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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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330/917

◆その329 動き出す闇

 暗闇の一室。

 ほんのりと光る水晶体。冒険者ギルドが秘匿とする【ギルド通信】。

 だが、これを扱うのは冒険者ギルドだけとは限らない。

 光在りし時、また闇も在る。

 巨大なギルド通信(水晶)の前に立ち、男が口を開く。


「ワシゃ、相手にZ区分(ゼットくぶん)がいるとは聞いとらんかったぞ?」


 鋭き視線の(おきな)

 男の名はサブロウ。

 かつてガンドフで、ミケラルドと二度戦った闇ギルドの猛者(もさ)である。


『当然です。サブロウ殿には別の者を相手して頂きますから』


 ギルド通信から聞こえてきた声は、若く穏やかな女の声だった。


「誰じゃ?」

『勇者エメリー』

「っ! 仮とは言え勇者の剣を手に入れたんじゃ。地力も上がっとるじゃろ。確かにワシが叩けるのは今の内。だが、勇者が戦争に参加すると?」

『しようがしまいが関係ありません。ミナジリ共和国にいる勇者エメリーに恐怖を』

「恐怖? 殺すのではないのか?」

『復唱を』

「……相変わらずじゃな。【エレノア(、、、、)】」

『復唱を』

「……相わかった。ミナジリ共和国にいる勇者エメリーに恐怖を植え付けよう」

『ふふふふ、いいでしょう』


 不満こそ顔に見えるものの、サブロウがすんと鼻息を吐く。


「で、肝心の化け物たちはどうするんじゃ?」

『目には目をという事です』

「ほう、【拳鬼(けんき)】と【拳神(けんじん)】を動かすか。随分と大きな手札(カード)を切るな。だが、Z区分(ゼットくぶん)は?」

『私は既に答えを示したはず』

「どういう事じゃ?」

『間もなくリプトゥア軍がドルルンドの町を経由する事でしょう。サブロウ殿はこれに加わり指令通りに』

「……わかった」


 ギルド通信(水晶)の発光が止み、相手との通信が切断した事を知らせる。

 サブロウは目を落とし、ギルド通信の相手――エレノアの言葉を思い出す。


 ――私は既に答えを示したはず。


(目には目を? Z区分(ゼットくぶん)に匹敵する存在? まさか【魔人(まじん)】を? いや、奴はここ数年依頼を受けていない。だとすれば一体誰を……?)


 一室の扉を開け、光が差し込む闇の部屋。

 サブロウが振り返りギルド通信を訝し気に睨むも、それは静かに闇を(たた)えるのみだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 一方その頃、行軍するリプトゥア軍に同行する冒険者たちは。

 噂として出回ったミナジリ共和国の戦力を聞き、動揺が広がっていた。


「おい、聞いたか……?」

「あぁ、【三剣】がミナジリ共和国に付いたって話だろ?」

「じゃあ、やっぱり勇者エメリーが軟禁されてた話はマジか?」

「だからといって正義はリプトゥア国にあるだろ。世界協定の決まりなんだし」

「……剣聖レミリアの強さ知ってるか?」

「当然だろ。やり合った冒険者の剣を三枚におろす(、、、)ところを見たよ」

「それ、剣聖が武闘大会で初めて覇者になった時だろ? あれから二年だぞ?」

「それより剣鬼だ。『ヤツの鬼剣(きけん)は超危険』なんて言われるくらいだ。振っただけで家が倒壊するって聞いたぞ」

「だとしたら剣神だろ。柔剣、剛剣なんでもござれ。攻撃は全て急所の絶命一直線の一撃。そして何より伝説のパーティ【聖なる翼】の一員だった男だぞ」


 不安を覚える男と、恐怖に顔を引きつらせる男が見合って喉を鳴らす。


「次の休憩で抜けるぞ」

「それが正解だよな」


 互いに頷く冒険者たち。そしてそれは至る場所で起こっていた。

 冒険者の伝説を知る者たち。それは同時に、強さの果てにいる冒険者を知っている証。

 行軍の中央に位置する黒馬に跨った大男――ゲオルグ王に近づくのは騎士ホネスティ。

 馬を隣につけ、ホネスティがゲオルグ王に言う。


「陛下、どうやら冒険者の中から離反者が出始めているようです」

「開戦の前に点呼を取れ。いなくなった者の名は後程報告せよ」

「なるほど、粛清ですか」

「当然だ、臆病者はいらん。我が国にも、この世にもな」

「……しかと承りました」


 ホネスティが目を伏せ下がると、ゲオルグ王が後方を歩く奴隷たちを見やる。


(噂が広まるのが早い。冒険者の中にミナジリ共和国の草が忍び込んでるな。だが、だからと言って奴隷たちをどうにか出来るとも思えん。ドルルンドで闇の者と合流すれば我が軍は更に増強される。……待っていろミナジリ共和国。人の波が全てを呑み込んでくれる)


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ミナジリ共和国が魔族国家。

 その情報が届いた法王国では、法王クルスと皇后アイビスが自室で沈黙を貫いていた。何度か茶を口に運び、無音広がる一室、長く続いたその沈黙を最初に破ったのはに法王クルスだった。


「どう思う? ミケラルド殿が魔族だとして」

「知らぬ」

「まぁ、君ならそう答えるよね」


 椅子に寄りかかり、予想通りの答えに苦笑するクルス。


「ただ」


 しかし、皇后アイビスの答えには続きがあった。法王クルスが予想だにしない続きが。


「ミケラルド殿と出会い、アリスは変わった。自分を出す事を恐れなくなった」

「……確かに」

「感じるぞ」

「何が?」


 すると、皇后アイビスは自らの手を見つめ、ゆっくりと握っては開いた。


「一日、また一日と(わらわ)から【聖加護】の力がなくなっている」

「っ! 本当か!」


 驚きの余り、立ち上がる法王クルス。

 静かに頷いた皇后アイビスは、夫である法王クルスを見据え、ただ事実を述べた。


「ミケラルド・オード・ミナジリはリーガル国とシェルフを繋ぎ、ガンドフに押し迫る魔族を追い払い、勇者の剣を勇者エメリーに届けた。そして、聖女アリスをからかうためだけに妾への貸しを惜しげもなく使った。それが事実であろう? 過去に偽りなき人生。これからの未来を疑うのかえ? 我が夫らしくもない」


 それを聞いた法王クルスは目を丸くする。

 そしてまた椅子に腰かけ、頬杖(ほおづえ)を突いて小さな溜め息を吐いた。


「……確かに」


 先程とは少しニュアンスの違う同じ言葉。


「それと」

「ん?」

「クルスに少し似ている」


 つんとした態度の皇后アイビスであるが、これを見た法王クルスはポカンと口を開け、しばらくの(のち)ニヤリと笑った。


「それって、アイビスのお気に入りって事だろ?」


 法王クルスは答えを予測していた。

 いつまでも返って来ない、沈黙という名の答えを。

次回:「◆その330 法王国にて」

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