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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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327/917

◆その326 深夜

「……ふぅ」


 色の伴う息遣いに、ミケラルドの顔が少し赤くなる。

 隣に座るディックに耳打ちをするミケラルド。


「ニコルさんアルコール抜きの蜂蜜酒(ミード)って言ってたけど、あれ、絶対アルコール入りですよね?」

「俺はニコルを信じてる」

「酒臭い息で言われても説得力皆無なんですけど?」

「それだ」


 ディックはミケラルドを指差して言った。


「へ?」

「説得力がねぇ」

「ディックさんの言葉に主語もねぇーっすけどね」

「明日はミナジリ共和国の運命を決めるかもしれない大事な一日だ。それなのに何だ? 顔には余裕すら感じられるじゃねぇか」


 ずいとミケラルドを指差すディックに、ネムが便乗する。


「あ、それ私も思ってました。相手の戦力は未知数ですよね? こちらにいくらリィたんやイヅナさんがいるとしても、相手の戦力を考えたら厳しいんじゃないのかなーって」

「ネム」

「はい? 何でしょう、ディック様」

「冒険者ギルドは?」

「絶対中立、です」

「今、何つった?」

「へ?」

「『こちらに』とか言ってなかったか?」


 瞬間、ネムが両手で口を押える。

 やれやれと額を抱えるディックに、ミケラルドが肩を竦めてから言う。


「私には何も聞こえませんでしたよ」

「そら何よりだ」

「ネム、交代して」

「ふぁい……」


 ニコルがネムの席へ、ネムがカウンターに入る。

 ニコルはネムに仕事をさせないと危ういと判断したのだ。


「それで、ミケラルドさん。その余裕の正体は一体何です?」


 ミケラルドの隣に腰掛けたニコルが聞くも、ミケラルドは硬直したままだった。


(ニコルさんが隣に座った途端、ぼったくりバーみたいな空間になったな)

「おい、ミック」

「うぇ? あぁそうですね、あと一人来る予定なんですよ」

「あと一人? それって誰の事だよ?」


 ディックが聞くも、ミケラルドから答えは返って来なかった。

 返ってきたのは、三人の背後から。


「俺様の事に決まってるだろ」

「「っ!?」」


 目を見開くネム、ギョッと驚くディックとニコル。

 振り向いた先には、ひと際大きな身体とトレードマークの黒い甲冑。何やら大きな荷物を抱えている。

 そして、鍛え上がったばかりのバスタードソードは、男の身の丈と然程変わらないものだった。


「……マジか」


 驚くディックだが、当のミケラルドは蜂蜜酒(ミード)を呑み、男に背を向けたままだった。

 ニコルとネムは、その男の顔を知らなかった。

 だが、その圧倒的な風格と存在感が、二人の口を(つぐ)ませたのだ。


「剣鬼オベイル……」


 ディックがその名を口にした時、ニコルとネムが驚きを(あら)わにする。


「剣――」

「――鬼……!」


 そう、現れたのはSS(ダブル)の冒険者である剣鬼オベイルだった。

 ディックが立ち上がり、オベイルを見上げる。


「お、どっかで見た事あるな。お前、ギルドマスターだろ?」

「あ、あぁ……リーガルとミナジリのギルドマスターやってるディックだ」

「はははは、俺様は物覚えがいいんだ。嬢ちゃん、冷えたエール入れてくんな」

「は、はい!」


 ネムが慌ててグラスを用意していると、ニコルが立ち上がり、ミケラルドの隣の席をオベイルに譲った。


「悪いな」

「いえ……」


 それきり、ニコルは声を出さなかった。いや、出せなかったのだ。

 それだけではなかった。ネムの手も震えるばかりだったのだ。


「オベイルさん、挨拶にしては剣気が強すぎます。もうちょっと抑えてくださいよ」


 そんな空気を破ったのは、やはりミケラルドだった。


「知らねぇ冒険者ギルドに入る時は、いつもこうしてんだよ。俺は」

「それは威嚇する人がいるからでしょう。今は私たちだけです」

「そういえばそうだな。他の連中はどうした?」

「避難ですよ」

「避難? 勿体ねぇな」

「そう思うのはオベイルさんくらいですよ」

「戦力は?」

「私、リィたん、ジェイルさん、イヅナさん、剣聖レミリアさんと勇者エメリーさん。後、私の隣に座ってる人です」


 ミケラルドがそう言うと、ディックが慌てて席を立つ。


「…………そりゃ避難もするか」


 ミケラルドの隣に座ったままだったのは、オベイルのみ。


「けど、よろしいんですか? 賞賜(しょうし)なんて出ませんよ?」

「オリハルコンの甲冑でいいぜ」

「今、出ないって言ったばかりだった気がします」

「材料は用意した」


 ドンとカウンターに置かれたオベイルの荷物。

 その中身は、これまでの話から誰もが予想出来た。

 荷物をひっくり返したオベイルがニカリと笑う。


「途中、気になってな。リプトゥア国に寄ったんだ。お、サンキュー嬢ちゃん」

「いえ!」


 (エール)をオベイルに渡すネム。


「オリハルコンの塊が出現するのは確かガンドフのダンジョンだった気がします」

「それでよ、この珍しいタイミングでリプトゥア国を離れる冒険者パーティを見かけた。【緋焔】ってパーティだが知ってるか?」

「その顔はもう確信してるじゃないですか」

「そういう事だ。あいつらも気付いてたぜ、依頼主がお前だって事をな」

「……それは意外ですね」

「で、だ。緋焔のメンバーが付けてた武具を見てな。確信したぜ」

「何をです?」

「ミナジリ共和国に良い鍛冶師がいるってな」

「呆れました。確信してないのに、こんなにオリハルコンを用意したんですか?」

「俺様の勘はよく当たるんだ」


 何を言っても響かないオベイルに、ミケラルドは難しい顔をしながら口を結んだ。


「先払いでもいいからな」

「まったく……ホント、良い勘してますよ」


 椅子から立ち上がったミケラルドは、カウンターに散らばるオリハルコンの塊を、風魔法を使い中空へ持ち上げた。


「まさかっ!?」

「腕の良い鍛冶師って……!」

「ミケラルドさんっ!?」


 これまでの話を聞いていたディック、ニコル、ネムがばっとミケラルドを見る。ニヤリと笑うオベイルは、エールを一気に飲み干し立ち上がる。

 オリハルコンが赤く溶け、周囲に蒸し暑さを与えるも、それは一瞬の出来事だった。いつの間にか出来た甲冑は、正にオベイルが今着ている甲冑に瓜二つのものだった。


「色はサービスしときますよ」

「ありがとよ」

「ようやく話が通じましたね」

「今回は俺様の粘り勝ちってところだろ?」


 嬉しそうなオベイルが笑うと、溜め息を吐きつつもミケラルドも笑った。

 ポカンと口を開けたまま、ミケラルドを見つめたディック、ニコル、ネムは思った。


(ミックなら……もしかして)

(ミケラルドさんならもしかして……)

(リプトゥア国に……勝てるかもしれません!)

次回:「◆その327 夜明け」

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