その395 真・世界協定3
2020/10/20 本日2話目の更新です。ご注意ください。
「え?」
俺が素っ頓狂な声を出していると、ブライアン王はニヤリと笑った。
「知れた事、その方が世界が楽しいと思っただけよ」
ブライアン王が拳を握り言い切った。
すると、法王クルスが笑いながら言ったのだ。
「はははは、国を代表する王の言葉とは思えぬが、確かにそれには同意しよう」
「楽しい、か。民を想う気持ちはあれば、我々の仕事は国家の発展。その仕事に対し精力的になれるのであれば、重要な要素だろうな」
ガンドフのウェイド王も同じ考えか。
仕事に楽しさを見出すのは賛否両論あるかもしれんが、ただの義務ではなく、精一杯出来るのであれば、それは一つの正解なのだろう。まぁ、国民には大きな声では言えないけどな。
ブライアン王が座り、次の話に移るべく、法王クルスがシェルフのローディ族長を見た。
「真・世界協定にはどのような仕組みが必要か。ローディ殿はどう思われる?」
ローディが立ち上がり、一つ間を空けてから話し始めた。
「元々世界協定は誕生した魔王や魔族に対し、対策、対応を講じる世界規模の機構。当然、運転資金、運用資金が必要です。だからこそ、各国は勇者が誕生した国に対し、支援金を支払ってきたかと思います」
この中で、元世界協定に参加していたのはリーガル国と法王国のみ。
両王が頷き理解を示す。
「それでは過去と同じく、勇者に責を、勇者出身国に富を与える結果となるやもしれません。ならば、支援金ではなく積立金と寄付により、有事の際に使う金銭を用意しておく、というのが私の考えです」
画期的……とまでは言わないが、堅実だな。
ウェイド王が口を尖らせローディに言う。
「ほぉ、それは面白い。がしかし、その積立金はどこに集める? 一国に集めるのであればそれはやはり先の問題と同義。皆を信じてはいるが、私腹を肥やす輩がいないとも限らぬぞ?」
ウェイド王の言葉にローディが頷く。
「当然、それは危惧すべき事です。それに信用などという言葉だけで語れる程、世の中は甘くありません。ならば、各国にあり、信用で運営している場所に管理を任せればいい」
「っ! そうか、冒険者ギルドか」
ウェイド王の気付きと共に、法王クルスが唸る。
「ううむ、確かに歴代勇者が身を寄せるのは冒険者ギルド。彼等ならば金の動かし方や経費計上にも慣れているし、既存のシステムが利用出来る。更には、各国からの集金も円滑に出来るだろう。アーダインも来ているし、都合もいいかもしれないな」
◇◆◇ ◆◇◆
という事で呼ばれたアーダイン君。
「可能だ。まぁ、金の管理をする以上、手数料は頂く事になるだろうが、冒険者ギルドとしても悪い話じゃない」
◇◆◇ ◆◇◆
という訳でご退室頂いたアーダイン君。
「ミケラルド殿、先程から発言がないが……何かあるかね?」
法王クルスの言葉により、俺は立ち上がる。そう、椅子の上に。
しかし、同時に法王クルスが噴き出した。
「ぷっ」
「そこ、笑わないように!」
「ははははは! いやすまん。まさか椅子の上に立つとは……ははは」
「床に立ったら皆さんの足と話す事になるんですよ」
「生憎、我らの足には口が付いていないからな」
まったく、ああ言えばこう言う法王だ事。
「気を取り直して……まず、【真・世界協定】をという機構を設けるにあたって、その根本である部分の見直しも必要かと」
俺が言うと、ブライアン王の片眉が上がる。
「と言うと?」
「世界協定は原則、世界的危機に対する……そうですね、大部分は魔王復活に備えたものです。だからこそ勇者に対する支援が必要となる。しかし、世界的脅威はそれだけではないはずです。【真・世界協定】に組み入れたい要素として、まず勇者支援が一つ。それ以外には大規模災害に対する復旧支援と、他の外的要因から起こる被害対応でしょうか」
この提案に対し、ローディ族長が顎を揉む。
「ふむ、大規模災害というのは竜巻や台風、火山の活性化や大雨による被害という認識でいいのでしょうか?」
「えぇ、他にも地震や作物の不作に対する支援ですね」
尤も、こちらに寄生転生してから地震なんて滅多にないけどな。
「確かにこれまでは。個人でそれを成してきました。しかし、それだけでは決して抗えぬ壁もあります。中には職を失った者もいるはず。それを救済する機構として、【真・世界協定】を利用したいと……」
ローディ族長が法王クルスを見る。
皆、難しい顔をしているが、悪い方向では考えていないようだ。
すると、ウェイド王が俺に言った。
「ミケラルド殿。先の提案、最後の『外的要因から起こる被害対応』というのは?」
「何も魔王ばかりが脅威ではありません。Z区分に該当する強者は世界各地にいます。噂によると、Z区分は龍族だけではないみたいですし」
「うむ、五色の龍と霊龍。それ以外には魔王と覚醒した勇者。また、特殊個体として【フェンリル】や【ヘルワーム】などの脅威も報告されている。国家規模の被害を受ける事がないとは言い切れないな」
ウェイド王も、やはり法王クルスを見た。
別に法王クルスの機嫌を窺っている訳ではない。
あの目は「私は賛成だが、法王はどうだ?」と聞いているのだ。
票をとらなくとも、賛成者の人数がわかるだけで進行役はやりやすいからな。
ブライアン王からの視線を受け取ったところで、法王クルスがコホンと咳払いをした。
「何とも、面白い試みとなるやもしれんな」
次回:「その396 真・世界協定4」
 




