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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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345/917

◆その344 渦中

『クロードさん、準備は?』

「はい! 問題ありません! エメラにナタリー、カミナさんも動いてくれてます!」

『おっけ~、ありがとうございます。急な指示変更の中助かります』

「いえ、とても素晴らしい案かと」

『あはは、後は奴が乗れば……!』


【テレフォン】越しにミケラルドと話していたクロードがいた場所は、リーガル国の首都リーガルにある、ミケラルド商店だった。

 店外から聞こえる喧噪(けんそう)。それは、ミケラルドが用意していた策が成った事を知らせる合図とも言えた。

 外に出たクロードが向かう先には、首都リーガルの広場。

 そこにいたのは、冒険者ギルドの長ディック、ドマーク商会のドマーク。

 ディックはクロードを見つけるなり近寄って来た。


「クロードさん、だったな」

「これはディックさん、お久しぶりです」

「ミックのヤツ、今度はこんな魔法作ったのか?」

「さぁ、どうでしょう」

「知ってるよ、それもミックの指示だろ? まったく、何で答えのわかった情報を伏せたがるかねぇ、アイツは……」


 呆れるディックにくすりと笑ったクロード。

 その後ろには、ドマークが歩み寄っていた。


「正に情報の革命ですな、これは」

「これはドマークさん」


 クロードが小さく頭を下げると、ドマークは顎を揉みながら広場の中央を見上げる。


「これは一体何という魔法何でしょう?」


 目を光らせたドマークが聞くと、額を掻いたクロードが言う。


「そうですね、私も風の噂でしか聞いた事がないのですが――」


 ディックとドマークがその続きに注目する。


「――【テトラ・ビジョン(、、、、、、、、)】。確かそんな魔法名だったかと存じます」


 クロードが見上げる四面の【映像】。それは今現在、ミナジリ共和国の外れで開戦の(とき)を迎えようという、ミケラルドとゲオルグ王を映していた。東西南北に映像が映し出され、広場に集まった全ての人間がそれを見上げていた。


『……ゴミが』

「「っ!?」」


 同時に聞こえてきた音声に皆が驚く。


『もしかして私の事言ってます?』

『お前以外に誰がいる?』

『どうも、ゴミです』


 そしてそれは、リーガル城内でも起きていたのだ。

 謁見の間に敷かれた一枚のマジックスクロールにより、映像が映し出されていた。

 それを見たブライアン王が鋭い目つきのまま言う。


「ゲオルグ王め……これを我が国民が見ていると知れば、そのような言葉は吐けなかっただろうが、ふふふ、相手が悪かったな」


 ニヤリと笑うブライアン王。


『お前は何か勘違いしている』

『……参考までに聞きましょう』

『勇者は兵器、それは変わる事のない事実だ。農民に(くわ)を持たせ魔王に立ち向かわせるのか? 幻想だ。無理に決まっている。やがて一国の武力を超える一個の存在。これを兵器と呼んで何が悪い? 人間の尊厳? 笑わせる。奴隷は商品であり道具だ。使えなくなれば捨て、また買えばいい。聞いているぞ? お前もドルルンドの町で大量の奴隷を買っているという話だが?』


 このゲオルグ王の言葉を聞き、ブライアン王の心は決まった。


「【テレフォン】を持て。シェルフのローディ殿と話がある」


 配下にそう命じたブライアン王の動きは迅速だった。

 すぐにシェルフの族長ローディに【テレフォン】を発動すると、


『連絡が入ると思っておりましたぞ、ブライアン殿』


 ローディはその連絡を確信していたのだった。

 何故ならば、【テトラ・ビジョン】はエルフの国シェルフにも配置されていたのだから。


「あぁ、一つ案がある」

『えぇ、私もです』


 ◇◆◇ ◆◇◆


 同時刻、法王国の広場では。


「あれが、ミケラルドさんの本当の姿……」


 ランクA冒険者パーティ【緋焔(ひえん)】のメンバーであるキッカが、ごくりと喉を鳴らす。


「おいおい、こんな魔法見た事ねぇぞ? 一体何だこれ?」

「ハン、静かに」


 同メンバーであり、リーダーのラッツがハンの言葉を止める。

 そして、その後ろで【テトラ・ビジョン】を見上げるのは……聖女アリス。


「……ミケラルドさん」


 胸元に置かれた拳に力が入る。

 ミケラルドの魔族としての真の姿。これに臆した訳でもない。そして悲しい訳でもなかった。聖女アリスは、ただただミケラルドの無事を願うばかりだった。

 たった十日。それだけにもかかわらず、自分の殻を砕いてくれた男こそミケラルド。願わないはずがなかったのだ。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「はっはっはっは! こんなに笑ったのは幾年(いくねん)ぶりか!」


 法王国のホーリーキャッスルでは、法王クルスが豪快に笑っていた。


「これかえ? 昨日クルスの枕元に置かれたという置き土産は?」


 玉座の隣に座る皇后アイビスが、法王クルスを見る。

 嬉々とした様子の法王クルスは、満面の笑みで一通の手紙を見せる。


「差出人不明の手紙だっ!」

「子供のようなはしゃぎようだの」


 呆れるアイビスが目を伏せ溜め息を吐く。


「これがはしゃがずにいられるか、アイビス! 変わる! これを機に世界が大きく動くぞ!」

「やれやれ……シェルフ、リーガル国、そして法王国。あの者の事だ、ガンドフにも送っているだろう。勿論、リプトゥア国にも……」

「はっはっはっは! 流石はミック!」

「これ、名前を出すでない! 何のための差出人不明じゃ!」

「皆の者! 箝口令(かんこうれい)を敷くぞ! はっはっはっは!」


 ミケラルドによって新たに作られた魔法【テトラ・ビジョン】は、皇后アイビスの読み通り各国へ送られていた。

 シェルフ、ミナジリ、オード、リーガル、マッキリー、シェンド、サマリア公爵領、ギュスターブ辺境伯領、法王国、ガンドフ、ドルルンド、そして――敵国の首都リプトゥアに。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ミケラルドが巨大なトンネルを造り、ゲオルグ王が異変に気付き本国へ引き返している頃、首都リプトゥアでは大きな騒ぎが起こっていた。


「どうするんだよ! ゲオルグ王が魔族に喧嘩売ったんだぞ!? ミナジリ共和国がいつ攻めてきてもおかしくない!」

「何言ってんだよ! あの人が言ってた事は至極まともで、ゲオルグ王の発言は最悪だったじゃねぇか! 俺はミナジリへ行く!」

「そうだ! 大体俺は奴隷制度にゃ反対だったんだ!」

「勇者を殺そうとした王だ!」

「闇ギルドと繋がりがある国だ!」

「こんな国願い下げだ!」


 騒然とする中、疲れ果てながら歩く奴隷の少女が一人。

 皆の話が白熱するあまり、一人の男がよろめく。奴隷の少女がその男にぶつかり、倒れてしまう。


「ぁ……っ! うぅ……」


 バタリと倒れ、瞳に涙を浮かべる少女。

 そこへ差し伸べられる温かく、そして優しい手。


「大丈夫?」


 母性溢れる女の声は、すぐに少女の涙を止めさせた。

 少女は女の手を掴み、しゃがんだ女は少女をゆっくりと立たせた。


「あ、ありがとう。お姉さん」

「いいえ、どういたしまして」


 微笑んだ女に、少女も釣られて笑う。

 そこへ、気の強そうな女が一人やって来る。


エメラ(、、、)、大体終わったよ。ん? その子は?」

カミナ(、、、)、この子も」


 少女の傷だらけの手を優しく包み、エメラはカミナを見上げる。

 カミナは奴隷の少女を見るなり、腰を落とし、声を落とした。


「ねぇ君、奴隷のお友達はいる?」


 少し考えた少女がコクコクと頷く。


「それじゃあ、出来るだけ皆に伝えて」


 キョトンと小首を傾げる少女。


奴隷の王(スレイブキング)からの伝言だよ」


 直後、少女はカミナの言葉の意味を知る。

 少女にとってそれは、希望溢れる光の魔法(ことば)だったのだ。

 これは、ミナジリ共和国の元首ミケラルド・オード・ミナジリが、リプトゥアの地へと転移する……ほんの五分前の話である。

これが、ミケラルド式プロパガンダ・x・


次回:「その345 救世主」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 各国へ撒いた種の発芽、良きですねぇ
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