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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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392/917

◆その391 シギュンの底

 法王国の中枢――ホーリーキャッスルにある練武場。

 騎士団、聖騎士団問わず己を磨く(すべ)として用意されたそこは、日夜多くの騎士、聖騎士が集っている。

 しかし、今回は違った。

 神聖騎士のシギュンが、先に練武場へ向かったのには理由がある。それは当然、リィたんとの試合に備え、練武場を空にするためだ。

 だが、場内が空というとそうではない。

 周囲を取り囲むように練武場を見据える騎士、聖騎士。その中にはミケラルドと面識のあるストラッグもいた。


「っ、皇后様!」


 ストラッグが皇后アイビスの登場に気付き、皆膝を突く。

 アイビスが小さく手をあげる。


「よい、楽にせよ」

「「はっ!」」


 アイビスの後ろを歩いて来るのは四人のパーティ。

 それがオリハルコンズであると、皆はすぐに理解した。

 練武場の中央で静かに(たたず)むシギュンが、アイビスを前に手を胸に置く。

 人知れずその中央に向かう女が一人。

 黒髪長身の女が持つは刃を潰した巨大な剣。

 女の名はリィたん。光魔法【歪曲の変化】により姿こそ変えているものの、その戦闘力は健在である。


(ナタリーから魔導書(グリモワール)に入れてもらった【歪曲の変化】、中々に優秀だな。がしかし、この私が人目を偲んでコソコソと動き回るとは……ふっ、昔の私には想像が出来ないだろうな)


 自身に向けられたその笑みを、シギュンはそう受け取らなかった。


「この場で笑うだけの胆力はあるようですね」

「場にそぐわなかったか?」

「この私を前に……という状況でなければ」


 微笑みこそ見せるシギュンだが、目は笑っておらず、歪みすら見せる魔力は、今にもリィたんを狙うかのようだった。


「風貌に似合わぬ魔力だ。さぞや生きるのに苦労している事だろうな」

「あら、同情でしょうか?」

「いや、もっと苦労している者を知っているからな」


 ピクリと反応するシギュン。


「……それは、どういう意味でしょうか?」

「もっと強い者を知っていると言ったつもりだ」

「ふふふふ、それは本当に人の身?」

「あぁ、まごう事なき、人だ」


 その会話を拾ったアリス。


(一体誰の事でしょう? ミケラルドさん? でもあの方は魔族。いえ、リィたんさんならミケラルドさんをそう言ってもおかしくないかもしれません)


 練武場にある傾斜に備え付けられたベンチから、眼下に映る二人を見るオリハルコンズに緊張が走る。

 アイビスが通る声で言う。


「さぁ、妾にみせておくれ。態度に見合った実力を」


 アイビスの言葉と同時、両者の魔力が高まった。


「「おぉ……!」」


 驚きを露わにする騎士、聖騎士たち。

 しかし、その中で一番驚きを見せたのはシギュンその人だったのだ。

 目を見開き、リィたんの魔力を凝視する。


(何のつもりか知らないけれど、大言壮語(たいげんそうご)という訳でもないようね……でも!)


 シギュンが細剣(さいけん)を構える。


「所詮はその程度……っ!」


 駆けるシギュンの速度は、オリハルコンズの面々に理解させた。


「「速いっ!」」


 そう、日頃強者を見慣れている冒険者に刻み込んだのだ。

 ――神聖騎士の強さを。


「ふっ!」


 一直線にリィたんに突き放たれた一撃。

 リィたんはこれを大剣の面で受けた。


「くっ!?」


 吹き飛ばされるリィたん。

 しかし、リィたんの着地点には既にシギュンが回り込んでいたのだ。

 リィたんは宙を振り払う事で減速を掛け、着地点をずらす。


「やりますね、しかしそれでは聖騎士団では中堅もいいところですよ?」


 ニヤリと笑ったシギュン。

 リィたんが着地と同時に駆ける。


「はぁっ!」


 今度はシギュンが受けに回った。

 上下左右無数の斬撃も、シギュンは細剣で華麗に捌いている。


「ふふふ、力任せの荒々しい剣。冒険者の方に貴方のような方がいたとは驚きです。ランクはSかしら? 確かにランクSの中では相手に困るかもしれませんね」


 これを見ていたアリスが違和感を覚える。


(おかしいです。確かにシギュン様の実力は凄いですけど、リィたんさんの実力がこんなものだとは……? いえ、存在X(そんざいエックス)はリィたんさんに「底を見定めろ」と。だったら、リィたんさんは今、シギュン様の実力を精査している……!?)


 アリスが答えに至った時、シギュンは反撃に移ろうとしていた。


「攻撃にも飽きてきましたね。ではこちらからも――」


 正にその時だった。


(っ!? 速度が上がった?)


 そう、リィたんの手数が増えたのだ。


「……だからどうだというのです。この程度――っ!?」


 更に。


(嘘っ!? まだ上がると言うの!?)


 これを凝視していたオリハルコンズのハンが目を細める。


「遠目で見えない動きって何だよ?」

「どんな矢でも遠方から見れば補足する事は出来る。しかし、リィたん(ソフィア)殿はそれを凌駕していると言わざるを得ないな」


 ラッツの説明の後、シギュンの受けに綻びが生じる。


「くっ!」


 これまで全て受け流していた攻撃を、まともに受けてしまったのだ。剣越しとはいえ、力を流すのではなくその全てを受けてしまっては、身体に負担がかかる。

 リィたんの攻撃は、速度は勿論、威力も上がっていたからである。


「ちょ、調子に……のるなぁ!!」


 シギュンが荒々しく叫んだ直後、聖騎士たちが驚きを露わにする。

次回:「◆その392 秘技」

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[一言] どうでもいいけど大剣って質量で叩き潰す武器だから刃があろうがなかろうが大差ないよね
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