後は何をするのだっ?」


 可愛らしく首を傾げる炎龍。

 そう、問題は炎龍(コイツ)なんだよなぁ。

次回:「その449 保護者募集中」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ