表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/917

その303 女の子の成長

「はぁああああ~~~~~……」


 地獄の底よりも深い溜め息だな。


「まぁ、その時がくるかどうかわからないので、忘れてくれても構わないですよ」

「忘れた頃にくるんだぁ……」


 ドジっ子の勇者エメリーとは正反対で、聖女アリスは冷静だな。


「聖女って大変ですね」

「代わってくれますぅ……?」


 正直、【聖加護】という能力だけならば、俺でも代わりは出来るだろう。

 だが、聖女には別の意味と役割があるように思える。


「無理ですねぇ」

「ですよねぇ……」


 たとえば、俺が勇者エメリーの後ろに立ち、魔王と対峙した時、勇者の力を完全に引き出せるか……と聞かれれば、YES(イエス)と答えられる自信がない。仮に俺が勇者と聖女の血を吸ったとして、それが成るとも思えない。

 この世界の根本、システムのようなものが、きっとそれを邪魔するのだろうというのが、俺の現段階での判断だ。

 魔王のライバルは、勇者。そして勇者の(そば)には聖女。

 これが崩れるとは思えない。

 これが崩れるような状況だとしたらそれは…………――。


「さぁ、打ち上げです。明日もこの流れでいきましょう」

「ダンジョンに潜ったり依頼消化したりするより、この戦略(ストラテジー)ゲームの方が疲れる気がするのは気のせいでしょうか……」

「いやぁ、どんどん成長しますねぇ♪」

「誰のせいなんでしょう、ホントに」


 おっと、聖女の視線が痛いぞ?


 ◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆


 ミケラルドさんと別れ、ホーリーキャッスルに帰るなり、私は皇后アイビス様に呼ばれた。

 厳格なアイビス様だけれど、どこかいつもと違うような、そんな印象を抱くのは気のせいだろうか。


「ランクSのダンジョンへの侵入を始めたそうね」

「はい、ようやくパーティが見つかりまして……」

「相手が一人でパーティかえ?」

「あ、いえ。そうなんですけど、私がいればパーティです、はい」


 あれ? 厳しい印象がない。

 ほんの少し笑っている? 一体何故?


「であれば、SS(ダブル)以上の冒険者かのう? その者の名は何と申すのじゃ?」

「はい、ミケラルドさんです」

「ほぉ、最近名を上げている(、、、、、、、)と聞くが、剣士かえ? それとも魔法使いかのう?」

「えーっと……たまに剣は使ってます。でも主な武器は手甲で……魔法もよく使いますね。話術も巧みで、臆病なのか豪胆なのか、本当によくわからない性格をしています」


 私がそう言うと、アイビス様はくすりと笑った。


(わらわ)はそこまで聞いておらぬぞ?」

「あ、いえ! す、すみません」

「じゃがそれでいい」

「へ?」


 すると、アイビス様は私の目を真っ直ぐ見てから微笑んだ。


「良いか悪いかは其方(そち)が決める事。もっとも、今は其方(そち)の心が先走って決めているようだのう」

「えっと……それは一体どういう意味でしょう?」

「かつての自分を思い出してみるがいい。妾が先のようにパーティメンバーの素性を聞いた時、其方(そち)はなんと答えた?」

「え? ……さっきみたいに――」

「名前以外は出てこなかったはずだがのう?」

「へ? そ、そうでしたか!?」

「なるほど、良いか悪いかはともかく、其方(そち)其方(そち)として見る冒険者のようだのう」

「あ……」


 そういえば私、ミケラルドさんに聖女とか子供って言われるの……嫌じゃない気がする。あれ? どうしてだろう?


「パーティとは()くあるべきものよ」

「どういう事なんでしょう……」

「本音と本音でぶつかりあい、時には衝突し、時には互いに認め合う。それが出来なければパーティではない。ただの寄せ集めよ」


 アイビス様がこんなに長く喋るの……初めてかもしれない。


「で、でもあの人の目には打算とかありますよ! 絶対!」

「ほっほっほっほ、良き駆け引きも出来ていると見える」


 笑った。

 あのアイビス様が、こんなに大きく笑った……。


「殻にヒビくらいは入ったようだのう」

「へ?」

「こちらの話よ」

「アイビス様を通り越してあっちに行ったりしてませんか?」

「左様、こちらの話よ」

「それは良かったです!」

「ふふふ、悪きパーティメンバーではないようだのう。どうじゃ? 楽しいか?」

「え? え? どうなんでしょう。ただ明日は三階層まで侵入するって言ってたし、それ以外にもモンスター討伐しますし、あ、後ゲームもするんですよ! これが物凄く難しくて性格悪くて、負けたら私に罰ゲームさせるって言うんです!」

「ほぉ、ゲームとな?」

「そうなんです! 土塊操作で作った土人形を壊してくだけのゲームなんですけど、それが何と動くんです! 私の身体にそれが触れたら私の負け、全部壊したら私の勝ちなんです! わちゃわちゃ迫って来る土人形を魔法か攻撃で壊すんですけど、数が二十体から三十体、三十体から四十体に増えていくから大変なんです! レベル4から二発入れなくちゃ壊れない土人形とか出て来て! あ、レベル3までは全部一発で倒せるやつです! 私それ言ってなかったですよね!? ()(かく)、レベル5からは迫って来る土人形の表情がいやらしくなって、手つきも何か気持ち悪いんです! 必死でそれを壊したのに、レベル6では土人形の顔を全部私にしたんです! ホント、趣味悪いですよ、あの人!」


 と、言い切ったところで思い出した。

 そうだった、私は今、法王国の皇后アイビス様の前にいるんだった。

 目を丸くしたアイビス様は、いつの間にか立ち上がっていた私を見上げ、一瞬の間の後……また大きく笑った。


「ほっほっほっほっ! 愉快だのう! これ程までに聖女アリスを熱くさせる者か! 面白い、面白いのう!」

「あの、私……変な事言っちゃって……すみません」

「よい、其方(そち)の成長が何よりじゃ。ふむ、そうだのう。……そのミケラルドの都合がいい時で構わぬ。妾の下にミケラルドを連れて参れ」

「……え?」


 その時、私は疑ってしまった。

 法王国の皇后アイビス様を。

 あの人をホーリーキャッスル内に入れるとか正気なのか? と。

 きっと私はその時、過去一番引きつった笑顔をアイビス様に見せた事だろう。

次回:「その304 ご招待」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
[良い点] >ただ明日は三階層まで侵入するって言ってたし、  ダンジョン攻略の事を侵入という言葉で表現しているところ。押し入っている感が凄い! 自らの異物感、この世界でのダンジョンの異質さが表れてい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ