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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

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320/917

その319 ミナジリ大会議4

 勇者エメリーの肩が震える。

 隣に立つ剣聖レミリアの俺を見る目がきつくなる。


「ミケラルド殿、それは流石に酷いのではありませんか?」

「えぇ、酷い事を言っている自覚はあります。そもそも、エメリーさんを連れて来たのは私ですからね」

「では何故っ?」


 レミリアがそう聞くも、俺は毅然とした態度でエメリーを見続けた。


「確認ですよ、レミリアさん」

「確認……?」

「ここに来たという事は、お二人共この戦争に参加するおつもりでしょう」

「それがわかっていて何故……」

「『魔族の手に落ちた勇者』」

「っ!」

「今後エメリーさんは多かれ少なかれそうやって(さげす)まれる事になります。勇者エメリーがミナジリ共和国の食客として戦争に参加した時、リプトゥア国は何と言うでしょう? 十中八九(じゅっちゅうはっく)、『魔族が勇者を操っている』等と吹聴(ふいちょう)し、軍の士気を上げる。しかし戦争が終わった時、勇者に課せられる汚名は? 私はこの段階で引き返さないとそれが付き纏うようになると言っているんです。勇者が味方するのです。当然、我々としては有難い申し出です。しかし、それに伴う対価は……エメリー殿、貴方にはまだ重いのではありませんか?」


 するとレミリアは、静かに目を伏せ押し黙ってしまった。

 そう、これはエメリーにしか決められない事。

 俺は彼女に選択肢を提示してやる事しか出来ない。


「……ミケラルドさん」


 俯きながら俺の名を呟くように言ったエメリーは、強く拳を握っていた。

 震える身体に震える声。彼女が絞り出した俺への質問は、意味のわからない事だった。


「私は……何でしょう」

「……随分と抽象的な質問ですね」

「私は、人間ですか(、、、、、)?」


 益々意味がわからなかった。だが、はっきりと答えられる事はある。


「いいえ」


 直後、エメリーの表情が暗くなる。


「では、私は一体何なんでしょう……」


 俺は深く溜め息を吐き、超巨大なブーメランを彼女に投げた。


「三歳の私が言うのも何ですが……子供(、、)ですよ。半人前です」


 怒ったのだろう。エメリーの震えがピタリと止まった。


「そもそも、一人前の大人ならここで私に質問せず、イヅナさんのように自分で自分の行先を決められるんです。半人前も半人前。半端者ですよ」

「そう……ですか」


 気のせいか、その言葉に怒気は感じられなかった。

 怒りを通り越して冷静になったのか。そう思うや否や、エメリーはついに俺を見たのだ。

 おかしい。何だあの表情は?

 何がおかしいのかエメリーは俺を微笑みながら見ていたのだ。


「では、私がいる場所はこちら側です」

「へ?」


 けちょんけちょんにけなしたというのに、何故エメリーは微笑み、ミナジリ共和国への協力を申し出たのだろう。

 首を捻る俺に、エメリーは言葉を続けた。


「リプトゥア国のゲオルグ王は、私を【兵器】と呼びました」

「「っ!?」」


 儚く微笑んだエメリーの口から聞こえたソレは、俺にとって吐き気のするものだった。ナタリーは絶句し、エメラは顔を(しか)め、レミリアに至っては額に青筋まで立てていた。

 十四、五の乙女に何て事ぬかすんだ、リプトゥアの王は。


「ミケラルドさんが言う通り、私は……子供です。剣の腕をいくら磨こうとも、中身は子供。半人前です」


 エメリーは少し俯き、恥ずかしそうに、少し嬉しそうにそう言った。

 そして顔を上げ、力強く続けた。


「でも、私は兵器じゃない! 兵器じゃないんです! 半人前が……半人前がいいです!」


 そう、涙を堪えながら。


「だから、だから私は……こっち側がいいです……」


 涙を拭うエメリーの肩をレミリアが抱く。

 レミリアは何か言いたげな様子だったが、何故か俺に目を向けた瞬間、そんな様子は霧散していた。


「これ、ボン」


 イヅナが俺に何かを伝えた。まるで俺を(いさ)めるような物言いだ。


「何か?」

「抑えよ。私はともかく、上の従業員に失神者が出るぞ」


 一瞬、イヅナが言っている事が理解出来なかった。

 その答えを示したのはドゥムガだった。


「へっ、何ちゅう重圧(プレッシャー)だよ……! それとその顔。今からリプトゥア国に行って王の首でも摘んで(、、、)来そうな顔だな」


 俺はリィたんに向き、質問した。


「……もしかして魔力漏れてた?」

「殺気と怒気と一緒にな」

「……………………これは失礼しました」


 俺が静かにそう言うと、ジェイルとイヅナの言葉が被った。


「「これは、面白くなってきたな」」


 互いの視線が合わずとも、一瞬空気が凍ったのを皆感じ取った事だろう。

 俺は一度深呼吸してからエメリー、そしてレミリアを見た。


「ではお二人にもこの戦争に参加して頂きます。ご助力感謝致します」

「はい!」


 エメリーが元気よく返事をし、


「今はミナジリ共和国に身を預けているだけの事。それに、ミケラルド殿。感謝はこちらの台詞です」

「え?」

「これで私は、また強くなれる」


 何とも向上心逞しい剣聖様だ事。

 俺が苦笑してレミリアを見ると、その後ろのドアが大きく開かれた。

 入って来たのは、ミナジリ邸の門番――ダイモン。


「失礼しやす、旦那!」

「ダイモン? どうしたの?」

「屋敷の【テレフォン】に入信! リーガル国のブライアン王からです!」


 なるほど、リプトゥア国が周辺諸国に圧力を掛け始めたか。

次回:「その320 警告」

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