その41 戻ってまた災難
本日二話目の投稿です。ご注意ください。
「え、えーっと、大丈夫?」
「あなた誰!? 何で私縛られてるの!?」
そう聞いてくるって事は、連れ去られてからずっと気を失っていたという事か。
とりあえず状況説明くらいはしておくか。
「俺は冒険者で――」
「――誰か! 誰かいないの!」
「あの、話を――」
「――助けてぇえええええ!」
「おい、俺の話を――」
「――嫌ぁああああああああっ!!」
という状況だ。どうしようもなかったので、血を舐めて黙らせた。今日だけで随分安くなったな、血の連鎖。
「いいか、お前は俺が助けたの。盗賊に連れ去られてたの。このままじゃ奴隷として売られてたの。俺は命の恩人なの。わかった!?」
「……ありがとうございます」
「ヒール。それじゃあもう一回いってみよう。はい」
俺は少女の腕についた傷を回復させた後、彼女の呪縛を解く。
覚醒した少女はじっと俺を見て、もじもじしながら言う。
「あの、出来れば、これを解いて欲しいのです」
「あぁ、そうだったな。縄を切るから動かないでね」
「はい」
ふむ、感情の昂りが原因だっただけで、普段は大人しい子みたいだな。
それに、どこか気品のある動きだ。やはりお嬢様?
「それで、君の名前は?」
「レティシアですわ」
ぽんぽんとスカートを払った少女はそう名乗った。
「おうちがどこかわかる?」
「リ、リーガルにありますわ」
という事は、都から来たのか。
しかし、今口籠ったのは何故だったのだろう。
「それじゃあ、一旦シェンドの町の冒険者ギルドに報告しなくちゃいけないから、その後はギルドの人に聞こうか」
「……はい」
一瞬、不安気な顔を浮かべたレティシアだったが、その理由は俺にわからなかった。
「それじゃあ、よっと!」
「ひゃあ!? な、何しますのっ!?」
「え、町までレティシアの足で歩けば五時間はかかるよ? こうやって抱えた方が数十分で着くから」
「ば、馬車はないのですかっ?」
いるのかな、馬車を使う冒険者。
まぁ、何を言われようが気にしちゃいけない。
何故なら俺は今、リィたんとの競争の真っ最中なのだから。
「ない。それに、盗賊の親玉も連れて行かなくちゃいけないから、これでも譲歩はしてるつもり」
左腕にレティシアを抱え、右肩でチャックを担ぐ。
「で、でもっ」
「ほら、走るよ。掴まって!」
「みゃあっ!?」
猫みたいな声出したな。
しかし、そんな悲鳴も束の間。しばらくすると、その速度に驚き、慣れ、やがて流れる景色を興味津々という様子で見ていた。
「す、凄いですわ……」
「ほら、舌噛むぞー」
「大丈夫ですわ!」
へぇ、もしかしたら内面は活発な子なのかもしれない。
上流社会って、落ち着きのない子にする躾とか厳しそうだし。
予定していた時間より少し早かったが、俺たちは無事シェンドの町に着く事が出来た。
そのまま、冒険者ギルドに向かおうと思った瞬間、俺は変な集団に囲まれてしまった。
「そこのお前! レティシア様を放せ!」
威厳のある髭を蓄えた、中々にダンディな中年の男が俺の前に立ちはだかる。背は高く、覆っている魔力もそこそこある。ランクCの冒険者クラスの実力はあるだろうな。
そいつの部下なのか、甲冑を着た兵たちが背後まで回り込む。
「レティシア、知り合い?」
「し、知りませんわ!」
めっちゃ怪しい。ぷいってそっぽ向いたぞ。
「知らないって言ってるんだけど?」
「いいからレティシア様を放せ!」
「そういう訳にはいかない。これから冒険者ギルドに報告に行くんだから」
「貴様、冒険者か! 道理で生意気だと思ったわ!」
やばい、超面倒臭い。
別に冒険者の地位を蔑まれても俺の気にするところじゃないが、進路を阻まれるというのはストレスが溜まる。
そう、俺はとても急いでいるのだ。
「ギルドまで同行すればいいじゃないですか。俺は盗賊討伐で――」
「――盗賊だと!? 冒険者以下だな!」
凄い曲解もあったもんだな。説明の余地も無しか。
人間、頭に血が上ると何言っても駄目って事だな。
「それじゃあ、冒険者ギルドで待ってます」
全てが面倒になったので、俺はそのまま民家の屋根の上に跳び、屋根伝いに冒険者ギルドへ向かった。
「あ、あの……!」
「なんだよ?」
「よ、よろしかったのですか?」
「そりゃこっちの台詞だよ。どう見てもレティシアの知り合いだろ、アレ」
「うぅ……」
そう言ったっきり、レティシアは口籠ってしまった。
何か理由があるのだろうが、話してくれないとなるとどうにもならんな。
流石に罪もない人に呪縛で聞き出すってのも嫌だし。
冒険者ギルドに着いた俺は、事のあらましをネムに伝える
「って事があったんですよ。はい、この子とこいつ、お土産です」
「うぇえ? あ、あのミケラルドさん? もう盗賊討伐が終わったんですかっ?」
「俺がこれだけ説明して拾ったとこ、そこ!?」
「えっとさっきから色々大変でして私もてんてこまいなんです。ご、ごめんなさい」
そんな真っ直ぐ見つめられて謝られると、何も言えなくなってしまう。
「何かあったんですか?」
「えっと、その。このギルド支部では珍しくランクBの冒険者が誕生したものですから、慣れない手続きがあったりで……」
やばい、絶対リィたんだそれ。




