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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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420/930

その419 侵入活劇

2020/11/21 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

 ◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆


 おかしいです。


「アリスさーん、こっち。こっちですよー」


 あの存在X、一体何を考えているのでしょうか……。

 小声で私を呼ぶミケラルドさんは、ホーリーキャッスル内で私を誘導する。

 今は聖騎士学校の寮暮らしですが、私もホーリーキャッスルに住んで長いんです。目を瞑ったって法王陛下の部屋に行く事は可能です。

 けれど、今回はそうもいかないようです。

 あの人は何故か私に理由を話してくれませんが、何故私が人目を忍んでホーリーキャッスルに侵入しなくてはいけないのか。私はそれが疑問でなりません。


「ミケラルドさんっ」

「しっ」


 コツコツと響く足音。どうやら巡回の兵士がいるようです。

 陰から見れば、あの方は警護に熱を入れる素晴らしい兵の方。

 城内ですれ違っては挨拶をしていた優しい方です。それなのに、何故彼から隠れなくてはいけないのか。


「ふぅ、どうやら気付かれなかったようです。危うく首をキュっとするところでしたよ」

「絶対しないでくださいっ!」

「え、じゃあ気付かれた時、どうやって口封じするんですか?」


 何故、この存在Xはこんな整った顔でこんな恐ろしい事を言えるのでしょう?


「そもそも、何で隠れなくちゃいけないんですか……」

「だってアリスさんが壁を歩けないから……」

「普通の人は歩けないんです!」

「壁抜けも出来ないって言うし」

「それは最早(もはや)人外の領域です」

「聖女も似たようなものでは?」

「聖女は、人間の中でやってるんです!」

「あぁ、そういえばゴリ――あいや聖女は人間でしたね」

「今、ゴリラって言いませんでした?」

「さ、あそこを抜ければクルス殿の部屋ですよ」


 はぐらかし方が雑過ぎて尊敬する程ですよ、ミケラルドさん……。


「もっと敬ってくれてもいいんですよ?」

「その笑顔、どうにかなりません?」

「なりませんとも」


 駄目ですね、この人はもうそういう存在なんだと割り切るしかありません。


「……困りましたね」

「ソウデスネ」


 全然困ってなさそうですが、同意しておきましょう。


「この時間はアルゴス(、、、、)団長が陛下の部屋の見張りなんですね」

「へぇ、あの方が騎士団のアルゴス団長……」


 アルゴス団長――法王陛下が信を置く騎士団の団長です。聖騎士学校に通わず、己の鍛錬のみでSS(ダブル)に近い実力を有した騎士団最強の武人。

 引退も近いと言われるご高齢の方ですが、皆からの信頼もあり、聖騎士団からも一目置かれる存在。

 正直、あの方の目を()(くぐ)って陛下の部屋に入るのは不可能です。


「仕方ない、ここは囮を使いましょう」

「囮……ですか?」

「さ、アリスさんどうぞ」


 私は何のひねりもない囮でした。


「ちょ、ちょっと……どうすればいいんですかっ?」

「大丈夫大丈夫」

「わっ?」


 私はミケラルドさんにトンと背中を押され、アルゴス団長の視界に入ってしまいました。


「ちょっとっ?」


 振り返ると、そこには存在Xは既にいませんでした。


「む? これはアリス殿、法王陛下に御用ですかな?」


 流石アルゴス団長です。私に挨拶しつつも、警戒を怠っていません。

 私の挙動一つ見逃さないその眼力は、正に歴戦の騎士と言ったところでしょう。

 でも、それは当然の事。ここは世界の重鎮法王陛下の自室前。

 私が変装した闇人(やみうど)かもしれないという可能性を、アルゴス団長は頭に入れておかなければならないのだから。


「あ、えっと……その」


 とは思っていても、完全に焦ってしまっていて。

 上手い言い訳が思い浮かびません。これは……まずいかもしれません。


「アリス殿?」


 アルゴス団長の目つきが鋭くなった瞬間、法王陛下の扉が開いたのです。


「やはりアリスだったか。アルゴス、通してやってくれ」


 中から現れた法王陛下は、私の来訪を知っていたかのような物言いでした。


「はっ、では」

「し、失礼します……あはは」


 アルゴス団長の横を通り過ぎ、法王陛下の部屋に入る。


「アルゴス、この事は内密にな」

「かしこまりました」


 法王陛下の言い方は、誤解を招くのではないでしょうか?


「え?」


 部屋に入った瞬間、私は間の抜けた声を出してしまいました。

 何故なら、私の目の前には法王陛下がいたのですから。


「ではな」


 私の背にはアルゴス団長と話している法王陛下。私の目の前には額を抱える法王陛下。

 何故、この部屋に法王陛下が二人……? っ、まさか!

 後ろの扉が閉められると同時、私は横にずれて二人の法王陛下を見ました。


「……どちらがミケラルドさんですか?」


 額を抱えてる法王陛下が、大きな溜め息を吐いて言いました。


「はぁ……どっちだと思う?」

「……誤解を招くような言い方をした……こちらの陛下でしょうか」


 扉側にいた法王陛下が、ニヤリと笑う。

 あ、このあくどい笑顔はミケラルドさんです。


「まったく、後でアイビスに何て言えばいいのか……」


 そう言いながら椅子にどっと腰を下ろした法王陛下。


「『法王陛下、自室に聖女を招き入れる! まさかの熱愛発覚!?』この見出しでクロード新聞に出しても?」

「絶対許さん」


 いつの間にかルークの姿に戻っていたミケラルドさんが、恐れ多くも法王陛下をからかっています。

 法王陛下は私を見ながら言いました。


「いきなり現れたかと思ったら私の姿に化けて扉を開けたのだ。まさかアリスが来ていたとはな」

「す、すみません。まさかこんな入り方をするとは思わなくて」

「アリスが謝る事はない」


 陛下が私を気遣い、


「そうです、誰も悪くありません」


 一番悪そうなミケラルドさんが爽やかに場を濁します。

 これからここで、どんな話があるというのでしょう。

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