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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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414/917

その413 少しの信頼

 陽が沈み、最早(もはや)夜と言っても過言ではない時刻。

 正規組はボロボロになりながらも聖騎士学校へと戻った。

 身体は疲弊し、顔に色はない。

 だが、彼らの中で何か変わったという事は確かだった。

 教室でじっと待つマスタング講師が、じっと俺たちを見る。


「……驚いたのであーる。これだけの人数が全て三匹のゴブリンを倒したのであるか」


 皆が討伐部位のゴブリンの耳が入った布袋を置き、自席へと戻る。

 戻った後も座る事はなく、立ちながら皆の報告完了を待っていた。


「うむ、見事である! 本日は全員最高得点である!」


 そんなマスタング講師の言葉を聞き、ようやく彼等は解放された。

 大きな溜め息を見せ、自席へどっと身を預けたのだ。

 それを見たマスタング講師はふっと笑い、教室を出て行った。


「明日に疲れを残さぬように! 失礼するのであーる!」


 最後に、そう言い残して。

 隣の席でぐったりと疲れているレティシア嬢が、頬を机に預けながら俺を見る。


「冒険者の方々っていつもあんなに大変な事をしているのですね……」

「生きるため、強くなるために必死ですからね」


 俺が苦笑しながらそう返すと、レティシア嬢の姿を見たルナ王女が顔を(しか)める。


「レティシアさん、それは淑女とは言い難い姿ですよ」

「はい……でも身体に力が入らなくて……」


 逆らった訳ではない。いつもレティシアならピッと姿勢を正し、ルナ王女の言う事を聞くはずだ。これを怪訝に思ったルナ王女が俺を見る。

 俺がレティシアの顔を覗き込むと、その理由がわかった。


「魔力の酷使による魔力欠乏症ですね。レティシアお嬢様、立てますか?」

「……うぅ」


 なるほど、返事すらままならない状態という事か。

 俺に気付かせず、ここまでよく頑張ったものだ。


「レティシアお嬢様、失礼します」

「ふぇ? っ!」


 俗に言うお姫様抱っこというやつだ。

 事実、貴族の令嬢は全て姫と言える。以前にもレティシアを抱えた事があったが、こう人前となると恥ずかしいものだ。皆の視線がとても痛い。

 冒険者組が先に帰っててよかった。ナタリーにこんな姿見られてたら、向こう十年くらい話のネタにされそうだ。


「ルナ殿下、行きましょう」

「え、えぇ。そうですね」


 珍しくルナ王女の顔が赤い。風邪だろうか。


「うぅ……」


 レティシア嬢の顔はもっと赤い。

 顔から火魔法でも発動出来そうな赤さだ。

 しかし、ルナ王女が赤くなる意味がわからない。これは一体どういう事だ?

 がしかし、寮に戻る途中、何か考え事をしながら歩いていたルナ王女の言葉により、俺はその意味を知った。


「……そうですよね。婚約(、、)しているんですものね。これくらい普通ですよね」

「は?」

「貴方とレティシアさんの事です。事前にそういったお話があったと父から聞いています」

「は?」

「確かにあの場ではレティシアさんを部屋へお連れする事が最優先。こういった選択肢が最適だという事も理解出来ます。けれど、耐性のない方々を前にあのような行為は、少々問題というか、目の毒というか目の保養というか……あ、決して羨ましいとかじゃなくてですね。物事には適切な対応というものがありまして、私はその事について言及してるだけであって、深い意味はないのです」

「は?」

「あ、もう部屋が見えました! あそこ、私の部屋です。ご存知でした? 私の部屋なんです! それではっ!」


 ……は?

 最終的にレティシア嬢と同じくらい顔を赤くしたルナ王女は、俺から逃げるように部屋に戻って行った。存じ上げるも何も、隣の部屋で尚且(なおか)つ毎朝顔を突き合わせているのに。


「はぁ~……」


 俺は深い溜め息を吐いた後、レティシア嬢を部屋まで連れて行った。

 終始無言なこの茹蛸(ゆでだこ)様は、俺の首に手を回し、離れようとしてくれない。

 ……入るしかないか。


「失礼致します」


 部屋に入ると同時、フローラルというかファンシーな香りが俺の鼻腔を通った。一括りで言うならば、全男子が思い描くような女の子の部屋というべきだろうか。

 しかも公爵令嬢。姫君であらせられる。

 いくら俺が元首とはいえ、サマリア公爵(ランドルフ)が聞いたら頭部から(つの)が生えそうだ。


「レティシア、おろすよ」


 姫の自室だ。態度を元に戻すも……、


「……私の知らない腕力ですね」


 レティシアの万力は俺の首から離れてくれなかった。


「あの、レティシア?」

「よよよ」


 昭和の姫かよ。

 どうやらある程度は回復したようだ。先程より元気があるのは、道中、レティシアを抱えながら俺が魔力の調整をしていたからだ。魔力を他者へ与える事は出来ない。しかし、外部から魔力を照射してやる事により、その波を一定にし、調整を図る事は可能だ。


「マスタングさんの言葉からして、夜の抜き打ち訓練はないと思いますけど、自主練しないと明日以降が(つら)いですよ」

「はーいっ」


 言いつつも、レティシア嬢は俺を離してくれなかった。

 だが、部屋に迫る足音が、その力を緩めさせたのだ。

 ここは姫の部屋。小国の王とまで言われる公爵の娘の部屋なのだ。

 だが、部屋の扉は思い切り開かれた。

 レティシアの部屋に入れる人物で、存在感だけで俺を圧倒出来るハーフエルフ(、、、、、、)は一人しかいない。


「れ~てぃ~し~あ~?」


 ミナジリ国のナの字(、、、)である。

 ダークエメラの血をしっかり受け継ぎ、ダークナタリーへと変貌していらっしゃる。


「ひゅっひゅ~」


 そんな圧力を受けつつも、レティシアはヘタクソな口笛を吹いていた。

 とても面白い公爵令嬢である。


「……貴族の寮に乗り込んでくる冒険者も珍しいな、ナタリー」

「ミック、外で、『待て』よ」

「あ、はい」


 マスタング講師から少なからず信頼を得た正規組だったが、それとこれとは別の話で、彼等も彼等で青い春を謳歌しているのだ。

 そんな中の一幕として、ナタリーとレティシアの密会は、俺の中の記憶に深く残った。

 まぁ、そんな事より自己紹介をさせてくれ。

 世界の名だたる名士、君主が認めるミナジリ共和国の元首ミケラルド・オード・ミナジリ――そう、何を隠そう俺の事である。

 そしてまたの名を番犬ミック。ナタリーの命令には逆らえない元首とは俺の事だぜ。

次回:「その414 リザードマンの授業」

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