その302 聖女ゴリラ計画
「ふふん、私の勝ちですね!」
胸を張り威張るアリスの胸は未来があるのかどうか、おじさんにはわからないところだ。
「まだレベル0ですよ」
「ぜろ!? 今の二十体でっ!?」
とはいえ、二十体全てを【ライトシュート】のみで撃ち抜いたのは流石と言える。
「最終的に五十体まで増えますよ?」
「ごじゅ!?」
「次は三十体〜」
「増え方がえげつないですよ!」
「そのうち跳んだりしますから、照準も狂うだろうなー」
「跳ぶ?!」
「はいスタート」
「嘘!?」
地面をスルスルと移動し始める土人形たち。
速度は一定だから、さっきとそう変わらない感じで終わるはず……。
「お、終わった……」
「あれ? お疲れです?」
「【ライトシュート】を三十回も撃てば疲れます!」
「だから戦略性が重要なんですよ。魔力と体力をうまく使い分けて、時には地の利を活かして倒さなくちゃ」
「む、難しいです……」
「次は四十体〜」
「まだレベル2ですよね!? このままだとレベル3で五十体じゃないですか! あ、その顔は3で終了じゃないですね!? 4以降は一体!?」
「楽しみですね♪ あ、負けたら罰ゲームですからね♪」
「聞いてないですけど!?」
「今言いました」
「後出しはずるいです!」
「はい、スタート」
◇◆◇ ◆◇◆
青春真っ盛り。そんな年頃の乙女が、大の字になりながら大空を見上げ、ブツブツと呟く。
「土人形が一体……土人形が二体……土人形が三体…………いやぁ……」
「と言う割には結構楽しんでましたよね?」
「だってゲームですからね……。でも途中から一撃じゃ壊れなくなったじゃないですかぁ……」
「調整が絶妙だったでしょ」
がばっと起き上がるアリス。
「跳びましたし!」
「宣告したじゃないですか?」
「太陽の光に隠れるのは想定外です!」
「敵が地の利を利用しないと?」
「むぅうううううっ!」
「レベル6の土人形は、後列が強化版なので、前列を倒した後は距離をとった方がいいですよ」
「え、動いてよかったんですか!?」
「ダメなんて言いましたっけ?」
「言ってないですけど……!」
「地の利を活かして倒せって言いましたよね」
「むぅうううううううっ!」
「じゃあ罰ゲームですね」
「はいはい! やればいいんでしょ!」
意外にここは素直だな。まぁ開き直っているとも言えるけど。
だが、一つだけ不可解な返答があった。
アリスは自分の肩を抱き、恥ずかしそうにこう述べたのだ。
「エ、エッチな事はダメですからねっ!」
失敬な。
俺は額に指を置き、過去の自分を思い出しながら言った。
「……何故、そういう発想に?」
「だってミケラルドさん、一緒に歩いてる時、女の人ばかり見てるじゃないですか!」
ほぉ、中々よく見ている。
「当たり前じゃないですか。男は綺麗な女性を見ると振り返るものですよ」
「そ、そういうものなんですか……?」
「全員が、とは言いませんけどね。大丈夫です、アリスさんがすれ違っても振り返りますから!」
全力のスマイルを送るも、アリスは顔を真っ赤にして反論するだけだった。
「そういう事を聞いてるんじゃないです! ……でも、そうなんだ」
「さて、罰ゲームなんですけど、内容は簡単です」
「嘘つき!」
脊髄反射レベルで言われてしまった。
何なのこのパブロフの犬みたいな返し?
「そんなに警戒しないでくださいよ」
「絶対簡単じゃないやつです!」
「内容も聞いてないのに……」
「じゃあ聞こうじゃないですか!」
「実は――」
「――嘘つき!」
うん、ちょっと面白かった。
「出来れば最後まで聞いて欲しいものですね」
「最後まで聞いたら、絶対私後悔します。いえ、寧ろ罰ゲームありのゲームを引き受けた事を後悔してます……」
よよよとへたり込む聖女も中々見ものである。
「あの時、早めに断ってれば……くっ」
だいぶ地が出て来たのだろう。おじさんとして、パーティメンバーとしては嬉しい限りだ。
腑には落ちないけどな。
「実は、特に罰ゲームなんてものは用意してなかったんですよ」
「えっ!?」
バッと顔を明るくするアリス。
「なので、いつか私が困った時、アリスさんが助けてくれればそれでいいです」
俺がそう言った瞬間、聖女アリスの顔から明るさが消え、色を失い、ハイライトが消え、目が死に、青ざめ、陰を帯び、俯き、希望を失い……え? どこまで落ちるの、この子?
「……参考までに、何故そこまで世界が終わったかのような顔になるのかお伺いしたいものですね」
「だって……だってミケラルドさんですよ……?」
まるで俺が概念かのような口ぶりだ。
「ちょっと難しかったですかね……?」
まるで俺のような口ぶりだ。
アリスは溜め息を吐き、俺を憐れむように見つめ、また溜め息を吐いてから言った。
「いいですか? ミケラルドさんは剣神イヅナさんを倒す程の超人なんですからね? そこんところしっかり念頭に考えてください。超人が助けを求めているところに、一般人である私が登場したところで何になるんですか?」
「アリスさんは聖女だったかと」
「そう、そこです!」
ずびしと俺を指差すアリス。
「聖女の立場を使わざるを得ない救助現場って事ですよ、ソコは!」
女の子ってのは、短期間で成長するもんなんだなぁ。と、改めて思うミケラルド君だった。
次回:「その303 女の子の成長」




