その444 絶対災害地域
2020/12/8 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
「なるほど、ディザスターエリアねぇ」
温風とも熱風とも言えない暑めで熱めな風が、俺の頬を撫でる。
魔力で身体を覆っていなければ、常人には生きていけない場所。固有能力【炎耐性】がある俺だからこそ、事なきを得ている。
周囲は粘度の高い溶岩が流れ、蒸気なのか煙なのかわからない気体が包んでいる。
それだけ過酷な場所だというのに、ここには更にモンスターが出るのだ。それはもう沢山。
「はぐれリザードか」
流石というか何と言うか、絶対災害地域と呼ばれる所以だろう。赤い体表、そして硬い鱗を持った【はぐれリザード】はランクSに該当するモンスターだ。四つ足で這う熊二体分の赤いコモドドラゴン……そんな印象だった。
そして、ここは見るからに炎エリア。彼が口から放出する炎ブレスは――
「――わっぷっ!? おい、こっちにも段取りってもんがあるんだよ!」
俺は炎ブレス浴びながら、虚空に響く文句を【はぐれリザード】に浴びせた。
【はぐれリザード】の恐ろしい点は、獰猛というより好戦的な性格というところだろう。獲物と見るや、だれかれ構わず「どこ中だよてめぇ!?」と勝負しに行く残念なチンピラ気質にある。
そんな【はぐれリザード】に肩パンをキメ、絶命させた後、その血をペロリ。
「……猫舌じゃ絶対に舐められない血液だね」
血が熱いという表現はよく見かけるが、事実この血は熱かった。
科学では説明出来なさそうな生物ではあるが、ここは異世界。ビックリ箱の祭典みたいな場所である。血が熱いモンスターだろうが、その血を舐める転生者だろうが存在してしまうのだ。
……よし、【はぐれリザード】の固有能力をゲット……なるほど、【超威嚇】か。【威嚇】や【強威嚇】の威力に不安を覚える日々だったが、これでそれが解決したと言えよう。使いようによっては殺気を放つより楽だからな。
「ランクSモンスター【マグリズリー】」
針金のようで、棘のような体毛が武器の炎色の熊である。
強靭な体毛を使い、転がりながら獲物を突き刺し殺す――聖騎士学校の正規組が出会ったら一部を除き絶命必至の相手である。
四メートルのタイヤが転がってきたら人は死を覚悟するだろう。
今、【マグリズリー】は自分の身体を丸めながらそんな感じで転がってきているのだ。しかも、タイヤはタイヤでも非常に鋭利なスパイクタイヤである。
衝撃と、それを受け切る強靭な体毛は、大地を壊しながら溶岩を突き抜けながら向かって来る。
こういう時は【刺突耐性】と【外装強化】、そして【鉄頭】を使用しましょう。
ごつーんと盛大にぶつかってきた熊公は、意図せぬ急ブレーキに失神してしまう。普段であればミンチにしながら轢き殺しているだろうが、ミケラルド君の身体は特別製である。
「おし、【眩暈耐性】げっと」
……使いどころはあるのだろうか?
さて、ここらにいるのは【はぐれリザード】と【マグリズリー】がメインのようだ。彼らは決して群れではなく一匹で行動する。
しかし、それでも冒険者ギルドは彼らを【ランクS】としているのだ。
つまり、一個体の能力、脅威がランクSに達しているという事。
重ねて言うが、彼らは決して群れではなく一匹で行動する。
だが、縄張りを犯した侵入者が、今俺が倒した二匹の縄張りを侵略したとなれば話は別だ。
この時、主を失った縄張りの新しい主は誰になる? 俺か? いやいや、彼らにそんな理屈は通じない。
皆、こぞってその縄張りを自分の者にしようと躍起になるのだ。
個体能力だけでランクSのモンスターが集合すればどうなるか。
答えはいたって簡単である。
「なるほど、こりゃ災害だわ」
大地を揺らし向かってくるモンスターの数々。
周囲の反応を【探知】や【魔力探知】で追ってはいたが、ほぼ全てのモンスターがやって来たと言っても過言ではないだろう。
一匹を倒せば全てがやって来る。そこに外敵がいたとなればソレという名の俺は、彼らにとって敵でしかない。
剣神イヅナですら生き残れないであろう、圧倒的物量。
それは正に災害で、正に殺意の塊と言えた。
「よし、今日からここは……俺の縄張りだ」
そう言った後、俺は内に眠る魔力を解放した。
モンスターたちの反応を待ってる程、俺は間抜けではない。
俺の魔力に驚きブレーキをかけたモンスターたちを優先的に倒すため、トップスピードでその集団に飛び込んだのだ。
吹き飛ぶ【はぐれリザード】と【マグリズリー】。
吹き飛ぶ【はぐリ】と【マグリ】。
吹き飛ぶ……――、
「えーっと、名前何だっけ?」
と、手の土埃を払ったところで、俺はディザスターエリアの一等地を縄張りにしたのだった。
いい汗をかき、炎龍ロードディザスター戦前の軽い準備運動。
程よく身体が温まった頃合いを見て、俺はひと際大きい魔力へと向かった。
そう、先程の災害のパレードに参加しなかった、巨大な魔力の反応へと。
白い煙が覆う先にある反応は、俺の接近と共に強大になっていった。
まるで俺を威嚇するかのように。
だから俺も、魔力を上げ始めた。
だが、何か変だ。
強大な……魔力?
白い煙の先に見える赤い瞳を見ながら、俺は首を傾げたのだった。
次回:「その445 炎龍」




