その385 リーガル国境
「まさかそのような事が起こりえるとは……」
【看破】能力の落し穴を知ったクリス王女。
そしてその驚きは、聖騎士団に悪人がいる事に向けられていた。
「確たる証拠はない。だが、アイビスが勇者の剣を造りにガンドフへ向かった時、聖騎士団は動かなかった」
法王クルスの言葉を聞き、俺はあの輸送任務の事を思い出していた。
そうだった。アイビスを護衛した時、動いていたのは「法王国騎士団アルゴス団長直轄第二部隊」。隊長のストラッグが確かそう言ってた。
今考えてみれば、世界の命運を分けるとも言える勇者の剣の制作だ。慎重に事を運ぶにしても肝心要の護衛の質が……低いと言わざるを得ない。まぁ、ストラッグには悪いがな。
だからこその剣鬼オベイルと、俺だったのだろうが、それこそ冒険者を雇わず身内だけで済ませる方が楽だというものだ。
「確か、あの時付いた護衛は騎士団の一部隊と剣鬼、それと……ぁ」
クリス王女の声がか細くなり、消えた。
もしかして俺を思い出したのか?
あぁ、そうか。クリス王女と戦った時は、俺がミナジリ共和国の元首って知らなかっただろうからな。【テトラ・ビジョン】の魔法で俺の素性を知ったからこそ、俺に無礼を働いた事を思い出してしまったのか。
「そうだ、クリス。アイビスが今生きてるのはミケラルド殿のおかげと言える」
と、言いながら俺をチラ見する法王クルス。
ニヤついた目でこっち見るな、気色悪い。
仕方ない、話題を元に戻すか。
「因みに、聖騎士団は何故動かなったのですか?」
俺の問いに、法王クルスが顎に手を添える。
「……聖騎士団は法王の盾。片時も私から目を離せない……などと言っておったな」
「それなら仕方ないですね」
「であろう?」
と、俺と法王クルスが思ってもない三文芝居をしていると、クリス王女が立ち上がった。
「そんなはずはありません! そもそも聖騎士団は、勇者を守る盾として結成された組織です! 事実、聖騎士学校でそう教えています!」
「だそうだ、ミィたん殿?」
「それならおかしいですね」
と、俺の一瞬の掌返しに気付いたクリス王女。
ハッとした様子で俺たち二人を見る。
「……わざとですね?」
「私の意図を考えるよりかは楽だったろう?」
「陛下、怒りますよ?」
「はははは、ミィたん殿。娘に反旗を翻されてしまった。どうすればいいかな?」
「是非嫌われてください」
「そ、それは嫌だ!」
今度は法王クルスが立ち上がってしまった。
広いはずの馬車内がやたら狭く感じるのは気のせいだろうか。
何なのこの親子、面倒臭い。
「ご自分に正直な御父上ですね、王女?」
「私としては、陛下とここまで打ち解けて話されているミィたん殿に疑問です」
似た者同士なもので。
俺は微笑みをクリス王女に返すと、法王クルスがコホンと咳払いをしてから座る。
「ま、まぁつまり。我々は小遣いの中から冒険者を雇わざるを得なかったという事だ」
小遣い、ね。
聖騎士団に悪が潜んでると踏んだ以上、国庫から冒険者を雇っては目立つ。
だからこその小遣いか。ホント、こういうところは尊敬するよ。
「が、それも筒抜けだったという事だ」
「どういう事です、陛下?」
クリス王女が聞くと、
「雇った冒険者は剣鬼オベイルと、ラビット殿」
法王クルスがそう答えた。
そうだった、俺は代わりにやって来たんだった。
「そして、アーダインが手を回し、依頼をラビット殿からミケラルド殿へ変えたのだ」
へぇ、そんな裏があったのか。
「ラビット殿はランクSの実力者ではあるが、代理で来たミケラルド殿は龍族が一目置く程の傑人。アーダインが急遽代理を用意した事で何が起こったかわかるか?」
「……護衛の質が上がりましたね」
「その通りだ、クリス。そして、御者の闇人が行動に移った。情報通りでない敵を相手にな」
「っ! そういう事なのですね、陛下! 本来の戦力であれば、闇ギルドの作戦は成功していた。けれど、ミケラルド様がいた事により。護衛は情報と違う戦力になっていた……!」
言い換えれば、アーダインが手を回す直前までの情報は、闇ギルドに筒抜けだったという事だ。
まぁつまりそういう事だ。本来であれば、オベイルとラビットは死んでいたのだろう。サブロウ、イチロウ、ジロウの実力を考えれば不可能ではない。
だが、俺が三人の襲撃を防いだ。だからこその強硬策で、魔族と闇ギルドが一斉にガンドフに向かった訳だ。
今回の話で色々な出来事の裏の部分がわかってきたな。
聖騎士団……ね。探りを入れたいところだが、聖騎士学校入学の時期になるまでは控えるべきだろう。
◇◆◇ ◆◇◆
それからは何事もなく、本当に何事もなく二日が過ぎた。
リーガル国の国境まで、もう間もなくといった地点までやって来た俺たち。
モンスターも聖騎士団のヤバさがわかるのか、ある程度近付きはするものの、襲って来たりはしないようだ。
聖騎士団――今回の護衛任務に就いた者は二百人程だが、その誰もが勇者エメリーに近い実力を有している。
そう、全員ランクSだ。
モンスターも正直、こんな一団に近づきたくないだろう。
そんな事を考えていると、馬車の扉がノックされた。
外から聞こえるアーダインの声。
『見えたぞ、リーガル国境だ』
さて、もう半日もあればミナジリ共和国に着く。
何事も起きなければいいが。
次回:「その386 アイビス皇后の護衛」




