その435 ライゼン
2020/11/29 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
これはどこかの大貴族の屋敷――だった場所だろうか。
広大な敷地からして、かつてここにいた貴族がどれだけ権力を持っていたのかがわかる。
まったく、今日はこれからギャレット商会の事を調べようと思ってたのに、思ったよりも早くライゼン学校長が尻尾を出すもんだから、急遽予定を変更せざるを得なくなった。まぁ、餌をまいたのは俺だけどな。
他の監視者が聖騎士学校の授業全てを監視する中、ライゼン学校長だけは俺の授業だけを監視していた。狙いがミナジリ共和国にあるのであれば、ジェイルにも目が向くはずだが、ライゼン学校長は俺だけを視ていた。
その熱視線を向けてくるのが美少女なら嬉しいのだが、相手はゴリッゴリの爺さんだ。本当に困ったものだ。
しかし、あの小屋……一体何がある?
「【探知】に反応無し。地下に潜ったな? なら【魔力探知】か」
直後、俺は眉を顰める事となる。
……何だこの反応の数は? 百……いや二百はいるんじゃないか?
となると正攻法で侵入するのは難しいか。
「ん?」
俺は遠方に、小屋付近一帯が視界に入る高台を見つけた。
そこに【魔力探知】による反応がいくつか確認出来たのだ。
「ふむ……まぁいつも通りだな」
まず、小屋周辺をうろつき、遠方の監視者たちを挑発する。
当然奴らはこれを警戒する。
やって来た男は、下っ端感溢れるむさくるしい男だった。
だが、気になる。下っ端にしては保有している魔力が中々に高い。
「おい貴様、ここで何をやっている?」
当然、俺は【チェンジ】で顔をおっさんに変えている。
テーマはそう、ルークが老けたらどうなるか。である。
「内見です。こちらの土地の保有者の許可を得て見に来たんですよ」
「そんな話は聞いてないな?」
「はぁ? 話は通してるので上の方に聞いてください」
「聞いてないって言ってるんだ」
「そもそも貴方どなたです?」
「くっ!」
名前を言えない時点で怪しい。まぁ、人の事言えないけどな。
俺は男を無視しながら小屋に近付く。
「へぇ、こんなところに小屋が――」
「――そこに近付くんじゃねぇ!!」
と、勢いよく襲ってきたので、
「ウワー」
監視ポイントから死角になる方へ逃げ、その死角までやってきた監視者その1を……こう、キュっと。
そして俺はその男の血をペロっとし、【チェンジ】を発動。
これで監視者その1に化けた俺は、監視ポイントへと移動。
皆を油断させ、一人ずつペロペロしていくと、とある情報を入手した。
「ヒミツキチ! え、本当っ?」
「……はい」
監視者のリーダーから得た情報によると、ここはライゼン学校長による秘密基地なのだと言う。
あの年で秘密基地とは好感の持てる爺さんだ。
まぁ、内容は兎も角な。
「つまりお前たちは聖騎士になれなかった者の中で優秀だったと」
「はい。聖騎士学校は卒業時点で聖騎士、及び騎士の称号を得ます。しかし、その座を不服として聖騎士学校から去る者も少なくありません」
「まぁ毎年出るだろうな」
「えぇ、貴族とはいえ、そういったはみ出し者たちは家の恥さらし。そこに現れたのが、ライゼン校長です」
なるほどな。つまりここはライゼン学校長の私兵たちがいる基地という事か。
確かに監視者にしては実力者揃いだ。
全員ランクA乃至Sに近い実力を有している。
……失われし位階ではないみたいだし、こいつらは一体?
「お前の身分でライゼン学校長の下へ行けるか?」
「可能です」
「ならお前たちは引き続き仕事をしていろ。俺は小屋へ入る」
監視者リーダーの顔へと【チェンジ】した俺は、小屋の中へと入った。
石造りの小屋の内部は、簡素に造られており、床はなく地面が続いていた。
まぁ、地下を造るならこれが正解か。
掘り起こされた地面から梯子が見えた。
そこから降り、地下へと足を踏み入れると、そこには坑道のような道に出た。
通路を木材で補強し、人一人がギリギリ通れる程度の道。
しばらく進むと、広い空間に出た。
そこでは多くの者が食事をとっていた。
凄いな、ここだけで五十人はいる。
相手の身内に化けているとはいえ、目立たないように気配をおさえ、更に奥へと向かう。
横穴という名の部屋があり、そこには食糧庫だったり、備品室だったり木材に書き込まれていた。そんな中、足を止めざるを得ない部屋を見つけた。
「……資料室」
そこだけは扉まで造られており、鍵までついていた。
見張りこそいないものの、ここは常時解放という訳にはいかないのだろう。
周囲を確認し、壁抜けにより中へ入る。
多くの羊皮紙が見える中、ひと際目立つ資料を見つけた。
「……木簡?」
短冊状の木を連ねた記録媒体である。
まだまだ羊皮紙は高いから珍しくもないのだが、人間の胴回り程の木簡となると気にならざるを得ない。
中を少し覗いてみると、
「っ、これは……」
そこには多くの名前が書かれていた。
この組織メンバーの名前だろうか。それとも――?
全てを広げてみても結局は知らない名前ばかり。念のため記録し、【闇空間】に保存した。
そして紙の情報を見てみる事に。
そこで俺はライゼン学校長が何を調べているのかを知った。
「……何だこれ、シギュンの事ばかりじゃないか」
ようやく十日程休んでいた分が追いつきました。
明日からまた一話ずつ投稿致します。




