◆その313 魔王×勇者×おっさん=?
「【魔王】の魔力と、【勇者レックス】の肉体を使ってミックを呼び寄せた……」
驚愕したナタリーに、スパニッシュが肩を竦める。
「おかしな話だ。高貴な魂を呼び寄せたはずなのに、あんな間抜けの魂が宿るとはな」
「ミックは間抜けじゃない」
間髪容れずにリィたんが反応する。
「あれ程、周りの信頼に応えられる存在はいない」
ジェイルがリィたんの言葉を紡ぐ。
「……うん、それだけは言える。ミックはあなたが思うよりずっとしっかりしてる」
最後に、驚きから立ち直ったナタリーがスパニッシュを見据えて言う。
「半端者共に愛されし半端者か。なるほど、類は友を呼ぶとは言うが、昨今は群れにまで発展するのか。ダイルレックスのはみ出し者――ドゥムガもいるようだしな」
「ほぉ、先の一戦で気付いたか」
「見縊ってもらっては困るなジェイル。我を誰と心得る?」
「生憎、権力に囚われただけの男に興味はない」
「権力?」
スパニッシュが目を丸くさせ、わざとらしく驚いて見せる。
「まさか我々魔族四天王が権力争いをしていると思っているのか?」
「……どういう意味だ?」
「トカゲの頭でもわかりやすく言ってやりたいところだが、こればかりはそちらに情報を渡す事は出来ん」
スパニッシュがそう言ったところでリィたんが怪訝な顔つきになる。
「ずっと気になっていた。何故ここまでミックの事を易々と話した?」
「この屋敷、何かおかしな点はなかったか?」
首を傾けながら言うスパニッシュに、リィたんが言う。
「暗い」
ジェイルが言う。
「陰気だ」
ナタリーが続ける。
「生乾きの臭いがする」
リィたんに戻る。
「あと暗い」
リィたんの言葉の後、震えていたスパニッシュが怒鳴る。
「それはもう言っただろう! どいつもこいつもミケラルドのように言いおって!」
「ミックならもっと酷い事を言うと思うぞ」
ジェイルが呟き、
「『悪趣味という言葉すら高評価』とか言いそう」
ナタリーが補足し、うんうんと納得する。
「言うな」
「言いそうだ」
リィたんとジェイルも理解を示す。
「くっ、高尚なデザインを理解出来ない知性の持ち主たちとは話が合わんようだな」
スパニッシュは三人に呆れ、深く溜め息を吐く。
すると、リィたんがスパニッシュに聞く。
「こんな寂れた屋敷に一人とは確かに不可解だ。まるで我々が来る事が予めわかっていたかのようだな」
鋭い目つきのリィたんにスパニッシュが微笑む。
「当然、わかっていた。まぁ、来るのはミケラルド本人だと思っていたがな」
「なるほど、屋敷の従者は別の場所に移したか、追い出したか……。ここに我々が来る事が外に漏れればそちらの立場も危うくなる」
ジェイルの推察を聞き、スパニッシュがやれやれと肩を竦める。
「先程も言っただろう。立場が恋しくてこうしているのではないと。龍族がいるのだ。屋敷を壊されてはかなわんだけの事」
「つまり、私たちを迎え入れたって事ね?」
ナタリーが言うと、スパニッシュがニヤリと笑った。
「左様。そちらとしては我に利用価値があろう? こちらとしてもそれを利用しない訳にはいかぬという事だ」
「……気に食わんな」
リィたんがハルバードを強く握る。
まるで誘い込んだと言いたげなスパニッシュの物言いに、納得が出来ないリィたん。当然、それはジェイルも同じだった。
「何が目的だ?」
「何も? ミナジリ共和国の重要人物たる三人。リィたん、ジェイル、ナタリーが、魔族四天王【吸血公爵スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエル】の屋敷にいる事が重要なのだ」
「何……だと?」
「はぁ!」
スパニッシュが放つ魔力の波。これによりナタリーが掛けていた光魔法【歪曲の変化】が解かれる。
目を丸くさせたリィたんと、困惑の表情を浮かべるナタリー。
するとジェイルが気付く。スパニッシュがまるで種明かしをしたかのように、闇魔法【隠蔽】を解いた事に。
「くっ! そこだ!」
ジェイルの剣は空間を裂き、その斬撃はスパニッシュの頭上へと向かった。
パリンと響く硝子が割れるような音。しかし、それは硝子ではなかった。
ジェイルの剣が割ったものとは――――、
「っ! やはりか!」
「おやおや、人界では高値でレンタルされているらしいぞ、この【水晶】は?」
「あれって【ギルド通信】!?」
ナタリーが驚き、ジェイルの顔が歪む。
「材料と口実が揃ってしまったな? 何、あれは特殊な【機材】だ。音こそ拾ってはおらぬ。ただ【映像】は送らせてもらったがな?」
ニヤリと笑うスパニッシュに、リィたんとジェイルが見合う。
「そうだ、一つ良い事を教えてやろう。数日前、冒険者ギルドにある情報が入ったと連絡がきた。当然、それはミナジリ共和国が抱える問題についてだ」
「……問題?」
ナタリーが聞く。
「出来たばかりの人口数千の国だ。何かと問題は多かろう。だが、人類の宝を魔族の国が抱えているとは世界の人間は知るまいて」
直後、リィたんが叫ぶ。
「っ! 帰るぞ!」
踵を返すリィたんにジェイルが続く。
そして、ナタリーがスパニッシュとリィたんの背を交互に見つつも、慌てて二人に続く。追いついたナタリーがリィたんに尋ねる。
「人類の宝ってもしかしてエメリーさんの事っ!?」
「それ以外にない! 屋敷を出たら転移ぶぞ!」
急ぐリィたんに余裕はなかった。
ナタリーがジェイルに聞く。
「ジェイル、あのギルド通信ってもしかして……」
「勇者を抱えているミナジリ共和国に対し、攻め入る口実を作った。つまり繋がっていた相手国は――――」
「リプトゥア国……!」
ナタリーがそう気付いた頃、リプトゥア国は既に開戦の準備を始めていた。
★S★E★N★S★O★U★D★A★
次回:「◆その314 リプトゥア軍」
 




