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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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335/917

◆その334 一騎当千

「じゃあお前たちは下がってろ。どっちに(、、、、)って言わなくてもわかってるだろ?」


 そう言いながら解放された奴隷たちを横切ったのは、剣鬼オベイル。

 剣闘士含む奴隷たちは皆顔を綻ばせ、要塞へと向かう。要塞はいつの間にか変化していた。なかったはずの大階段があり、要塞の外壁へ(のぼ)れるようになっていたのだ。皆がこれに上っている頃、ゲオルグ王は、ホネスティからある物を受け取っていた。

 それに気付いたミケラルドがゲオルグ王に言う(、、)


『あ、気付かれちゃいました?』


 そう、ゲオルグ王がホネスティから受け取ったのは【テレフォン】の魔法が込められたマジックスクロール。そして、マジックスクロールを渡したはずのホネスティは、まだ何枚もマジックスクロールを持っていたのだ。

 だが、それだけではなかった。やはり自軍の至る場所からミケラルドの声がまだ聞こえるのだ。それは回収し切れぬ程の【テレフォン】のマジックスクロールが、まだ残っているだけの事。


(これか……あの時の違和感の正体は……!)


 マジックスクロールを強く握り潰したゲオルグ王は、ミケラルドと直接会って話した後、騎士団や奴隷たち、冒険者たちからの視線に違和感を覚えていた。本来、数百メートル離れた場所で話した内容が、後方にいる自軍に届く事はない。


 しかし、その内容が自軍に届いてたとしたら……。


 明確な答えこそ示さなかったが、ゲオルグ王は認めてしまったのだ。

 勇者を軟禁した事、自分本位な侵略行為である事、リプトゥア国軍ほぼ全員からの信頼を失するような発言を、全て聞かれてしまっていたのだ。

 ゲオルグ王が部下に聞く。


「何故、止めに来なかった?」

「回収だけで精一杯。いえ、それでも時間が足りませんでしたが、これだけの数です、陛下にも聞こえているものかと皆思ったのでしょう」


 百以上にも及ぶ【テレフォン】ともなれば、ミケラルドとの会話中、ゲオルグ王の耳に多少の動揺が届いてもよかった。しかし、それをさせなかったのが水龍リバイアタンこと、リィたんである。

 リィたんはゲオルグ王の背後に風魔法【エアウォール】を展開し、空気振動――(すなわ)ち音声を遮断したのだ。

 ゲオルグ王付きの騎士が更に集めて来たマジックスクロール。これを足せば、実に二百枚を超えていた。


(集められた限りで二百枚以上。しかし、既に奴隷共はあちら側。一体どれだけのマジックスクロールを用意していた? いや、そうではない。これだけの数、一体どうやって……!?)

「どうやら騎士や馬、奴隷や冒険者の持ち物、身体、武器に不可視されて張り付けられていたようです。おそらく、全てに光魔法【歪曲の変化】が施されていたのかと」

『で、発動と同時に見えるようになった訳です』


 淡々と説明をし、遠目に見えるミケラルドを、闇人(やみうど)の騎士ホネスティが睨む。


(恐ろしい能力。これはギルド通信であって、ギルド通信ではない。つまり、ミケラルドの魔法技術はこれを量産出来るだけの能力。だが、それだけではない……!)


 ホネスティは自分の持っているマジックスクロールを睨む。


(……いつ張り付けられた?)


 そう、ホネスティが持っていたマジックスクロールは(おの)が身に張り付けられていたもの。ランクAを超える実力者ホネスティの身に、気付かれずにマジックスクロールを張り付けられる実力者。


(それだけで一騎当千、いや……それ以上の能力を有している。五万一千の目を欺きながら、これだけの事をしでかせる人物……!)


 それ程の者がリプトゥア軍内に潜んでいた。ホネスティはそれが疑問でならなかった。


『いやぁ、大変でしたよ』

「「っ!?」」


 ゲオルグ王、ホネスティはミケラルドのその言葉だけで理解した。

 リプトゥア国軍がミナジリ共和国へ出立した日、剣神イヅナはミケラルドに聞いた。


【リプトゥアへの草はおらなんだか?】


 そして、その返答としてミケラルドはこう答えたのだ。


【さっき仕込みました】


 イヅナはそれを文字通り受け入れたが、それが全てであり、全てではなかった。その後、ミケラルドはエメリーに言ったのだ。

『自分の目や耳で見聞きした方が面白いじゃないですか』と。ミケラルドはリプトゥア国軍に草を忍ばせた。しかし、それが一体誰なのか。その全てを語らなかったミケラルドには理由があった。


((奴自身が草だったというのかっ!?))


【気配遮断】や【静音】等、隠形で役立つ多くの固有能力を持つミケラルドにとって、リプトゥア国軍に忍び込むのは容易な事だった。【チェンジ】を使い顔を変えて奴隷となり、冒険者となり、騎士となった。そして、持っていた【テレフォン】入りのマジックスクロールを、多くの者に張り付けたのだ。


『やっぱり、この時代、情報共有って大事ですよね。あ、コホン。このメッセージは五秒後に自動的に(ちり)となります。では』


 ミケラルドのその言葉より五秒後、【テレフォン】入りのマジックスクロールは砂のように塵と化し、風に攫われてしまったのだった。

 震えるゲオルグ王は戦場を睨み、怒りを露わにした。


「奴らを出せ……!」

「はっ!」


 早くも切り札を出さざるを得なくなった、ゲオルグ王。

 しかし、その顔には未だ余裕が残っていたのだった。

次回:「◆その335 闇人」

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[良い点] いいように奴隷の王に踊らされる愚王 万全を期したつもりが掌の内だったという 自国の実力者にすら気づかれない内に貼られて拡散された情報で士気はガタ落ちでしょうね [気になる点] ミックは相手…
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